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「はい! どうも! カミタツです。今回、少し変わったことをしていきたいと思います」
神谷がついた台は三本爪のアームで巨大ぬいぐるみを取る台であった。この台は時間内であればアームの移動は自由なので狙いを定めやすく掴みやすいので初心者でもできる。だが、掴む箇所によってその確率は変動する。いわば、取れそうで取れない台なのだ。そこに今回、神谷は目をつけた。変わったことというのが気になるが神谷はさっそく百円玉を投入する。十字キーを動かしてさっそくアームを移動させる神谷。だが、なかなかぬいぐるみを掴もうとしない。掴まないどころか対象のぬいぐるみからアームが遠ざかっている。アームは台の奥の方へ何度も左右を移動させている。僕はこの行動を見てあるものが浮かんだ。神谷がやろうとしていることは極悪非道の禁断の奥義『ディスプレイ取り』であった。
その名の通り、景品の見本として飾られているものを狙って取ってしまうという普通とは違う取り方である。この取り方は店員からしたら店泣かせの行為に繋がり迷惑なやり方である。ちなみに神谷も以前、僕が働いていたゲーセンでもこのような行為をしていたことを僕は知っている。店員もそのような行為を避ける為、置き方にも対策は施しているのだが、全てがそうというわけではない。元店員として見たら今すぐ止めに入りたいところだが、僕の今の立場は店員ではない。こうして同じ目線で見ると、このような方法もあるのかと勉強になるのが悔しい。悪い例えとしてだが……
そして、神谷は何度もアームを動かして突っ張り棒で支えられているだけのディスプレイ景品を引き剥がしてそのまま取り出し口にホールインワン。景品が取り出し口に落ちた時に鳴るメロディが心地よく聞こえる。
デデンテデテンテテーン♪ と、取れた快感が出る音色だ。
「うぇーい!」
と、神谷はビデオに収められている事を忘れているのか、いつものテンション以上にはしゃぐ。そして、アームの制限時間はまだ残っている。そのまま通常通り取るべく景品にアームで掴みにかかる。そこで取れたら二個取りになるのではとドキドキしながら見ていたけど世の中、そううまくいかないのといっしょで景品は持ち上げることすらできずに空気を掴んだ。それでも一個は取れたことになるので満足であろう。
「良い子のみんなは真似しないでね」
と、神谷は誰に向かって言っているのか景品のぬいぐるみとツーショットでカメラに向かって言った。
そんなこんなでこの日は十個の景品の獲得と十五回のビデオ撮影を行って店を出た。ちなみに神谷がこの日に使った金額はおよそ五千円。景品一つに対して五百円で取った計算だ。かなり安く取ったのではと僕は思う。それらの景品を持って僕は神谷の自宅に案内された。
神谷の自宅は急行が止まる駅から徒歩三分で着くマンションだった。八階建てで神谷の部屋は二階の右端である。「入って、入って」と誘導されて中に入れられる。一人暮らしである神谷の部屋は2LDKとやや広めの部屋に通された。部屋を見た僕は絶句する。普通の部屋を想像していたのだが、普通とは言い難い光景なので部屋の前で立ち止まってしまった。中にはショーケースに何体のフィギアが飾られているだろうか、隙間がなくびっしりと埋まっている。ざっと見ただけで百――いや、五百以上はあるだろうか。その横には最新型とも思える置き型のパソコンがあって、更にその周りには数え切れないほどのぬいぐるみやアニメ系のグッズが無造作に置かれている。そして、挙げ句の果てには壁の一面にもアニメのポスターが貼られてさらに天井にもポスターが埋め尽くすように貼られていた。これが真のオタクの部屋と言えるだろう。僕も多少はアニメの何かは置いてあるのだが、ここまで酷くはない。これほどの部屋にするにはかなりの金が注ぎ込まれているはずだ。女の子を呼んでこの部屋を見せたらさり気なく帰ってしまいそうだ。
