一目ぼれした小３美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

☆とどめを刺される

　広水駅に到着し、三人とその集団で乗車し呉地駅で下車。
　そのまま商店街の歩道を歩いていると、下校する小学生たちがいた。

　小学校は早帰りの日か……。
　横道を歩く愛里がいた。
　ランドセルを背負い黄帽の後ろから長い黒髪が背中まで流れる。
　僕に気付いてない。このままだと愛里と鉢合わせだ。

　ラブ握りを早く解かないと。　
　揺すったり、解放のサインを送ったが、綾部さんが離すまいと力を込めるから無理だ。
　ならば愛里に気づかれる前に、僕たちの進行をずらす。それしかないっ！　
　そう思った矢先に発見した。愛里の後ろの青い瞳の男子を。
　今朝公園で、愛里と手を繋いだクソガキだっ！

　うおおおおぉぉ！！
　今も繋いでる……。
　ラブ握りじゃないが握りながら会話をしている。

　仲が良いのか？　
　いつも一緒に下校するのか？　
　いいのか……いやらしい。
　小学三年生だろ？　早すぎないか？　

「愛里……」

　ぼそりと隣の岩田が呟いた。

　おお！　
　気づいたかっ！　
　親友よ同士よ。愛里の危機だぞ。
　行け！　
　駆け寄って言ってくれ。
　ガツンとクソガキに注意してくれ！

「うむ。まあよし」

「は？」

　まあ、よし……ってなにが良い？　
　全然良くないぞ。
　妹が淫らな関係になるかもしれない。
　いや、もうなっているかも。

「なんだ？」

「いや、別に……」

　僕だと日本刀を構えるのに。
　
「あら。愛里ちゃんじゃないの？」

　やっと気付いた綾部さん。

「へーっ。あんなイケケンと。へーっ」

　僕と見比べてニヤニヤしている。

「何か言いたそうだが、そこまでにしてくれ」

「はいはい」

　綾部さんが手を放してくれた。
　僕の気持を気にしている。　　
　僕たち集団は楽しそうな愛里たちに近づく。
　
　そうだ。そうだよ。
　僕の立場なら『いいボーイフレンドがいて良かったね』と愛里に声をかけるくらいだろう。
　小学生には小学生が一番。
　僕なんか愛里が懐いただけで有り難いと感謝するべきなのに、何を期待しているこの大馬鹿者。
　
　僕は愛里に駆け寄った。
　愛里を見下ろすと、男の子が僕を見てギョッとのけぞった。
　流石は男の子。
　女子なら『きゃーっ！！』と絶叫するが、口を抑えてこらえ、よたよた電柱の死角に入ろうとする。

　ふむ。
　僕顔を近距離で突然凝視して、その程度なら、愛里の彼氏としてまず合格だ。
　遺憾だが『仲良いねっ！』と激励しようとしたら、

「あたし、あんたの事全然なんとも思ってないんですからっ！　勘違いしないでっ！　もう近寄らないで」

　愛里が叫んだのだ。

　――――へ？

　愛里は少し俯き、小さな手をぎゅっと握りしめ、肩をぷるぷる震わせている。
　何が起きたのか理解できない。

　僕に言ったのか？　
　それはない。ないだろう。
　後ろにいる誰かに言ったのかと振り返ったが誰もいない。
　愛里の前には僕しかいない……。僕だけだ。
　一切の迷いもなく、僕に言い切った。
　電柱の彼氏は瞳と同じで、顔を青ざめアウアウするだけ、遅れて来た岩田が気の毒そうに僕の肩を叩いた。
　
　嘘だ……、信じられない。
　僕に懐いている……凄く懐いているはず……。
　あっちゃ～っ、と綾部さんもが口を押さえ僕を哀れむ。
　他の学生も呆気に取られ「またかよ。小学生にも嫌われ、別の意味ですげー」と喜ぶヤツもいる。

　そうだ。その通り。
　今まではそうだった。
　でも、愛里とは通じ合えた……はず。
『どうしてそんな事を……？』と、前の美少女に訊ねるのは怖くて出来ない。
　もっと厳しい言葉が飛び出し、とどめを刺されそうで、立ち直れずダメになりそうで。僕は足をもつらせ愛里から遠ざかった。

「帰って勉強するから……」

　顔を起こすと、綾部さん、岩田、学生たちが無言で見ていた。

「うん……そうね」と綾部さん。
「あまり気を落とすと、受験も落ちるから」と上手いことを言って僕の背中を押してくれた。

　早く家に帰りたい。
　風呂に入りたい。
　クローゼットの彼女たちよ……僕の心を癒しておくれ……。

　春を思わせる明るい日差しさえもどこか淋しげに思えた。