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第三章 裏事情
153話 紹介状
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「すいませーん……」
地図に書いてあるとされた場所にたどり着いた俺達は、その建物の扉をくぐり中に入る。
中には革でできた騎乗用具が展示されており、奥には四十代のパイプを咥えた男がカウンターを挟んで座っていた。
「はいはい、いらっしゃい……ん?」
予想通りと言うべきか。シュルージュの嫌われ者であるスイをみるや否や、男は眉をひそめた。
それをスルーしながらスイは淡々と用件を伝えていく。
「騎乗用具を買いたいのですが」
「はぁ。馬でも買ったの?」
「まぁそうですね」
「ふーん……」
咥えたパイプを離してじろりとスイを見る。
するとそれを阻むようにアイネがスイの前に立ちふさがった。
「なんすか? 言っておくけど、先輩、サラマンダーに勝ったんすよ?」
「知ってるよ。もう噂になってる。本当はアンタが倒したんじゃないかってな」
「え?」
不意に向けられた男の視線と意外な言葉のせいで変な声が出てしまった。
探るような視線で俺のあちこちを見ると男はパイプを咥えて一度息を吸う。
「妖精を連れた魔術師風の男……サラマンダーを召喚したってのはあんただろ」
「…………」
一昨日の夜、ミハに言われた言葉を思い出す。
シュルージュは魔術師がわざわざ来るような場所でないし、魔術師のイメージはかなり悪い。
だから魔術師の恰好をしている俺は、スイと並んでかなり目立っているだろう。
それに加えて妖精だ。シュルージュに来たときには、会う人にいちいちリアクションされていたことを考えればかなりインパクトのある特徴だといえる。
──これは言い訳できそうにないなぁ……
「正直、俺は信じてないけどね。はっきりと見たってヤツが大勢いるもんだからよ」
「それで、騎乗用具なのですが……」
話しをはぐらかそうとしたのだろう。
スイがアイネの前から移動して男の前に立つ。
すると男はいやみな感じで口元を吊り上げた。
「ハハッ、なんだ、また逃げるのか。まぁパーティメンバーにおんぶにだっこのお姫様にお似合いの──」
「まーたこの手のお話しっすか! ほらっ」
怒鳴るような言い方でアイネはポルタンからもらった紹介状を男の前に突き付けた。
と、男は大きく目を見開いてアイネが突き付けた紹介状を見つめはじめる。
「えっ、これ……」
「一応ギルドマスターから紹介状をもらってきたんだけどさ。買い物はできるのかな」
「…………」
トワの言葉に男は反応しない。乾いた笑いを見せながらトワがさらに話しかける。
「もしもーし?」
「た……」
「た?」
「た、大変失礼しましたっ!!」
その瞬間、ダンッという衝撃音が周囲に響いた。
見れば、男はカウンターに両手をついて深々と頭を下げている。
「い、いやぁ~、お人が悪い。そうならそうと早く仰っていただければ」
「…………?」
あまりに唐突な態度の変化に、俺達はただただ絶句する。
そんな俺達の様子など目に入っていないのか、男は両手を前で組みながらニコニコと笑みを作ってきた。
「ギルドマスターのご紹介とも知らず大変ご無礼を。ささ、わたくしめに何かお役に立てることがあればどうぞなんなりと」
──何これ?
状況が理解できずアイネが持っている紹介状に目を移す。
何が書いてあるのか気になったのだが相変わらず俺はこの世界の文字を読むことができない。
「……効果あったっすね」
「うん……」
思いっきり顔をひきつらせているアイネとトワを前にしても男は笑顔を崩さない。
瞬時にここまで態度を豹変させることができるのはプロとしての意識なのか。
――なんにせよ、ここまでくると逆に感心してしまう。
「とりあえず買い物はできるってことですか?」
「もちろんでございます。断る理由などありません。はい」
「…………」
スイが半目になりながらため息をつく。
「とりあえず騎乗用具を」
「ははっ! すぐにご用意いたします。お馬のサイズは……」
「とりあえず通常で……」
それでも全く笑顔を崩さない男を前にして、スイも何か言う気が失せたらしい。
冷めた表情で淡々と話しを続けていく。
そんな様子を見て、アイネがぐったりと肩を落とし小声でつぶやいた。
「……なんかウチ、シュルージュが嫌いになりそうっす」
「そうだな……」
アイネの言葉に俺は首を縦に振った。
すぐにこの街を出る予定とはいえ、見ていて気持ちのよいものではない。
「まぁ宿屋はマシだったっすけど。なんでこんな変な人しかいないんすかね」
「アハハッ、まぁそういうもんだと思って割り切るしかないよ。スイちゃんみたいに」
「ふーん……」
この街でスイが正当な評価を受けるのはいつになるのだろうか。
そんな事を考えながらスイ達の様子を見守っていると──
「こちら、金貨五十枚で販売しております。はい」
「き、金貨五十枚!?」
アイネが素っ頓狂な声を出す。
「ちょっ、ちょっと待つっす。そんな高いんすか? 騎乗用具って」
「ア、アイネ……」
気まずそうにアイネに視線を送るスイ。
だが男は全く気に留めていないのか、全く顔色を変えていない。
「こちら馬と人間に負担がかかることがないように職人が誠心誠意作成したものであります。大変恐縮ではございますが、その技術と労力に見合った対価を頂戴できませんと……」
