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★唐揚げ大作戦 

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 お見舞いなのに、お人形を見たり、ケーキを食べたり、子供殺しを飲んだり、チクチク以上をされそうになったり。
 お母さまが登場しなかったら、山柿さまと、あれ~っ、だめだめ、ゆるして~、の大人の遊びを経験できたはず。惜しい!

「これ、凄く美味しいから、兄さんと一緒に食べてみて」

 おじさまに頂いた唐揚げを貰いました。
 美味しそう。

「あの……こんなに?」

「いいのいいの!」

 大好物だから全部食べればいいのに。

「ありがとう。山柿お兄ちゃん」
 
 ◆

 ◆
 
 帰宅したあたしは、電話機のメッセージランプの点灯に気付きました。

『ママです。悪いが今日も残業で帰りが遅くなる。ごめん。また電話するよ』

 よーし!
 なら、あたしが晩御飯を作ろう。
 兄さんは受験勉強で大変だし、頂いた唐揚げがあるから簡単。

 でも準備の前に部屋着になり、学習机に座ってから今日一番の収穫を取り出しました。
 勇者さまがくしゃみをした時、お鼻に光る透明な雫を見逃さず、素早くハンカチで拭いてあげました。
 勇者さまの雫(エキス)、つまり聖水。
 それが染み込んだハンカチ。

 クンクンしました。
 ……まだ湿ってます。
 これです、これ。
 良い匂いがして、ヤバ過ぎます。 

 夕食を作り兄さんと食事をして、それからハンカチをクンクンしても雫の鮮度は失われ、この香りは楽しめません。
 今もハンカチは乾燥しているので、堪能すべく時間をかけます。
 三十分もクンクンしたのは生まれて始めて。
 段々と勇者さまの雫の香りなのか、机に染み付いた文房具の匂いなのか、分からなくなったので止めました。

 このハンカチは勇者さまコレクションの、ナンバー3になります。
 レア度からして絶対。
 机の鍵付き引き出しを開け、ゲットしたアイテムをハンカチの横に並べました。

《コレクション・ナンバー1・勇者のプラスチックホーク》
《コレクション・ナンバー2・勇者の曲るストロー》
《コレクション・ナンバー3・勇者の超レア聖水ハンカチ》

 ナンバー1は勇者さまに出したケーキに添えたプラスチックホーク。
 食べられた瞬間は、おトイレで待機中だったので目撃していませんが、このホークでケーキをお口へ運び、勇者さまの唇に触れているはず。
 お口の中でベロちゅーしてるかも。
 つまり貴重な雫を含んだ勇者のホークです。 

 ナンバー2はホットカルピスに挿したストロー。
 勇者さまが帰られた後、速攻で回収するとストローが45度に曲っていて、きっと勇者さまがちゅーちゅーしているはず。
 つまりそういうこと。
 これもレアな雫を受けている勇者のストローです。
 どちらも兄さんに分からないよう回収したもの。
 宝物なのです。

 いけないっ! 
 夢中になり、もう夜の七時。
 急いでキッチンに行き、唐揚げをお皿に盛り変え、昨日のオデンを温め直しておかずにしちゃいました。
 勉強中の兄さんを呼び、二人で「「いただきます!」」と両手を合わせました。

「どうしたその鼻は?」

 兄さんが食べようと持ち上げたお茶碗を下ろしました。

「?」

「赤いぞ」

 ――あっ!
 ハンカチクンクンに夢中になり、擦りつけたので赤くなったのです。

「えっ、ちょ、ちょっとね。何でもないよーっ。へへへへ」

「そうか。ご機嫌だな愛里。良いコトあったのか?」

「えへへへ。そ、そお? ふ、普通だよ、あたし」

 ものすっご――く、良いコトがあったのですが話せません。もし話すと……。


 山の上公園の山柿家玄関前、日本刀でばっさり両断されうずくまっている勇者さまに、泣きながらすがりつくあたし。
 後ろでは呆然と返り血を浴びた兄さんが駆けつけた警官に連行されるのです。

 ……なんという惨劇。
 あたしのせいで愛する勇者さまが亡くなり、犯罪者となった兄さんは死刑。
 残されたあたしは余りの悲しさに、心臓発作がおきて地面にうずくまり、コトリと息絶えるのでした。
 やがて聞こえる賛美歌の中、雲の切れ間から天使が舞い降りてきて、あたしをフランダースの犬の主人公たいに天国に連れてゆき、そこでニコニコ微笑んでいる兄さんと勇者さまに合わせてくれるのでした。

 まあ、なんていいお話。
 悲劇のヒロインみたいでちょっぴり素敵。
 何も知らずに唐揚げをほぐほぐしている兄さんが幸せそうです。

「……どうしたんだコレ。愛里が作った……わけないよな」

 唐揚げに感動しています。

「そんなに美味しいの?」

 兄さんはおでんには見向きもせず、二個目の唐揚げを食べ終え、三個目をつまんでます。
 山柿さまと兄さんを唸らせた唐揚げとは……、どれどれ。

 外はカリカリ、噛むと肉汁がじゅわ~っと出てきて、中のお肉はふっくら。

「ほんとう! 凄く美味しい」

「どこで買ったんだ?」

「えーと……」
 
 言い淀む。貰った経緯いきさつは話せません。

「えーとえーと……そう、商店街で買ったの」

 斉京時さんはお店に戻ると仰っていたから、商店街に唐揚げ屋があるのかも。

「苦労しないと、思い出せないものなのか」

「えへへへ」
 
 笑って誤魔化しながら、ふと名案が閃きました。
 唐揚げを作って勇者さまに食べてもらうのです。
 おじさまほど美味しく作れないけど、あたしの愛は伝わるはず。
 唐揚げ大好物の勇者さまなら喜ぶに違いありません。
 クッキーを食べて感激してくれたみたに今回も……。

 
『愛里ちゃん……っ!! これ、君がつくたの?』
『そうですけど、美味しくなかったでしょうか……』
『とんでもない。凄く美味しいよ』
『まあっ』
『肉の旨味汁がたまらんっ! 小学生なのに、こんな唐揚げを作れるとは……』
『ありがとう山柿お兄ちゃん』
『ぜひ、一生僕の側で唐揚げを作ってくれないかっ!!』
『どうしちゃったんですか? あっ、ダ、ダメダメ。そ、そんな……下にはお母さまがっ。あ――れぇ――っ!』


 むふふ。
 大丈夫でしょうか、あたし。
 ママが唐揚げを作るのを見たことはあっても、自分でやったことはありません。
 油を入れた鍋に火をかけ、高温になったらトリのお肉を入れるのですが、その時ばちばちばちっと過激な音を立ててお肉がメラ状態になり、熱い油が散り、地獄絵図です。

 料理というより格闘、いえ魔法、炎属性の大呪文です。
 キッチンのコンロにやっと届くようになったあたしが、唐揚げ呪文を唱えるなら、椅子を踏み台にしないと鍋を見降ろせません。
 それに専門書が必要です。
 ママがお料理本を持っていたはずだからと、兄さんの入浴中にママのお部屋に忍び込み、本棚の料理本から唐揚げ呪文の唱え方をメモしました。
 よし。明日学校から帰ったら取りかかってみましょう。

 美味しい唐揚げを食べてもらうのです。
 あたしの愛よ勇者さまに届け――っ! 
 です。


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