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3章
使えない
しおりを挟むぴろろ~ん! ぷすぷすぷす…………。
リトル渾身の呪文は、情けない音を発して、呆気なく終わった。
いわゆる展開不可。
消えかかっているデーモンは、魔法も使えないわけね。
「わああ~ん、わ~んわ~ん」
「いやいや、頑張ったよリトルは。よくここまで俺を連れて来てくれたよ」
「年間契約して頂いているのにぃ……ぐすっ、ぐすっ…………、ちーん、ち――――んッ!」
透け透けに成り行くリトルがそう言い、ポーチからハンカチを取り出し鼻をかんだね。
「いいって、いいって、俺の注文に応えてくれて感謝してるって」
「……な、なんて、お優しいッ! う……うう、わあぁ~ん、わーんわーん」
リトルが俺に抱きついて泣き出したんだけど。
「あの~。
俺、急いでんだけど」
「わあぁ~ん! わあぁ~ん! わあぁ~ん!」
聞いちゃいない。
そんなとき、ビトくんが降りてきて、リトルの背中をムンズと掴んだよ。
「な、なにすんの? 知ってんの、このあたしは、デーモンよ!
幽霊ごときが――――」
完全無視のビトくんは、右手でチャックを開けるような仕草で亜空間扉を開き、その闇色の世界にリトルデーモンを放り投げたね。
「あわわわ~~~~~っ!!」
亜空間を閉じる。
「ありがとう、ビトくん」
「………………」
相変わらず返事はないね。
代わりに、笑顔でうなずく。
「しかし、ビトくんって、ツェーン迷宮の最下層(1000層目)だろうが、関係なく現れるね。
幽霊はどでも自由に出現可能なわけだ」
軽く頷く。
さて、どうやったらSSたちの元へ行けるんだ?
たぶん、ずっと下にいると思うから、いっそ床をぶち抜くか。
身体を硬質化ドリル状にすれば、石の床でも潜って行けるだろうが、
はたして、そんな原始的方法で迷いの遺跡をクリアーできるとは思えないけど、
「…………どうしたの、ビトくん?」
ビトくんが、6本の指を立ててから、ぱらぱらと広げたね。
ジェスチャーで、俺に何かを伝えたい…………。
「…………ああ、なるほど、……そういうことか」
ビトくんがニコニコする。
気が付かなかった。床を壊すより現実的だね。
「さっそく、やってみるよ。ありがとう!」
俺は身体から分裂個体を6つ作り、6つの廊下にそれぞれ進ませたよ。
数秒後、予想通り、5つが部屋に戻ってきて俺の身体に入る。
戻らなかった個体の視界には、今の俺がいる部屋と全く同じ部屋が映し出されている。
もちろん、俺は居ないし、SSたちも居ない。
だけど、たぶんこの進み方が正解だろう。
俺も向かう。
到着して、もう一度6つ個体を作り、同じように進ませ、ハズレ個体を回収しアタリ廊下を進む。
それを10回繰り返した同じタイプの部屋には――――。
「や、やっと見つけた――――――っ!!」
しずく形態スライムだ。
必死で触手を飛び交わせ、攻撃防御を繰り広げるSSたちがいた。
その数、28匹。
ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんに、ハヤテ、ジン、エース。
ちっこいSS2期生20匹に、青ちゃんとポラリスくんもっ!
戦っている相手は、片手にロングソード、もう片手には盾を構え、鎖帷子の武具を纏った、全長2メーターの二本足で立つ人間10名。
いや、身体は人間に似ているが、その顔の骨格は爬虫類に近い。
ステータス確認スキルが示す名称は、Sレア・エインシェント及び、SSレア・エインシェント。
レベルは25~30。
「なんと、あのワイバーンみたいなドラゴンが、二足歩行の人間タイプに成れたとは。
知能値が人間を遥かに越えて高いから、人類以上の進化を想像していたけど…………」
ぷるん。ぷるぷる、ぶよぶよ、ぷるぷる。
ぷるぷるっ! ぷるん。ぶるっ、ぶんぶん、ぶるるるるっ!
SS2期生たちが、エインシェントに体当たり攻撃を仕掛けたよ。
身体に取り付いて、溶解吸収するつもりだろうけど、エインシェントたちは顔色1つ変えず、
軽々と躱している。
「クソっ! すばしっこいエインシェントめ!」
知らない人が見たら、人間タイプ(エインシェント)が正義の味方で、グロテスクな紐状の触手を飛ばすスライム集団(SSたち)が倒される悪者モンスター・雑魚諸々といった感じ。
そんな時、一番奥から、ザシュッ、と鈍い音がしたよ。
聞き覚えがある嫌な音――。
エインシェントのロングソードがハヤテの身体を分断し、命そのもの、核を2分したのだ。
ハヤテのゼリー状だった身体が、床にバケツで水をぶち撒いたような音をたて四散した。
前の形はない。言葉もない。
スライム細胞は生命活動を終え、溶け落ちたアイスのように力なく、床に広がっているだけ。
「ハ…………ハ、ハヤテ……」
助けに行く間もなかった。
呆気なく、最後の言葉を聞くわけもなく、映画のワンシーンを見たみたいに、ハヤテが殺された。
殺されてしまった。
他のSSたちは、触手の動きを止めず戦っていて、ハヤテを気にもしない。
攻防が忙しいなら、新しい眼球を作って見る事も出来るけど、それもしない――――。
「……ど、どうしちゃった、みんな…………?」
ザンッ、ザンッ!!
今度は、青ちゃん、スーちゃんが連続で核を潰され、実体をズルリ、と崩した。
「な、……なんだよ、これは…………この状況は」
エインシェントとSSたち、個々のステータス値は圧倒的にエインシェントが高い。
負けて、殺されて当然だけど。
シュワワワワ、と天井から照射された黄色いリング状の光線が、ハヤテ、青ちゃん、スーちゃんの溶けた場所を照らしている。
すると、なんだろう、不思議な現象が……。
俺の見ている前で、散らばったスライム細胞が1箇所に集まってゆく。
核がない、だから動かそうとする意思もないはずなのに、細部同士が接合し、丸い核が形成され、徐々にしずく型のボディまでも出来上がってゆく。
まるで逆再生だよ。
僅か5秒で復活し、何事も無かったように攻撃を再開したね。
「おかえり~、何回目?」
「…………クソったれ! 8度目だ」
SSたちがボヤいたよ。
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