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第三章 忘れる悲しさ
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今日は一人で夕食を取るのか、そう思うと食欲もなくなってくる。一日仕事をして疲れているはずで、いつもなら夕食に飛びつくはずだ。真宮がいないと思うだけで、お腹が減らないなんでどんな便利な体なんだ、とおかしくなる。
彼を奥村の代わりに、寂しい気持ちの穴埋めにしてはいけない。けれど藤崎の中で日に日に真宮に気持ちが傾いていていて、そして藤崎はもう気付いている。
「好き……、好き、なのか。僕は真宮くんを……好き」
ぼんやりと浴室の天井を見ながら呟きいた。奥村を失ってから初めての気持ちだった。それは本当の気持ちなのか。何度考えてもそれは変わらなかった。湯船の中でゆっくりと瞼をおろし、体の芯が暖まるのを待った。
一緒に仕事がしたいから、という真宮の好意は、きっと藤崎の思っている気持ちとは違う。愛や恋ではなく、友情に近い気持ちからだろう。だから藤崎が真宮に抱く想いとはきっと交わらない。だが、分かっていても彼の魅力には惹かれてしまう。少しでも一緒にいられるなら、夕飯を作るくらい何の苦にもならない。
――幸せになれよ、佑華。
奥村の声が反響するように聞こえる。夢を見ているのだとすぐに分かった。やさしい声は耳元で囁くようで、心地よく暖かいものにしがみつく。夢の中とはいえ、人の肌を久しぶりに感じてうれしくなった。
奥村は藤崎の幸せを願っている。夢の中の言葉に切ない感情がわき上がってきた。分かったよ、と言ったような気がしたけれど、果たしてそれが声になったのかは定かではない。けれど、夢だからいいや、と思いつつ、流されるように身をゆだねた。
やさしく抱きしめられ、それに体を任せていれば冷やりとした手が額に触れる。それがゆっくりと動き、髪を梳くように撫でられ、くすぐったい感覚に肩を震わせた。それでも気持ちがよくて、そのまま目を閉じてされるがままにしていた。
こんな夢をみるのは初めてじゃなかったが、そんなときは決まって最後に奥村は笑っていて、だからうれしくて、でも少し切ない気持ちにさせられた。
暖かでやわらかいものが唇に触れるのは久しぶりで、反射的に動く口は親鳥が雛鳥に餌を持ってきた時のように、なんの抵抗もなく受け入れる。重なる唇の隙間から冷たい水が注がれ、それをコクコクと飲み干した。
重い瞼は開けなくて、目の前の奥村の顔が見えない事がもどかしくなってくる。いつもは触れようと手を伸ばしても遠くに行ってしまう彼が、すぐ目の前にいてこうしているのに、今度は顔を見ることができない。たとえ夢だからといってこんな意地悪をする神様は嫌いだ。せめて夢の中でだけは奥村と自由に会わせてくれてもいいのに、と思う。
「ん……こ、すけ……」
名前を呼んだ自分の声がやけに生々しかった。必死に意識を覚醒させて目を開くが、焦点が合わずにぼんやりと人影が見えるだけだ。
「ああ……」
彼を奥村の代わりに、寂しい気持ちの穴埋めにしてはいけない。けれど藤崎の中で日に日に真宮に気持ちが傾いていていて、そして藤崎はもう気付いている。
「好き……、好き、なのか。僕は真宮くんを……好き」
ぼんやりと浴室の天井を見ながら呟きいた。奥村を失ってから初めての気持ちだった。それは本当の気持ちなのか。何度考えてもそれは変わらなかった。湯船の中でゆっくりと瞼をおろし、体の芯が暖まるのを待った。
一緒に仕事がしたいから、という真宮の好意は、きっと藤崎の思っている気持ちとは違う。愛や恋ではなく、友情に近い気持ちからだろう。だから藤崎が真宮に抱く想いとはきっと交わらない。だが、分かっていても彼の魅力には惹かれてしまう。少しでも一緒にいられるなら、夕飯を作るくらい何の苦にもならない。
――幸せになれよ、佑華。
奥村の声が反響するように聞こえる。夢を見ているのだとすぐに分かった。やさしい声は耳元で囁くようで、心地よく暖かいものにしがみつく。夢の中とはいえ、人の肌を久しぶりに感じてうれしくなった。
奥村は藤崎の幸せを願っている。夢の中の言葉に切ない感情がわき上がってきた。分かったよ、と言ったような気がしたけれど、果たしてそれが声になったのかは定かではない。けれど、夢だからいいや、と思いつつ、流されるように身をゆだねた。
やさしく抱きしめられ、それに体を任せていれば冷やりとした手が額に触れる。それがゆっくりと動き、髪を梳くように撫でられ、くすぐったい感覚に肩を震わせた。それでも気持ちがよくて、そのまま目を閉じてされるがままにしていた。
こんな夢をみるのは初めてじゃなかったが、そんなときは決まって最後に奥村は笑っていて、だからうれしくて、でも少し切ない気持ちにさせられた。
暖かでやわらかいものが唇に触れるのは久しぶりで、反射的に動く口は親鳥が雛鳥に餌を持ってきた時のように、なんの抵抗もなく受け入れる。重なる唇の隙間から冷たい水が注がれ、それをコクコクと飲み干した。
重い瞼は開けなくて、目の前の奥村の顔が見えない事がもどかしくなってくる。いつもは触れようと手を伸ばしても遠くに行ってしまう彼が、すぐ目の前にいてこうしているのに、今度は顔を見ることができない。たとえ夢だからといってこんな意地悪をする神様は嫌いだ。せめて夢の中でだけは奥村と自由に会わせてくれてもいいのに、と思う。
「ん……こ、すけ……」
名前を呼んだ自分の声がやけに生々しかった。必死に意識を覚醒させて目を開くが、焦点が合わずにぼんやりと人影が見えるだけだ。
「ああ……」
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