「ん? どうした? 早く入れよ」
と、神谷は手招きしているので僕は恐る恐る部屋の中に入る。
今回、神谷の部屋に招かれた理由として、今日撮った動画を編集してYouTubeに投稿しようしているのだが、神谷はパソコンに弱いらしく僕がサポートしてあげるハメになった。自慢ではないが、僕はプログラマーに憧れているだけあって基本的なパソコン操作はお手の物だ。パソコンの資格だって学生の頃に取ってあるほどだ。そこで僕は神谷の為に編集を手伝うことになったのだ。
神谷のパソコンの設備はバッチリであり、中身をうまくすれば完璧だった。もしかして神谷はビデオカメラ同様に形から入るタイプでYouTuberの為に購入したのだろうかと考えてしまう。部屋の周りからフィギアやぬいぐるみの視線を感じつつひとまずやることをやろうと今日撮ったビデオカメラのデータをパソコンに入れる。
パソコンの画面から今日撮った動画が再生される。
「自分の動画を見るとなんだか変な気分だな」
「これから動画を毎日アップするなら嫌でも見ることになるよ」
僕は撮影者なので高みの見物で動画を見る。
「で、ここからどうしていけばいいかな?」
神谷は僕に意見を求める。
「とりあえず、余分なところはカットしていくことがまずは第一だね。再生時間が長いと視聴者は飽きてしまう。だから見せたいところをコンパクトにまとめる。次に動画のタイトルだけど、インパクトのあるタイトルで釣っていくこと。実際それで釣り動画とも言われるものも中にはあるけどそれくらいのインパクトが大事だね。次に字幕。これはないよりあった方がいい。全部にする必要はないけど、重要なセリフに付けたり印象付けにさせたい言葉を大きく載せる。そうすることで視聴者も共感できるから楽しく見られる。と、まぁこんなところかな?」
「お前、すげぇな!」
神谷は僕を褒めたたえた。
「まずはお客様……っていうより視聴者のことを考えないと意味ないでしょ? ただ、動画を載せていくだけなら個人のブログといっしょだよ。そんなんじゃ誰も見ないし、誰得だよって話だから僕の意見としてはそこかな」
僕は接客業の経験がある為、いつもお客様の顔を伺っている。客が何を求めて何を目的にしているのかということは日頃から考えさせられていることから出た意見だ。
「なるほど。鈴木の意見はもっともだ。ワイが一人でやっていたらただのブログ更新になっていた。ありがとう。参考になるよ」
なぜか神谷にお礼を言われてしまった。まぁ、神谷は人のことなんて考えずに自分中心でいるタイプの人間だ。行動力は人一倍あっても周りの目を気にしないといつまで経っても一人上りだ。
逆に僕はというと夢とかやりたいことはあってもいつまで経っても行動に移せず、常に周りの目を気にしているようなタイプなのでうまく事が進まないのが残念なところである。全く正反対のタイプの二人がこうしてコンビを組んでいるのだからいつか拗れていきそうでならないが、こうして意見を共有できることが今は良い感じになっているのだから不思議である。
僕は早速、動画の編集作業に移った。一つ一つの動作に神谷が質問してくるが僕は作業を中断しながらわかるように説明する。神谷はノートにメモを取り覚えようとする。まるで生徒と先生のような形になるが編集は着々と進む。夕方から始めた作業だったが、いつの間にか時間は日付を跨ごうとしていた。二人で話し合いながらここはこうしたほうがいいんじゃない? とか、こういうのはどうかな? とか話が膨らみながら作業は進んでいった。二人の意見を交換し合ってついに……
「「出来た!」」
僕たちは二人同時に声を発した。お隣さんに聞こえるのではないかというくらい声がデカかったと思う。だが、それほど完成した快感がすごかった。二人で撮って二人で編集した初動画に喜びを分かち合った。十分くらいの動画ではあるけど僕にはそれ以上の時間の価値があった。
「いよいよ投稿だな」