地図に書いてあるとされた場所にたどり着いた俺達は、その建物の扉をくぐり中に入る。
中には革でできた騎乗用具が展示されており、奥には四十代のパイプを咥えた男がカウンターを挟んで座っていた。
「はいはい、いらっしゃい……ん?」
予想通りと言うべきか。シュルージュの嫌われ者であるスイをみるや否や、男は眉をひそめた。
それをスルーしながらスイは淡々と用件を伝えていく。
「騎乗用具を買いたいのですが」
「はぁ。馬でも買ったの?」
「まぁそうですね」
「ふーん……」
咥えたパイプを離してじろりとスイを見る。
するとそれを阻むようにアイネがスイの前に立ちふさがった。
「なんすか? 言っておくけど、先輩、サラマンダーに勝ったんすよ?」
「知ってるよ。もう噂になってる。本当はアンタが倒したんじゃないかってな」
「え?」
不意に向けられた男の視線と意外な言葉のせいで変な声が出てしまった。
探るような視線で俺のあちこちを見ると男はパイプを咥えて一度息を吸う。
「妖精を連れた魔術師風の男……サラマンダーを召喚したってのはあんただろ」
「…………」
一昨日の夜、ミハに言われた言葉を思い出す。
シュルージュは魔術師がわざわざ来るような場所でないし、魔術師のイメージはかなり悪い。
だから魔術師の恰好をしている俺は、スイと並んでかなり目立っているだろう。
それに加えて妖精だ。シュルージュに来たときには、会う人にいちいちリアクションされていたことを考えればかなりインパクトのある特徴だといえる。
──これは言い訳できそうにないなぁ……
「正直、俺は信じてないけどね。はっきりと見たってヤツが大勢いるもんだからよ」
「それで、騎乗用具なのですが……」
話しをはぐらかそうとしたのだろう。
スイがアイネの前から移動して男の前に立つ。
すると男はいやみな感じで口元を吊り上げた。
「ハハッ、なんだ、また逃げるのか。まぁパーティメンバーにおんぶにだっこのお姫様にお似合いの──」
「まーたこの手のお話しっすか! ほらっ」
怒鳴るような言い方でアイネはポルタンからもらった紹介状を男の前に突き付けた。
と、男は大きく目を見開いてアイネが突き付けた紹介状を見つめはじめる。
「えっ、これ……」
「一応ギルドマスターから紹介状をもらってきたんだけどさ。買い物はできるのかな」
「…………」
トワの言葉に男は反応しない。乾いた笑いを見せながらトワがさらに話しかける。
「もしもーし?」
「た……」
「た?」
「た、大変失礼しましたっ!!」
その瞬間、ダンッという衝撃音が周囲に響いた。
見れば、男はカウンターに両手をついて深々と頭を下げている。
「い、いやぁ~、お人が悪い。そうならそうと早く仰っていただければ」
「…………?」
あまりに唐突な態度の変化に、俺達はただただ絶句する。
そんな俺達の様子など目に入っていないのか、男は両手を前で組みながらニコニコと笑みを作ってきた。
「ギルドマスターのご紹介とも知らず大変ご無礼を。ささ、わたくしめに何かお役に立てることがあればどうぞなんなりと」
──何これ?
状況が理解できずアイネが持っている紹介状に目を移す。
何が書いてあるのか気になったのだが相変わらず俺はこの世界の文字を読むことができない。
「……効果あったっすね」
「うん……」
思いっきり顔をひきつらせているアイネとトワを前にしても男は笑顔を崩さない。
瞬時にここまで態度を豹変させることができるのはプロとしての意識なのか。
――なんにせよ、ここまでくると逆に感心してしまう。
「とりあえず買い物はできるってことですか?」
「もちろんでございます。断る理由などありません。はい」
「…………」
スイが半目になりながらため息をつく。
「とりあえず騎乗用具を」
「ははっ! すぐにご用意いたします。お馬のサイズは……」
「とりあえず通常で……」
それでも全く笑顔を崩さない男を前にして、スイも何か言う気が失せたらしい。
冷めた表情で淡々と話しを続けていく。
そんな様子を見て、アイネがぐったりと肩を落とし小声でつぶやいた。
「……なんかウチ、シュルージュが嫌いになりそうっす」
「そうだな……」
アイネの言葉に俺は首を縦に振った。
すぐにこの街を出る予定とはいえ、見ていて気持ちのよいものではない。
「まぁ宿屋はマシだったっすけど。なんでこんな変な人しかいないんすかね」
「アハハッ、まぁそういうもんだと思って割り切るしかないよ。スイちゃんみたいに」
「ふーん……」
この街でスイが正当な評価を受けるのはいつになるのだろうか。
そんな事を考えながらスイ達の様子を見守っていると──
「こちら、金貨五十枚で販売しております。はい」
「き、金貨五十枚!?」
アイネが素っ頓狂な声を出す。
「ちょっ、ちょっと待つっす。そんな高いんすか? 騎乗用具って」
「ア、アイネ……」
気まずそうにアイネに視線を送るスイ。
だが男は全く気に留めていないのか、全く顔色を変えていない。
「こちら馬と人間に負担がかかることがないように職人が誠心誠意作成したものであります。大変恐縮ではございますが、その技術と労力に見合った対価を頂戴できませんと……」
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