【完結】【R18】【BL】想いは巡り、花は咲く

柚槙ゆみ

文字の大きさ
50 / 71
第四章 前を向くとき

14

しおりを挟む
「えっと、目が覚めたら欲しがるものって言ってましたけど。外は雪が降り始めていたのに、車出して行ってしまったみたいです」

 ザワッと胸の中が騒がしくなり、昔の記憶が一気に戻ってくる。
 入籍してから一年ほど経った頃の事だ。流行始めたインフルエンザにかかり寝込んでいた藤崎は、奥村に看護されていた。

 ――俺は予防接種してるから大丈夫だ。それより、なにか欲しいものないか? こんな時くらいだぞ? いいわけしないでプリンが食べられるのは。

 子供のような笑顔で奥村が言った。好物のプリンを食べるときは、どうしても気恥ずかしいから何かと理由をつける藤崎を、彼はよくからかった。本気で馬鹿にしているわけではなかったけれど、それでもやっぱり子供みたいで少し照れくさくて、ついつい取り繕うような事を言ってしまう。

 ――じゃあ、プリン食べたい。三連のやつ。

 顔を真っ赤にして布団を目元まで被った藤崎が言えば、奥村はうれしそうに笑った。かわいいやつだなと頭を撫でてくれた。そして額にキスをしてから、いってくると出て行った。いつもと同じで、なにも変わらない彼の笑顔を見送った。
 熱が高いせいで藤崎の意識は簡単に遠のいた。途中で起きないように携帯をマナーモードにしていたため、それが何度も着信していたことには気付かなかった。

 ――藤崎!

 藤崎を起こしたのは美澄だった。どうしたのだろうと不思議に思っていれば、彼の口から信じられない言葉が飛び出した。

 ――浩輔が、亡くなった。

 チラチラと雪が降り始めた寒い午後だった。車で出かけた奥村は、飛び出してきた子供を避けるようにハンドルを切り、右に逸れた車体は対向してきたトラックと正面衝突した。即死だった。
 遺体との対面が叶えられないほどの損傷。藤崎は熱の引かない体で病院へ行く、と叫んだが、美澄に全力で止められた。

 ――浩輔の遺体は、家族が引き取ったそうだ。

 目の前が真っ暗になった。家族と呼べる人間はもう自分だけだと思っていたのに、そうじゃなかった。奥村の両親が彼を連れ去ってしまったのだ。彼は藤崎の前でもう笑うことはないのに、最後の最後も見ることができない。誰かに違うと言って欲しかった。全部夢で、熱のせいだと早く言って欲しかった。

 ――嘘……そんなの、嘘だ!

 暴れて美澄を引っ掻くほど取り乱し、そして力尽きて倒れた。彼の遺体とも対面できないままで、藤崎の中では中途半端に面影だけが焼き付けられた。
 奥村家の葬儀にさえ参列を許してもらえず、広い敷地の奥村家の葬儀会場から、少し離れたところで藤崎は立ち尽くした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

【完結】火を吐く土の国の王子は、塔から来た調査官に灼熱の愛をそそぐ

月田朋
BL
「トウヤ様、長旅お疲れのことでしょう。首尾よくなによりでございます。――とはいえ油断なされるな。決してお声を発してはなりませんぞ!」」 塔からはるばる火吐国(ひはきこく)にやってきた銀髪の美貌の調査官トウヤは、副官のザミドからの小言を背に王宮をさまよう。 塔の加護のせいで無言を貫くトウヤが王宮の浴場に案内され出会ったのは、美しくも対照的な二人の王子だった。 太陽に称される金の髪をもつニト、月に称される漆黒の髪をもつヨミであった。 トウヤは、やがて王家の秘密へと足を踏み入れる。 灼熱の王子に愛され焦がされるのは、理性か欲か。 【ぶっきらぼう王子×銀髪美人調査官】

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】

蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。 けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。 そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。 自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。 2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。 

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

処理中です...