りんご成金のご令息

けい

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 俺がリコの実が好きなのは、おいしいからとかきれいだからとか理由は色々ある。
 ロイの大叔父であるルイス・ホーソンに対する興味と好意も理由の一つだ。
 ロイと出会った時点で彼は既に故人だったから、実際に会ったことはないが、俺は彼が俺と同じ転生者だったのではないかと疑っている。

 まず品種改良というのが前世的だし、そのあとの売り方にもどこか前世的な一貫した戦略が感じられる。
 前世のように情報に溢れている世界ではないが、リコの実だけではなく売り方にもインパクトがあったみたいで、彼の手法は研究されたみたいだ。地元の高等学校で商業を学んだ兄が資料をもっていた。
 それによると、リコの実を品種改良したのはルイスでも、販売や商品化は彼の同性の夫であるロナルドが取り仕切っていたらしい。

「リコの実を作ったルイス様って、どんな人だったの? ロイは会ったことがある?」

 ある日俺は少し緊張しながらロイに尋ねた。
「面白い人だったよ。少し変わった人だったけど。ノアにちょっと似ていたかもしれない。ルイスおじさんに興味があるの?」
 ロイは言った。俺は、少し変わった人だった、俺に似ている、それらの情報に密かに興奮した。異世界転生者の証拠のように思えたからだ。
「兄がリコの実の事例について勉強していたから。リコの実が利益を上げたのはホーソン家が高級品としてうまく売り出したからだって。そっちのほうは旦那様のロナルド様が取り仕切っていたんだっけ?」
 なので、ロナルド・ホーソンのほうが異世界人だった可能性も考えていた。俺はこっちについても探ってみる。
「ルイスおじさんに興味を持つ人は多いけど、ロニーおじさんについて聞かれるのは珍しいな。……頭が良くてハンサムな人だったよ。ちょっと食えないところもあったけど。あの人、ルイスおじさんを顔で落としたんだってさ」
「へぇ、なんか、ロイみたいな人だ」
 俺が言うとロイは少し驚いたように目を見開いた。
「褒めたんだ。頭が良くてハンサムで商売上手。有名女優との契約は彼がとってきたんだろう? リコの貴婦人アデル・ウィローだ。リコ製品を社交界に売り込んだのも彼だと聞いたよ。社交的で要領もいい、ロイみたいだろ?」
「社交的で要領もいい、は正解だけど、アイデアはルイスおじさんが出していた。アデルを宣伝に使うのも、高級品としての売り方も、考えたのはルイスおじさんだ。ルイスおじさんのアイデアをいい形で世の中に出すのが自分の仕事だって、ロニーおじさんはそう言っていた」
 それって、やっぱりルイス・ホーソンが転生者であたりなんじゃ? 一気に核心に近づいた気になっていた俺はとっておきを引っ張り出した。
「ルイス様って、日記とかつけていなかった?」
「日記? どうかな、ルイスおじさんは、日記をつけるより、壁や黒板や床や色々なところに文字や記号やいろいろ書きなぐって頭の中を整理する癖がある人だったよ。でもそれは全部消してしまったから。……日記も探せばあるかもしれないけどおじさんの文章で少しでもリコの実について書かれているものは厳重に管理されている。見るのは簡単じゃないだろうな」
「じゃあさ、これ、こんなふうな文字、見たことある? ルイス様、こんなふうな文字、使ってなかった?」
 俺は例の日記を机の上で開いた。
「なにそれ、古い、日記帳? 見たことがない文字だ」
「昔古本屋で見つけたんだ。魔法薬師の日記らしいんだけど、暗号で書かれていて」
「ふぅん、おもしろいね。そういえばノアも、魔法薬学は得意だったね」
「そう、何が書いてあるのか知りたくて勉強しているうちに面白くなって。だって、これ、どう見ても文字なんだ。ルイス様もリコの改良に関わっていたなら魔法学を学んでいたんだろ? もしかして一部の魔法学者が使う特別な文字なんじゃないかって。個人で暗号を作るのもおかしな話だから」
 一生懸命考えたそれらしいことを言うと、ロイは日記をじっと見た。そしてまた俺を見る。そしてまた日記をじっと見た。
 俺はわくわくしながらロイを見守った。
「……絶対とは言えないけど、これ、この文字は、見たことがある気がするよ」
 ロイはやがて一つの文字を指さした。

 りんご

 これ、もう確定だろ! こうして俺はロイの大叔父さんも転生者であることを知ったのだ。
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