神谷が言った。
深夜の○時過ぎ、僕たちの初動画をYouTube上にアップする瞬間がきた。事前に準備してきた苦労の積み重ねが今、投稿された――。
神谷がついた台は三本爪のアームで巨大ぬいぐるみを取る台であった。この台は時間内であればアームの移動は自由なので狙いを定めやすく掴みやすいので初心者でもできる。だが、掴む箇所によってその確率は変動する。いわば、取れそうで取れない台なのだ。そこに今回、神谷は目をつけた。変わったことというのが気になるが神谷はさっそく百円玉を投入する。十字キーを動かしてさっそくアームを移動させる神谷。だが、なかなかぬいぐるみを掴もうとしない。掴まないどころか対象のぬいぐるみからアームが遠ざかっている。アームは台の奥の方へ何度も左右を移動させている。僕はこの行動を見てあるものが浮かんだ。神谷がやろうとしていることは極悪非道の禁断の奥義『ディスプレイ取り』であった。
その名の通り、景品の見本として飾られているものを狙って取ってしまうという普通とは違う取り方である。この取り方は店員からしたら店泣かせの行為に繋がり迷惑なやり方である。ちなみに神谷も以前、僕が働いていたゲーセンでもこのような行為をしていたことを僕は知っている。店員もそのような行為を避ける為、置き方にも対策は施しているのだが、全てがそうというわけではない。元店員として見たら今すぐ止めに入りたいところだが、僕の今の立場は店員ではない。こうして同じ目線で見ると、このような方法もあるのかと勉強になるのが悔しい。悪い例えとしてだが……
そして、神谷は何度もアームを動かして突っ張り棒で支えられているだけのディスプレイ景品を引き剥がしてそのまま取り出し口にホールインワン。景品が取り出し口に落ちた時に鳴るメロディが心地よく聞こえる。
デデンテデテンテテーン♪ と、取れた快感が出る音色だ。
「うぇーい!」
と、神谷はビデオに収められている事を忘れているのか、いつものテンション以上にはしゃぐ。そして、アームの制限時間はまだ残っている。そのまま通常通り取るべく景品にアームで掴みにかかる。そこで取れたら二個取りになるのではとドキドキしながら見ていたけど世の中、そううまくいかないのといっしょで景品は持ち上げることすらできずに空気を掴んだ。それでも一個は取れたことになるので満足であろう。
「良い子のみんなは真似しないでね」
と、神谷は誰に向かって言っているのか景品のぬいぐるみとツーショットでカメラに向かって言った。
そんなこんなでこの日は十個の景品の獲得と十五回のビデオ撮影を行って店を出た。ちなみに神谷がこの日に使った金額はおよそ五千円。景品一つに対して五百円で取った計算だ。かなり安く取ったのではと僕は思う。それらの景品を持って僕は神谷の自宅に案内された。
神谷の自宅は急行が止まる駅から徒歩三分で着くマンションだった。八階建てで神谷の部屋は二階の右端である。「入って、入って」と誘導されて中に入れられる。一人暮らしである神谷の部屋は2LDKとやや広めの部屋に通された。部屋を見た僕は絶句する。普通の部屋を想像していたのだが、普通とは言い難い光景なので部屋の前で立ち止まってしまった。中にはショーケースに何体のフィギアが飾られているだろうか、隙間がなくびっしりと埋まっている。ざっと見ただけで百――いや、五百以上はあるだろうか。その横には最新型とも思える置き型のパソコンがあって、更にその周りには数え切れないほどのぬいぐるみやアニメ系のグッズが無造作に置かれている。そして、挙げ句の果てには壁の一面にもアニメのポスターが貼られてさらに天井にもポスターが埋め尽くすように貼られていた。これが真のオタクの部屋と言えるだろう。僕も多少はアニメの何かは置いてあるのだが、ここまで酷くはない。これほどの部屋にするにはかなりの金が注ぎ込まれているはずだ。女の子を呼んでこの部屋を見せたらさり気なく帰ってしまいそうだ。
