りんご成金のご令息

けい

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 久しぶりに会う姉は別人のようにやつれていて、俺を見ると恥じ入るように視線を落とした。
 無言ですすり泣く姉を俺は無言で抱きよせた。
 姉のお腹は大きかった。ここに姉の子どもがいる。その子は両親の孫であり兄と俺の甥か姪だ。自分の選択が間違いではないことを実感した。

 姉が入れられた修道院の責任者は老齢の女性だった。
 彼女と姉の夫だった人との間にどのようなつながりがあるかは知らないが悪人ではなかった。
 感情が窺えない目で、出産後母子ともに落ち着くまではこのまま修道院で暮らすことを勧めてくれた。
 修道院には出産経験のある女性も多く、医者もいるとのことだった。
「セシリーさんの健康のことを考えるならここは悪くない環境でしょう」
 彼女は言った。セシリーというのが姉の新しい名前だった。

 口裏を合わせ、セシリーと俺は腹違いの姉弟ということにした。
 生まれた子はコリンと名付けられた。

 修道院には俺の居場所はなかった。俺は修道院から離れた少し大きめの街へ行き、冒険者ギルドで仕事を探した。
 冒険者ギルドの成り立ちと本質が何であれ、田舎町では職業安定所や郵便局のようにあつかわれている、これも俺が魔法薬師ギルドではなく冒険者ギルドを選んだ理由だ。
 最悪単発の日雇い仕事でもあればと思っていたのだけど、幸い、修道院の近くの小さな街で魔法薬師が助手を探しているとのことだった。
 給料は安かったが住み込みで働けるということでそこを紹介してもらった。ほかに選択もなかった。

 俺はここで外の世界の洗礼を受けることになった。
 食事も寝床も最低レベルで、給料は週払いのはずが、そのうちまとめて払うからと言って全額払ってもらえなかった。
 その魔法薬師は初級魔法薬師の資格しか持っていなかった上にびっくりするほど腕が悪かった。店は年季が入っていたし、道具は古くてもいいものが多かったから、ダメな二代目、というやつだったのかもしれない。
 そいつは俺が中級魔法薬を作れることを知ると自分の代わりに薬を作るように言ってきた。
 そういった薬を作ることも使うことも違法ではないが、正規品として販売すれば違法になる。ばれれば二度と魔法薬師として働けない。
 金は払うし知人にあげたいだけだとそいつは言ったが、信じることができなかった。
 断るとそいつはセシリーと生まれたばかりのコリンのことを匂わせてきた。クソ野郎だ、断って正解だった。彼らと鞄を修道院に置いてきたのも正解だった。
 冒険者ギルドに訴えようかとも思ったけど、その間の仕事のことを考えると踏み切れなかった。
 材料がそろわないとか、特殊な道具がいるとか、それらしいことを言ってはぐらかしていると、そのうち嫌な目で俺を見るようになった。
 学園ではまったくもてなかったのだが、俺にもそういう需要があったらしい。彼のおかげでよく学べた。
 幸い、学園では護身術程度は学んでいた。武器は大型のナイフを持っていた。採取や解体用のもので武器として使いこなす自信はなかったが、ナイフの存在と簡単にやらせる気はないことを匂わせながら、なんとか貞操を守りきった。
 そいつが小心者だから助かった。そこで働く間ずっと少し怖かった。

 不安はあったがコリンを動かせるようになるとすぐに三人で街を出た。
 結局給料は全額貰えなかった。冒険者ギルドにはそのことも伝えたが、反応を見る限り対応しては貰えなさそうだった。
 宿と食事が提供されるだけでも割りがいい仕事だと思わないと、職員は言った。
 それとこれとは話が別だ、思ったが口には出さなかった。疲れていた。

 そのうち知っていくことになるのだが冒険者は基本自己責任だ。ギルドもあまり親切ではない。
 そもそもセクハラとかパワハラとかは十九世紀的風景にふさわしくその概念すらない。
 さらにギルドの出先はピンキリだ。そこはハズレだった。
 慣れた冒険者ならその辺の確認や情報収集も怠らず、少し遠くてもましな出先を選ぶ。

 前世どころではなくブラックだけど、法的な身分がある世界だ、人権周りが微妙なのはそんなものかもしれない。
 せっかく異世界転生なのに、それとも、この世界のどこかでは身分的にも能力的にも恵まれたチート転生者が無双とかしているのだろうか。
 単に俺は主人公ではないということなのだろう、そう思いながら日々をしのいだ。

 具体的なことは覚えていないけど、もしかしたら前世の俺はあまり幸せな人生を歩まなかったのかもしれない。
 気が付けばそれらの日々に適応することができていた。異世界とはいえ十代ならもう少し繊細な気がするのだが。
 セシリーのほうがずっとつらそうだった。
 子育ての不安やストレスもあるのだろう、できるだけ気にかけているつもりでも何をしてあげればいいのか分からず、できそうなことも少なかった。
 セシリーは俺に罪悪感を抱いているようでもあった。
 口にはしなかったが、彼女があんなことをしなければ俺が学園を辞めることもなかった、そう思っているのだろう。
 俺もその部分をつつきたくなかった。そうしてしまったら、彼女を責める言葉を吐いてしまいそうだった。
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