りんご成金のご令息

けい

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 引っ越しが長引いたのは俺の責任ではないことは明らかだった。
 俺が持ち込んだ荷物なんて、ロイの荷物の一割もない。
 どちらでも好きな部屋を使って、と案内されたどちらの部屋も片付いていなかったのだから、相手がロイでなければ馬鹿にされていると思ったかもしれない。
 実際には甘えているのだろう、ロイには昔からこういうところがある。

 俺は遠慮なく広い方の部屋を選ぶと、もちろんロイにも手伝わせ、部屋にあった荷物を空いた部屋に運びこんだ。
 まずは運び込んだだけだ。このままにするつもりはないが優先順位というものがある。もちろんキッチンが優先だ。俺はロイと違って自炊派だ。

 ロイはこの街では比較的いい場所にそれなりの部屋を借りていた。戸建てではなく集合住宅だ。この街で戸建てに住むのはA級冒険者でも難しい。洗い場は共同だが、トイレと狭いながらもダイニングキッチンは別にあり、部屋はそれ以外に三部屋もある。
 もともとは二人暮らしをしていたのだが、同居人が出て行った後も一人で暮らし続けている。こんな広い物件に一人なんて家賃がもったいないからさっさと引っ越したほうがいい、何度言っても、ここを気に入っている、が彼の返事だった。
 こんな広い物件に一人なんて家賃がもったいないからさっさと引っ越したほうがいい、何度言っても、ここを気に入っている、が彼の返事だった。
 おぼっちゃんめ。
 しかし、ロイの稼ぎならこれくらいの贅沢は許容範囲のうちなのだろう。

「うまかった。ノアの料理は相変わらずうまい」
 いつの間にか日も暮れて、引っ越し初日なのだからいいものを食べたい、そう思って持ち込んだ食材は雑な煮込みになった。
 しかし、おかげでキッチンもテーブルも片付いて、気持ちよく夕食を食べられているのだから片づけを優先したのは間違った選択ではなかったはずだ。
 掃除している間に煮込んだだけ、という料理を、ロイはうまそうに平らげた。こいつはなんでもうまそうに食べる。だからロイのために料理をするのは好きだ。
「セシリーには負ける。……本当はセシリーからもらったレシピでかたまり肉を焼くつもりだったんだ。せっかくオーブンがあるんだから。野菜も一緒に焼くつもりだったのに、結局全部煮込みだ」
 俺の方はまだ作るはずだった料理に未練があった。こいつに食わせてやりたかった。
「セシリーさんのレシピもいいけど、これもうまいよ。味がしみてる。セシリーさんは元気? コリンは? 時々は会ってるんだろう?」
「たまには会ってるけど。……一週間ほど前に会ったときは、二人とも元気だった」
 セシリーは俺の姉でコリンは姉の息子、つまり俺の甥っ子だ。

 俺に残された、最後の家族だ。
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