お嬢様は軍師様!

葉月 飛鳥

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お嬢様 罠を仕掛ける 3

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「みな、もう少しで暗くなる。ここで一泊して、明日再出発をしよう。」
「「「はい!」」」

天気が暗くなってきたので、ハロルド達は教会に泊まることにした。
この教会は、建物自体はしっかりとしたレンガで屋根もついているので雨風は凌げられる。
中に入ってみると、人の手入れがされていないので、椅子はボロボロで建物の隅とかにはホコリかぶっていた。

「すみません、殿下。ここで一泊してから王都に向かいます。食料は携帯食料しかありませんが、夜盗等はあまりでない場所なので安心してすごせるかと思います。」
「ありがとうございます、ハロルド隊長。」
「隊長、準備出来ましたー!」

ジョンは右手に毛布を持ちながら左手で大きく手を振った。
その後ろにはアルトがいてジョンと同じく毛布を持っている。
ただ、ホコリ被った部屋にあったみたいで髪の毛とかにホコリがついていた。

「ジョン!早く荷物もってこい!」
「はっはい!すみません!ダリウス先輩!」

ダリウスに怒鳴られたジョンは慌てて向かった。

「転けるなよ!」
「大丈夫ッス!転けない・・・うわっ」

ドタッーーー

「だから言ったじゃねーか!」
「すみません・・・。」 

慌てて向かったのか足が窪みにはまって、ジョンはおもいっきり転んだ。
派手に転んだみたいで、顔を上げると鼻が真っ赤になっている。
ハロルドとオーガスタもそんな2人のやり取りを微笑ましく思いながら、一緒にダリウスの所へと歩いていく。

「ダリウス、一息入れたら見回りを頼んでいいか?一応確認をしたいのだ。」
「了解です、隊長。ジョン、クローム、お前も一緒にこい。」
「うっす。先輩。」
「わかりました。ダリウスさん」

ダリウスはジョンとクロームを連れて、外へと出ていいく。

「大丈夫ですか、殿下。」
「・・・えっ。」
「いえ・・。何だか悩んでいたので・・・。話せば楽になると思いまして・・・。」
「そんなこと・・・。」

オーガスタはそんなことはないと言いたかったが言葉がつまった。
誤魔化そうとしてもハロルドには見透かされてしまうかも。
でも、この不安を話しても聞いてくれるだろうか。

「殿下?」
「あの・・・。ハロルド隊長・・」
「隊長!」

オーガスタが口を開こうとした瞬間、教室の扉からダリウス達が飛んできた。

「オーガスタ様、すみません。」
「クローム??」
「ダリウス、どうしたのだ?」
「ダリウス商会から、我々に物資をと持ってきたと」
「ダリウス商会といえば、王都一の商会ではないか!」
「ヤッホー、オーガスタ!来たよー!」
「なんで、ヒューデガルドが・・・。」

来たのはヒューデガルドだけではない。
ヒューデガルドの従者のポールと入学式で会った女生徒。
確か・・・名前はマリアだと言っていた。

「見回り中、馬車の音がしたと思ったら、ヒューデガルド達が来て、学園へ帰そうとしたのですがダリウス様が遅いからと・・・。」
「そう・・なんだ。」
「オーガスタ、いっぱい食料とか持ってきたからね!」
「凄いッスね。先輩。」
「お疲れの皆さんに労いをと思いまして」
「ありがとう。お嬢さん。」

ハロルド達が喜んでいるというのに、心臓がバクバクとなっているのがわかる。
胸が苦しい。
隣にいたクロームも、オーガスタと同じ気持ちだったのか、顔色が不安だ。

(何か嫌な予感がする。)

オーガスタ達は、そう願うしかなかった。

******

「いやぁ~。今日はこんな豪勢な食事になるなんて夢にも思わなかったなぁ、ダリウス。」
「本当ですよ。ヒューデガルド君には感謝しないと・・・。」
「そんなことないですよー。」
「お嬢さんも、わざわざ遠い所まで大変だったろうに・・・」
「大丈夫ですよー。」

パチパチと炎が舞い、暗くなった景色に明るく明かりをつける。
ハロルド達はヒューデガルド達が持ってきた肉や酒を大いに食べたり、飲んでいた。
本来であったら、食事を簡易的に済ませて、見張りをたてながら休んでいるはずなのに、睨み付けた日が落ちて暗くなってから長い時間、このような宴会みたいに賑わいをしている。

(本当に大丈夫なのか・・・。)

オーガスタはクロームと相談をした上で、ハロルド隊長に見張りを立てた方がいいのではないかと案を出したのだが、ハロルドはここは安全だからと言う理由で聞いてはくれなかった。
他のダリウスやジョンにも相談をしたのだが、2人も「安全だから大丈夫。」としか答えてはくれない。

「クローム。僕は自分自身情けないと思うよ。」
「オーガスタ様・・・。」
「突然、安全だと思っていた場所が危険になることだってあるのに、それを上手く伝えられなくて、何も出来ない自分が腑甲斐無いと思うよ。」
「・・・それは俺も同じです。」
「クローム・・・。」
「ねぇねぇ、クローム君。アルト君から聞いたんだけど、初恋の君について教えて?」

オーガスタが言いかけようととした時、急にマリアが現れクロームの隣に座った。
大胆にも、クロームの腕を掴み抱き締めている。

「話せばいいだろ、別に減るものでもないし。」
「ここで話すことでもないだろ。」
「じゃあ、俺が代わりに話してあげようか?幻の令嬢の話。」
「アルト!!」
「クロームッ!ダメだ!」

クロームが怒りをあらわにして、アルトの胸ぐらを掴む。
これは確実に怒っている。
オーガスタはそう感じた。
周りにいたハロルド隊長達も、いきなりクロームが大声を出したものだから、驚いた様子で2人を見ていた。

「2人共、ちょっと落ちつこう?ね?」

クロームとアルトに少し冷静になってもらおうとしたけど厳しかった。
殴りあったりしないだろうか、それはやめてほしい。
やがて、アルトの胸ぐらを掴んでいたクロームは、そっと手を放すと、無言のまま外へ出ていった。
その後直ぐに、マリアが「私、クローム君の様子見てきます!」と言ってクロームの後を追う。

「なんか、すみません。場をしらけてしまって・・・。」
「いやっ、いいってことよ!なんならジョンの花屋令嬢との振られた話でもしようではないか。」
「なっ・・・・隊長、何で知っているッスか??」
「俺が話した。」
「ダリウス先輩ヒドイッス!!」

暗くなった空気をハロルド隊長達が明るくしてくれてオーガスタは少しホッとした。
この人達がいなかったら、多分僕らは後味の悪いままにしてしまうかもしれない。

「オーガスタもアルトもどうだ?ジョンだけじゃなくてダリウスの話とあるぞ」
「えっっ!!なんで隊長がそんなこと!!」
「俺が話したッス!お返しッスよ!」
「てめっ、後で覚えてろよ!」
「ほら、殿下もアルト君も早く聞くッス!」

(うじうじしても、しょうがないか・・・。)

「お願いします、ハロルド隊長。」
「そうか!じゃあ、まずはジョンの話から行くか・・・」
「えーっ!恥ずかしいッスー!!」

顔を真っ赤にしてハロルドを止めようとするジョン。
そのジョンを羽交い締めにしているダリウス。
酒を飲みながら、まるで自分のことのように語るハロルド。
そして、それを見て笑っているオーガスタとアルト。

楽しい時間が今始まった。
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