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兄ガゾゴンボ
しおりを挟むガゾゴンボ・ドイは黒電話の受話器を置いた。
「死んだのか、ゴゾンゴ……」
故郷、エゾンガ集落のゲンドゴ爺さんから、弟ゴゾンゴ死亡の連絡を受け、実兄であるガゾゴンボは困惑していた。
ガゾゴンボは独身だ。
5年前両親が他界して、親戚もいない。
唯一、血の繋がりのあるゴゾンゴが亡くなり、遂に天涯孤独に落ちた。
1週間前、ゴゾンゴに電話したのが最後になる。
そのおり、兄ガゾゴンボは、故郷のエゾンガ集落にひとりで暮らす弟に、こっちに引っ越せと言ったのを思い出す。
先月、兄ガゾゴンボは50人規模の小隊長に任命され、大尉に昇進した。
だから、自分の小隊に弟を加えようと打診したのだったが、断られた。
都会は居心地が悪いとか。
自由気ままに、人間女と戯れるのが好きだとか。
人間のメスは具合が良い。
美しい人間女は高値で売れる。
人間専門で稼いでいるブリーダーがいるくらいだから。
人間女など、アグロス街の女郎館で幾らでも楽しめるから、来いよ、そう弟に言ったのだったな。
「虫の知らせだったのか」
ガゾゴンボ・ドイは、部下2名を連れ故郷のに戻ることにした。
◆
変わらずのどかな風景が広がる。
52名が暮らすエゾンガ集落。
その殆どが高齢だ。
畑と草木ばかりで、娯楽は何一つない。
買い物をするのも20km離れたオックス村まで行かねばならない。
だから、唯一の若者、23歳という若さで暮らすゴゾンゴが、何故このような集落に1人で住み続けるのかは疑問だった。
「おお! ガゾゴンボ。このたびはお気の毒じゃったのお」
近所の爺さんが喪服姿で、ゴゾンゴの葬儀の手伝いをしていた。
俺を見るなり曲がった腰のまま、懐かしそうに言った。
「爺さんこそ元気そうでなにより」
ガゾゴンボは部下と共に自宅にに上がった。
葬儀の準備をしてくれている者へお礼をのべてから、棺の前に腰を下ろし、花で飾られた亡き弟の顔を見る。
――絶句した。
「ガゾゴンボ様……これはいったい?」
部下のひとりが神妙な表情で、白装束姿の弟の胸元を確認しましょうか、と訊ねてきた。
「たのむ」
近くにいる者に訊ねるも、首を捻るばかり。
昨夜は元気に奴隷の村に遊びに行ったそうで、原因不明の急死としか思えないと言う。
だがしかし、この弟の顔。はだけた胸板。
「……し、……死因は?」
「中毒死だと思います。神経毒の」
豚間が支配する世界ではあるが、各地には魔物と呼ばれる異生物が生息している。
ネズミ程度のものから、全長50mの恐竜サイズまで、強さ狂暴さもピンからキリまで様々だ。
その魔物たちの毒。
モンスター毒に詳しい部下が小声で言うには、弟の顔面と上半身に出来た紫の斑点は、A級モンスターのそれと酷似しているらしい。
だが、この集落付近にはA級モンスターはおろか、スライムすらいないはず。
いや、それはあくまで兄ガゾゴンボが住んでいた15年前までの状況。
「最近、ここらで、モンスターが出没したことはあるか?」
「さーどうじゃろーか。見たことないがのお……。なあ、みんな~」
「うんじゃ、うんじゃ」と口を揃えて言う集落の老人たち。
「……そういやあ~、奴隷村の更にずっと奥地に、小さなダンジョンが出来たとゴゾンゴが言っておったなあ~」
「小さなダンジョン……」
「ガゾゴンボ様」
「うむ。確認せねばならん」
洞窟とダンジョンは違う。
この世界でいうダンジョンとは生物とされる。
次々と多種多様な魔物を分泌する生物である。
壊そうと弾薬で吹き飛ばしたり、入り口を塞いだりしても、数年で前以上の深いダンジョンになって地上に口を開け、再び魔物を産出する。
壊すには、いや殺すには、ダンジョンの深部にある『魔核』を破壊する必要がある。
魔核は、獣型だったり、人型だったり、アメーバー状だったり、外見は一定しておらず、知能や魔術を獲得していたりする。
放置しておくと、年月と共に魔核も成長してゆく。
侵入してきた敵を生み出した魔物で襲わせたり、自らのダンジョンに落とし穴、流砂地帯、有毒ガスなどの罠を仕込んだりする。
何百年と生き続けている魔核は、そのダンジョンも地下100kmにも及び、
生み出す魔物も強靭で高知能ばかりになってしまい、そのダンジョンが巣食う地域、或いは国の存続が危ぶまれる事態になる。
だから、例え小規模だろうが、ダンジョンを発見したら、疑いがある時点で軍に報告するのが決まりだ。
ダンジョンは小さいうちに潰す。殺すのが鉄則。
しかし、どうして、弟が報告を怠ったのか、死んだ今となっては分からない。
とにかく、これで弟の死因の推測ができた。
弟の腰から尻にかけて巻かれた包帯には、痛々しいほどの血が滲んでいる。
昨夜何らかの理由で、弟が単独でダンジョンに入り、魔物に襲われたのだ。
小規模のダンジョンに入ってみると、想像以上に強い魔物が巣食っていた。
よくある話しだ。
「ガゾゴンボ様……」
「いや、なんでもない」
弟の死因を探ったところで、何が変わるという。
なにひとつ変わるわけがない。
兄ガゾゴンボは弟の葬儀と埋葬を終え、手伝ってくれた者に感謝と香典返しの意味で金貨を配った。
金貨1枚の価値は、5万DG。
4時間パートの1か月分の給料に相当する。
このエゾンガ集落出身の俺が、5万金貨を配れるだけ出世した――、と自慢もあったのだが、露骨だったか?
まあ良い。
ついでに残ったこの家と弟の持ち物は、全て集落の皆に寄付してやるか。
どうせたいした物はないだろう……。
ガゾゴンボは思ったが、一応確認の為、一番奥の部屋、亡き父が大切な品を収めていた金庫を確認する。
マーレー銀行の通帳が一冊。
開けたその残高に兄は驚愕した。
3億DG。
表には、しっかりとゴゾンゴ名義。
兄は不思議でならない。信じられない。
ガゾゴンボは自分の生涯賃金より遥かに高い額面が記載された通帳を懐にしまい、部下の待つ部屋に戻る。
部下が耳打ちしてきた。
「弟様には奴隷がいるそうですが、どうされます?」
そうだった。
弟名義で登録されている奴隷の処理もしないといけない。
「奴隷村の人間28名全てが弟様の物だそうで」
「なにっ?!」
この集落は高齢者ばかりで奴隷を管理するのも大変だということで、5年ほど前に弟が全て相場より高値で買い取ったそうだ。
なんで、そんな無駄な事を?
自分のいないこの集落で、弟はいったい何をやっていたのか。
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