【完結】【R18】【BL】想いは巡り、花は咲く

柚槙ゆみ

文字の大きさ
32 / 71
第三章 忘れる悲しさ

09

しおりを挟む
 今日は一人で夕食を取るのか、そう思うと食欲もなくなってくる。一日仕事をして疲れているはずで、いつもなら夕食に飛びつくはずだ。真宮がいないと思うだけで、お腹が減らないなんでどんな便利な体なんだ、とおかしくなる。

 彼を奥村の代わりに、寂しい気持ちの穴埋めにしてはいけない。けれど藤崎の中で日に日に真宮に気持ちが傾いていていて、そして藤崎はもう気付いている。

「好き……、好き、なのか。僕は真宮くんを……好き」

 ぼんやりと浴室の天井を見ながら呟きいた。奥村を失ってから初めての気持ちだった。それは本当の気持ちなのか。何度考えてもそれは変わらなかった。湯船の中でゆっくりと瞼をおろし、体の芯が暖まるのを待った。

 一緒に仕事がしたいから、という真宮の好意は、きっと藤崎の思っている気持ちとは違う。愛や恋ではなく、友情に近い気持ちからだろう。だから藤崎が真宮に抱く想いとはきっと交わらない。だが、分かっていても彼の魅力には惹かれてしまう。少しでも一緒にいられるなら、夕飯を作るくらい何の苦にもならない。

 ――幸せになれよ、佑華。

 奥村の声が反響するように聞こえる。夢を見ているのだとすぐに分かった。やさしい声は耳元で囁くようで、心地よく暖かいものにしがみつく。夢の中とはいえ、人の肌を久しぶりに感じてうれしくなった。

 奥村は藤崎の幸せを願っている。夢の中の言葉に切ない感情がわき上がってきた。分かったよ、と言ったような気がしたけれど、果たしてそれが声になったのかは定かではない。けれど、夢だからいいや、と思いつつ、流されるように身をゆだねた。

 やさしく抱きしめられ、それに体を任せていれば冷やりとした手が額に触れる。それがゆっくりと動き、髪を梳くように撫でられ、くすぐったい感覚に肩を震わせた。それでも気持ちがよくて、そのまま目を閉じてされるがままにしていた。
 こんな夢をみるのは初めてじゃなかったが、そんなときは決まって最後に奥村は笑っていて、だからうれしくて、でも少し切ない気持ちにさせられた。

 暖かでやわらかいものが唇に触れるのは久しぶりで、反射的に動く口は親鳥が雛鳥に餌を持ってきた時のように、なんの抵抗もなく受け入れる。重なる唇の隙間から冷たい水が注がれ、それをコクコクと飲み干した。

 重い瞼は開けなくて、目の前の奥村の顔が見えない事がもどかしくなってくる。いつもは触れようと手を伸ばしても遠くに行ってしまう彼が、すぐ目の前にいてこうしているのに、今度は顔を見ることができない。たとえ夢だからといってこんな意地悪をする神様は嫌いだ。せめて夢の中でだけは奥村と自由に会わせてくれてもいいのに、と思う。

「ん……こ、すけ……」

 名前を呼んだ自分の声がやけに生々しかった。必死に意識を覚醒させて目を開くが、焦点が合わずにぼんやりと人影が見えるだけだ。

「ああ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋
BL
「トウヤ様、長旅お疲れのことでしょう。首尾よくなによりでございます。――とはいえ油断なされるな。決してお声を発してはなりませんぞ!」」 塔からはるばる火吐国(ひはきこく)にやってきた銀髪の美貌の調査官トウヤは、副官のザミドからの小言を背に王宮をさまよう。 塔の加護のせいで無言を貫くトウヤが王宮の浴場に案内され出会ったのは、美しくも対照的な二人の王子だった。 太陽に称される金の髪をもつニト、月に称される漆黒の髪をもつヨミであった。 トウヤは、やがて王家の秘密へと足を踏み入れる。 灼熱の王子に愛され焦がされるのは、理性か欲か。 【ぶっきらぼう王子×銀髪美人調査官】

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。 

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

処理中です...