りんご成金のご令息

けい

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 学園生活は順調だった。そう思っていた。しかし実際には俺の知らないところで事態は大きく変わっていた。

 両親と兄が死んだのは俺が十六歳の年だったが、それは伏せられた。姉と、姉の夫となった人の意向だった。
 面白い話でもないのでざっと説明すると、両親と兄は重要な商品を運ぶ途中、魔物に襲われて殺された。護衛は雇っていたがどれだけ準備をしたところでそれ以上の不運によって人は死ぬ。
 両親と兄はその貴重な商品ごと帰らぬ人となり我が家は大きな負債を抱えることになった。
 姉の夫となった人は姉に結婚を申し込み、店とドレイパーの名を受け継ぐことと引き換えに、その負債を肩代わりすることを申し出た。善意からではない、完全に利益を見込んでのことだ。彼が後にしたことを見ればそれは明白だ。
 姉は頑張ってくれた。結婚はする。しかし、ドレイパー家は俺に継がせる。俺の次は姉の子ども、つまり援助を申し出た男の子どもに継がせる、どうかこれで納得してはくれないか、男がどれだけなだめすかしても折れなかったのだろう、目に浮かぶようだ。
 男は結局その約束で姉と結婚した。安くはない学園の学費も男が負担してくれた。
 俺に知らせなかったのは、苦労を掛けることになるならせめて学園にいる間だけでも何も考えずに楽しんで欲しい、そう思ったからだと、後になって姉は言った。

 面白くもない話は続く。

 俺が十七歳になる年、学園に一人の男が尋ねてきた。痩せて艶のない髪と肌をした年齢不詳の男だ。
 会ったこともないその男は姉の夫だった人の部下だと名乗った。

 男は両親と兄の死と、姉が結婚してその夫に店を任せたことを伝えた。
 姉が不貞によって子どもを得、その子どもを夫の子と偽ったが、不倫相手の証言によってそれが発覚したことも。

「お姉様は旦那様とのお子を跡取りにするという契約を正式に結んでいました。お姉様のされたことは不貞であるだけでなく詐欺です。しかし、旦那様は情けを知っている方です。お姉様をお役人に引き渡す代わりに、お腹のお子様ともども亡くなったことにして、旦那様が懇意にしている修道院に送られました。生活は豊かではないでしょうし子どもは孤児院にやられるでしょうが、私の意見を言わせていただけるのであれば牢獄よりはましでしょう。ノア様については次のドレイパー家の当主はあなたであると決まっています。もちろん旦那様は契約は守る方ですので、それを違える気はありません。しかし、契約の通り、ノア様の次の当主は旦那様が後妻として迎える方との間にできた子どもとなることをご了承ください。ご了承いただけるのであれば学園卒業までの学費は引き続き旦那様が負担することになっております」

 俺は何が何だか分からなかった。
 頭が真っ白になって、男の言うことが理解できているはずなのに全く理解できなかった。
 嘘だ、と俺が言う間もなく、男は様々な書類を俺の前に置いた。
 正式に発行された両親と兄の死亡証明書、姉と男の婚姻証明書、姉によるドレイパー家とは縁を切るとの念書、支払われることになる学費と生活費の小切手、俺はぼんやりとそれを眺めながら、ゆっくりと、ゆっくりと、事態を理解していった。

 ごめんなさい、俺はゆっくりと安堵した。それでも俺は学園に残れる。まだロイの側にいれる。

 一瞬でもそう思った当時の自分を我ながら甘いと思う。姉の夫だった人はそんなに甘い人ではなかった。

「もちろんお姉様は亡くなられたことになっていますのでノア様は二度とお姉様には会えません。しかし、もしノア様がこれにサインしてくださるなら、お姉さまがいらっしゃる修道院の場所をお教えしましょう。ノア様はこの小切手を持ってお姉様に会いに行くことができます。ノア様が支えて差し上げれば、お姉様はごお子様と別れることなく、ノア様の努力次第では修道院にいるよりも豊かな暮らしも送れるでしょう。特にお姉様のお子様にとっては、お子様の幸せはノア様の選択にかかっていると言っても過言ではないでしょう」

 男は学費の小切手とともに一枚の書類を俺の目の前に押し出した。
 それはもちろん、ドレイパー家の籍を抜け、男に店を任せるという内容の書類だった。
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