癒しの村

Yuri1980

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17.怪しい動き

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 私はその夜、アキヲと部屋に入り、それぞれが布団に入ると、こっそりと今日の草原の家であったことを話した。 

 月が雲に覆われて、少しの灯りもない夜だった。

 アキヲは眠そうに目をこすりながらも、真剣に耳を傾けている。

「やはりな、何か秘密があるんだ、この村は。まあ、自殺サイトにメッセージを送るような場所だ。怪しくて当然かもといえば、その通りかも」

 アキヲは、私の話を聞き終わると、考えるように話し始める。

「いったい、どんな秘密があるのかな?今のところ、みんな優しい人に見えるけど。まあ、うつ病があったり、目が見えない病気があったりするけど、それは私も同じようなものだし、、」

 私は、最後は言葉を濁すように言った。

(私も、また、ボーダーなのだから)

「実はね、今日の朝方、怪しい人の動きを見たんだ」

 アキヲは、私の濁した話には興味なく、秘密の話を、唐突に話し始める。

「怪しい人の動き?」

「今日は、町を散策しようと、かなり早くここを出たんだ。畑の方へと歩いていくと、女性と男性が2人ずつ、黒い衣を着て、早足で行くのを見たんだ」

「怪しい人?」

「そう、周りから顔を隠しながら、荷車で何かを運んでいた」

「運ぶ?何を?」

「わからない。黒い布で覆われていて、何が荷台に積まれているのか、わからなかった。その後を追えば良かった」

 アキヲは悔しそうに、舌打ちする。

「何が積まれていたんだろう」

 私は、唾をごくんと飲み込んで言う。

「わからない、明日の朝、また通るかもしれない。行ってみるか?今は、もがくように、行動することが大切だ」

 アキヲは、私の目をまっすぐに見て聞いてくる。

「そうね。もがかないとね」

 私は、アキヲの誘いに、妙に納得して頷く。

(確かに、生きるためにここに来たんだ。もがいてあがいて、そしたら何か見つかるかもしれない。。生きる意味のようなものが)

「よし、じゃあ今日は、明日に備えてもう寝よう」

 アキヲも神妙に頷いて言った。

「ねえ、アキヲは、何のためにここに来たの?」

 私は、静かにアキヲに聞いてみる。同時に、この村に来て、私はどこか積極的になっている自分に気づく。

「、、インフルエンザで第一志望の大学にいけなくて、三流大学に入学して、両親にも周りからも馬鹿にされて、生きている意味がなくなった。だから、いつも、自殺サイトを見ていた。癒しの村なんて、嘘だろうと思ったけど、本当にあるならどんなところなのか、興味本位で来てみた。よくある話だよ」

 意外と真面目な答えが返ってくる。

「癒されたかった?」

「まあな。求めていたんだろうな。でも、やっぱり現実は、怪しい村だった。そんなもんさ」

 アキヲは、ため息をついて言った。

 アキヲは、リーダーシップがある。観察力や洞察力もあって、頭も昔から良かったんだろうと推測できた。

 ずっとうまくいってたから、人生に一回挫けてしまうと、立ち上がれなくなってしまう、脆さがあったのかもしれない。

「両親やまわりの人が、馬鹿にしてるって、どうしてわかったの?」

「母親は、大学に落ちたときがっかりした表情で、哀れな人を見るように僕を見た。周りは、コソコソと僕の悪口を言っている。第一志望に受かった友達も、久しぶりに会ったら、哀れむように僕を見て励まされたよ」

 アキヲは、胸に溜まっていたものを吐き出すように、私に語る。

「哀れな目や、コソコソとした悪口は、アキヲの思い込みかもよ?」

「なんでそう思う?」

「暗い中にいると、縄を蛇に見てしまう習性があるんだって、インドの哲学で読んだ。」

「へえ、君がインド哲学?」

「私はね、ボーダーなの。自分の病気を知りたくて、さまざまな本を読んだ」

 アキヲが自分のことを語ってくれたように、私も自分が境界性人格性障害(ボーダー)であることを話した。

 アキヲは、じっと私の話に耳を傾ける。

 私が話し終えると、

「そうか。。それで、なんで、縄が蛇に見える話がでてくるの?」

 アキヲは、いつもより少しだけ優しい声で聞いた。

「私の経験から、私は周りを敵だと思っても、周りは私を敵だと思ってないことが多かった。私が、縄を蛇に見るように、周りの人たちに不信感を抱き、敵に見えていた」

 私は、暗い天井をじっと見つめながら、話す。暗闇もまた、ただの暗い天井であるのに、邪鬼のような蛇に見えてくる。

「そこまでわかっていて、なんでここに来た?」

「わかっているのに、蛇に見える。これは、病気よ。薬も治療もない。どうにもならないから、縋るようにここに来たの」

「癒されたくて?」

「そうだと思う」

 私は、ゆっくりと目を瞑り、答える。

「そうか。この村が、癒しの村なのか、癒しを仮面にまとった、犯罪組織なのか。あがいて、もがいて、何が見つかるかわからないけど、進んでいこう」

 アキヲは、そう言うと、寝息をたて始めた。

 
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