りんご成金のご令息

けい

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 俺たちが迷宮の縁に向かったのはよりよい生活を求めてだ。
 最初に上司になった魔法薬師のおかげで冒険者として生きる道が容易くはないことを思い知らされた。
 自分にできることを並べた時に、初級魔法薬師はさほど割のいい仕事ではない。
 初級魔法薬は需要はあるが作れる魔法薬師が多い。値段も中級とは雲泥の差だ。品質には自信があったがギルドに売る場合はあまり考慮されない。
 自分で材料を調達できればいいがそうでなければ材料の仕入れにもそれなりに費用がかかる。
 中級魔法薬もいくつかは作れるが、資格がない以上正規品としての販売はできない。
 腕を信頼してくれる人相手に非正規品として売ることはできるだろうが、正規品より高くは売れないだろうし、トラブルに巻き込まれる可能性もある。
 セシリーとコリンのことを考えると特に、中級魔法薬師の資格を取るというのが俺の最初の目標になった。
 試験は年に一度、試験会場は国内に複数設けられる。その会場の一つが迷宮の縁だった。

 俺が迷宮の縁に行きたいと言うとセシリーは不安そうな表情になった。迷宮の縁は遠い。規模は落ちるがもう少し近くの迷宮都市のほうがいいのではないか、それがセシリーの意見だった。長旅は避けたかったのだろう。コリンと一緒なのだから当然だ。

 俺としてはコリンのことがあるからこそ迷宮の縁に向かいたかった。上司の件で俺はこの世界での教育の価値も思い知っていた。前世どころではない。学園とまではいかなくてもできるだけいい教育を受けさせたい。それは死んだ両親や兄のためでもあるような気がした。
 コリンは彼らの血を継いでいく。ひどい生活はさせたくなかった。迷宮の縁は中級魔法薬師試験の会場になっているような都市だ。迷宮によったものだが、高等学校も工房や研究所もある。できるだけ機会の多い環境で育ってほしかった。

 気が進まないふうなセシリーに、試験に受かれば以前ほどではなくてもそれなりの生活ができる。初級魔法薬師として暮らすにしても薬の材料も手に入りやすく魔法薬の需要も高い。人の出入りが激しく仕事も多いと聞くから子育てが落ち着いたらセシリーの仕事も見つかりやすい。できるだけたくさん利点を伝えた。
 最後にはセシリーも渋々といった様子だったが納得してくれた。

 迷宮の縁には公共交通機関を乗り継いで向かった。時間はかかったがそれが一番安価で比較的安全だった。
 旅の途中で冒険者に会えば様子を見てできるだけ話しかけた。
 情報をもらえることもあったし、薬の材料を相場より安くゆずってもらったり、自作の魔法薬を直接買ってもらったりすることもあった。
 何回か魔物に襲われたけど幸い強い魔物にはあたらず、雇われた冒険者や乗合になった冒険者たちが片付けてくれた。
 そういう現場に行きあった場合は魔物の解体方法を傍で見て覚えた。彼らが使わない素材を譲ってもらえることもあった。
 魔物の脂肪は捨てられることも多いが精製するといい基材になる。少量なら携帯用の器具で精製可能だ。
 お礼に雑薬、魔法薬でない傷薬や保湿用の軟膏なんかがそう呼ばれているのだが、それを分けてあげると特に女性冒険者に喜ばれた。話を聞いてハーブなどで匂いをつけてみると、いくらかのお金や日用品なんかと交換してもらえることもあった。

 彼らと話しているうちに言葉遣いはごく自然に以前に比べて乱暴になった。そのほうが受け入れてもらえた。俺は順応した。
 関わる大抵の人は優しかった。セシリーとコリンを連れていたからだろう。
 セシリーに話しかけてくる乗客もいて少し不安だったけど、セシリーもすぐに順応した。小さいころから商売を手伝っていたから人あしらいもうまい。過去を知らない相手と話すのはいい気晴らしにもなるようだった。

 彼女にはずっと俺しか話し相手がいなかったのだ。ある時ふいに気づいた。
 セシリーは笑うようになった。
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