「ん? どうした? 早く入れよ」
と、神谷は手招きしているので僕は恐る恐る部屋の中に入る。
今回、神谷の部屋に招かれた理由として、今日撮った動画を編集してYouTubeに投稿しようしているのだが、神谷はパソコンに弱いらしく僕がサポートしてあげるハメになった。自慢ではないが、僕はプログラマーに憧れているだけあって基本的なパソコン操作はお手の物だ。パソコンの資格だって学生の頃に取ってあるほどだ。そこで僕は神谷の為に編集を手伝うことになったのだ。
神谷のパソコンの設備はバッチリであり、中身をうまくすれば完璧だった。もしかして神谷はビデオカメラ同様に形から入るタイプでYouTuberの為に購入したのだろうかと考えてしまう。部屋の周りからフィギアやぬいぐるみの視線を感じつつひとまずやることをやろうと今日撮ったビデオカメラのデータをパソコンに入れる。
パソコンの画面から今日撮った動画が再生される。
「自分の動画を見るとなんだか変な気分だな」
「これから動画を毎日アップするなら嫌でも見ることになるよ」
僕は撮影者なので高みの見物で動画を見る。
「で、ここからどうしていけばいいかな?」
神谷は僕に意見を求める。
「とりあえず、余分なところはカットしていくことがまずは第一だね。再生時間が長いと視聴者は飽きてしまう。だから見せたいところをコンパクトにまとめる。次に動画のタイトルだけど、インパクトのあるタイトルで釣っていくこと。実際それで釣り動画とも言われるものも中にはあるけどそれくらいのインパクトが大事だね。次に字幕。これはないよりあった方がいい。全部にする必要はないけど、重要なセリフに付けたり印象付けにさせたい言葉を大きく載せる。そうすることで視聴者も共感できるから楽しく見られる。と、まぁこんなところかな?」
「お前、すげぇな!」
神谷は僕を褒めたたえた。
「まずはお客様……っていうより視聴者のことを考えないと意味ないでしょ? ただ、動画を載せていくだけなら個人のブログといっしょだよ。そんなんじゃ誰も見ないし、誰得だよって話だから僕の意見としてはそこかな」
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「なるほど。鈴木の意見はもっともだ。ワイが一人でやっていたらただのブログ更新になっていた。ありがとう。参考になるよ」
なぜか神谷にお礼を言われてしまった。まぁ、神谷は人のことなんて考えずに自分中心でいるタイプの人間だ。行動力は人一倍あっても周りの目を気にしないといつまで経っても一人上りだ。
逆に僕はというと夢とかやりたいことはあってもいつまで経っても行動に移せず、常に周りの目を気にしているようなタイプなのでうまく事が進まないのが残念なところである。全く正反対のタイプの二人がこうしてコンビを組んでいるのだからいつか拗れていきそうでならないが、こうして意見を共有できることが今は良い感じになっているのだから不思議である。
僕は早速、動画の編集作業に移った。一つ一つの動作に神谷が質問してくるが僕は作業を中断しながらわかるように説明する。神谷はノートにメモを取り覚えようとする。まるで生徒と先生のような形になるが編集は着々と進む。夕方から始めた作業だったが、いつの間にか時間は日付を跨ごうとしていた。二人で話し合いながらここはこうしたほうがいいんじゃない? とか、こういうのはどうかな? とか話が膨らみながら作業は進んでいった。二人の意見を交換し合ってついに……
「「出来た!」」
僕たちは二人同時に声を発した。お隣さんに聞こえるのではないかというくらい声がデカかったと思う。だが、それほど完成した快感がすごかった。二人で撮って二人で編集した初動画に喜びを分かち合った。十分くらいの動画ではあるけど僕にはそれ以上の時間の価値があった。
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