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六話 初めての街。そして、変態?
しおりを挟む鈴虫の奇麗な音色が、この静かで幻想的な森の中で木霊する。
森に背を向けぼーっと座っていれば、ぱちぱちと木が燃えてはじける音が聞えてきて、なんだか心地良い。
不意に空を見上げれば、黒く穏やかな夜空を照らす月が、暖かな光をこぼしていた。
「もうすぐだね」
僕は視線を落として、目の前に座っているリアに声を掛ける。
「うん。明日には、つくね」
目をコシコシと擦りながら、リアはそう答えた。
もう夜も遅い、眠たいのだろう。
洞窟を出て早5日。
森で狩りをしながらここまで進んできた。
道に迷いながらも、ここれまでの旅は楽しかったと言えるだろう。
それも、リアが居てくれたからだ。
もちろん、ハクアも忘れてはいけない。
ハクアは、元の世界で言う博士のような知識者で。
食用の木の実や山菜など、様々なことを知っていた。
とても助かる。
「今日はもう寝ようか」
「うん」
リアが僕によってくる。
「今日も、触ってて、いい、かな?」
眠たそうにトロンとした蒼い瞳が、僕を上目遣いで覗いてくる。
出会ったときとは違い、輝きを取り戻した美しいブロンドの髪が、夜風に吹かれふわりと舞う。
そんなリアに、僕は頷き背を向ける。
すると、僕の尻尾にリアが抱きついた。
「ん~……もふもふして、きもち、いい」
少し前からだ。
リアは僕の尻尾に目を付けて、寝るときはいつも抱き枕にされている。
僕も一人で洞窟を進んでるときは、よくしてたけど、気持ちいいんだよね。
僕の愛用だったはずなんだけど……まぁ、喜んでくれるなら、それはそれでかまわない。
「ん……すぅ」
寝るの早っ!
もう寝息を立て始めたリア。
顔を尻尾にすりすりと擦りながら、リズムのいい呼吸をしている。
そんなリアを見たからか、強い眠気が襲ってきた。
「さて、僕も寝よう……」
『おやみなさい、マスター』
(うん、ありがとうハクア。それじゃ、魔物が来たら教えてね)
『はい、かしこまりました』
ハクアの声を聞いて、僕は眠りの渦に飲まれていった。
――早朝。
少しだけ肌寒いが、僕達は起床した。
今日は、この先に見えている街へと足を運ぶ予定である。
「ねぇ、コハク? その耳と尻尾、隠さなくていいの?」
「あ、そうだった。忘れてたよ」
確か念じるだけでいいってハクアが言ってたよね。
僕は、耳と尻尾に意識を向けた。
「あ、引っ込んだ……すこし物足りない、ね?」
「ん? そうかな」
「うん……あ、寝るときは、また、出してね?」
「僕はリアの抱き枕か何かなの……」
「え……うん。そう、だよ?」
そんなの当たり前だよ? って顔しながら言われても!?
僕はそう言いそうになるのを堪えて、一呼吸置き口を開く。
「と、とりあえずっ! 今日は街に行く。そこで宿を取って……って、あ。お金どうしよう」
どうしよう、考えてなかった。
「だいじょう、ぶ。働けば、すぐ、だよ?」
わお、リアって意外と積極的。
「コハクが」
でもなかったか……。
いやね、うすうすそんな気はしてたよ?
でもそこは、私達でって言って欲しかったかな!?
「いや、リアも一緒に働こうよ?」
「…………早く、行こ?」
「あれ、返事は? 返事はーーっ!?」
僕を置いて先に歩いて行くリア。
くそう、絶対に道連れにしてやる!
こうして、僕達の一日が始まった。
▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
「大きいなぁ」
「うん、そうだね」
僕とリアは、門の前までたどり着くと、思わず口をこぼした。
おそらくこの街を全て囲んでいるのだろう城壁と、十メートルはありそうな巨大な門。
その前には、検問を行っていると思われる兵士が睨みをきかせている。
まずはあの人達に声を掛けないといけないよね
「あ、あの……街に入りたいんですけど」
コクコクとリアが隣で頷いてる。
「君達だけかい?」
ぱっと見、とても怖そうなおじさんだが、僕達を怖がらせないためか微笑んできた。
なんか、いい人みたいだ。
「はい、そうです」
「そうか、それじゃ身分証明書を見せてもらえるかい?」
「身分証明書……ですか?」
「もしかして、持ってないのかい?」
「はい……」
どうしよう、不審がられたかな。
流石に野宿は街を目前にしてるんだし、辛いなぁ。
リアは黙ってるし……。
「まぁ、子供だからそういうこともあるか……」
おじさんが呟いた。
「その様子だと、お金も持ってないみたいだしな。しょうがない、今日はおまけだ。その代わり、お金が出来たらちゃんと払いに来いよ?」
なにやら、通してくれるらしい。
僕とリアの容姿が少し幼いからかな、どっちにせよ助かった。
「ありがとうございます!」
「おう、良いって事よ。んじゃとりあえず、冒険者ギルドに行くといい。そこで身分証明書は発行できるからな。場所はここを真っ直ぐ進んだところだ。大きい建物だからすぐに分ると思うぞ」
「わかりました、助かります」
僕はそう言ってお辞儀をすると、その場を後にする。
「へぇ、これが……」
「賑やか、だね」
門を抜けて街に入ると、目の前に広がる光景に僕達は感嘆の声が出た。
所狭しと建物が並び、屋台などでは売り子と覆われる人達が、大きな声を上げて呼び込みをしていた。
そして、辺りにを通っている人達の表情は楽しげで、それだけでこの街の治安が良いことが分る。
僕達はその中を進み、冒険者ギルドを目指していく。
道中、甘いタレの焼けた良い香りが鼻をくすぐったが、今はお金が無い。
食べたいけど……今は我慢だ。
さて。
冒険者ギルド……冒険者ギルド。あ、あれかな?
鎧に身を包んだ数人が建物に入っていくのが見えた。
たぶんあそこで間違いないだろう。
建物も大きいし。
「ここであってるよね?」
「うん、あそこに冒険者ギルドって、書いてある」
なら間違いなさそうだ。
僕はドアノブに手を掛けて、扉を開いた。
「んあぁぁぁぁぁっ! もっとおぉぉぉぉっ!」
バタン。
「…………」
僕は無言で扉を閉じた。
え、何今の。
女の人が男の人のお尻を鞭で叩いてた……。
いやいやいや、そんなわけ無い。
ここは冒険者ギルド。屈強な人達がいて、少し怖い場所のはずなんだ。
僕の読んでた小説ではそうだった。
よし、もう一回。
「おらおらおらぁぁっ! もっと言い声で泣きなよ!」
「ふぁぁぁぁっ!」
あ、これ駄目なヤツだ。
放送禁止だよっ!?
「ねぇ、コハク? あれ、なにしてる、の? あの人、喜んでる。コハクも、してほしい?」
まてまてまてぇぇっ!
僕はMじゃない! して欲しくないぞ!
「ん……?」
リアさん? そのいつの間にか握っている鞭。しまってくれませんか?
あわわ、駄目だ! リアの教育に良くない!
僕はリアの手を引っ張って、その場を走り去った。
――どうしよう。この世界のギルドは変態の集まりのようです。
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