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結局、迷宮の縁に辿り着くのに、二か月以上が必要だった。
前世と違って公共交通機関は時刻表通りとはいかない。魔物が出て引き返す場合もあったし、大回りしなければいけない場合もあった。
コリンやセシリーが体調を崩し、途中の街で療養することもあった。
交通手段がない区間では隊商や冒険者の移動に交渉して同行させてもらうことになる。条件に合う同行者が見つかるまで足止めを食らうこともあった。
迷宮の縁に着いてからもしばらくは生活が定まらなかった。
ギルドで情報を集め、安宿を拠点に部屋を探し、結局落ち着くまでにはさらに数週間ほどが必要だった。
とはいえ俺は迷宮の縁で魔法薬師として働き始めた。
仕事は順調だった。冒険者の多いこの街では魔法薬は常に需要がある。魔法薬師も多いが初級回復薬は特に全ての冒険者にとって生命線のようなものだ。備蓄も他所への販売されていたし、値段も安定している。
軟膏や睡眠薬、二日酔いの薬のようなものも、必需品ではなかったが、大都市である迷宮の縁ではあるところには需要があった。
ただ、思っていた以上に物価が高く、特に家賃はびっくりするほど高かった。場所を選ばなければ安いところもあったけど、セシリーとコリンのことを考えると妥協できなかった。危ない場所は本当に危ない。その辺は旅で出会った冒険者たちからもよく注意されていた。
生活していけないわけではなかったけど、かつかつだった。ここに来るまでにはそれなりに金を使っていた。それを補填するほどの稼ぎにはならなかった。
自分がセシリーたちを連れてきたのだ、責任も感じていた。俺はちょっと焦っていた。
もっと稼げる仕事はないか、ギルド職員に相談してみると、横から声をかけてきたやつが明日の早い時間にギルドに来るといい、そう教えてくれた。
そいつはそれだけ言うと行ってしまったが、詳細については、ギルド職員が教えてくれた。
魔法薬師の中には自分たちで素材を採取しながら魔法薬を作っている者もいるらしい。
単純な話だ。魔法薬の素材は冒険者ギルドや魔法薬師ギルドで仕入れることができるが、自分で調達できればそれだけ利益が多くなる。朝の早いうちにギルドへ行けば、同行者を募っている魔法薬師に会えるだろうということだった。
彼らにしても同行者は多ければ多いほど安全だ。彼らの狩場は迷宮の森の周辺や浅い部分だ。通常は弱い魔物しかいない。素人の集まりとはいえ大人数のチームには普通は近づかない。
「危険がないわけではないんで、おすすめはしないですけどね」
ギルド職員は少し迷惑そうに言った。
ギルドとしては採取者は採取、魔法薬師は魔法薬作成、それぞれの仕事に集中することを推奨しているということだった。
そうはいっても禁止はしていないので、自己責任でやってもらう分にはいいですよ、ギルド職員は続けた。
「ただし採取にはいくつかルールがありますから、講習は受けてもらいます。気休めでも戦闘講習も受けておいた方がいいでしょうね。お金に余裕があるなら札を買っておくとより安全です。あのあたりなら炎系の魔術がいいでしょう。魔獣なら脅しとしては火が一番効きますから。脅し程度なら自分でも何とかなると思っているかもしれませんが、戦い慣れていないと魔物相手にとっさに魔術を使うのは難しい。新人の非戦闘職にはまず無理でしょう」
ギルド職員は少し諦めているように言った。忠告むなしく金を惜しんで死んでいく冒険者をたくさん見てきた、そう言いたげだった。
札というのは、魔術札、一回分の魔術を札の形で販売しているものだが、高価だ。ギルド職員がいう火炎魔術の札も一番安いものでも初級魔法薬師の半月分くらいの稼ぎが飛ぶ。ギルドの講習も、高くはないがタダではない。たしかに本末転倒だ。
しかし、俺は忠告に従うことにした。情報の大切さはこれまでの旅で学んでいた。火炎魔術は脅し程度のものなら使えたけど、ギルド職員が言うように実戦で魔物相手に使いこなす自信はない。
この世界の魔術は、手順を踏めば毎回同じ威力のものが同じように発動する、というものではない。術者のその時の状態、特に精神状態に深くかかわってくる。職員が言うように初心者が安定していない状態で使えばまず発動しない。
魔素と情動の間には何らかの関連があるというのはよくいわれていることだ。学園では体調と精神状態の両方を安定させるために、戦闘職を目指す者以外も運動の習慣づけを指導されていた。
魔術札は初級から中級の限られた魔術限定ではあるが、ある程度の威力の魔術を簡単な手続きで安定的に発動できる。今回のような用途にはうってつけだった。
前世で言うところの先行投資だ。セシリーとコリンのためにも死ぬわけにはいかない。幸い、まだ金に余裕もあった。
俺程度の冒険者には、金の余裕が命の余裕だ。俺はすぐに知ることになる。
俺が炎の札を購入すると、ギルド職員は少し見直したように俺を見て、講習選びのポイントを教えてくれた。採取についてはさほど難しい内容ではないが、メモを取れるものは持ってくるようにとのことだった。戦闘訓練については当たりはずれもあるらしい。評判のいい講師を教えてくれた。
「お金払ってるんだからなんでも質問することです。自分に合う武器と防具は最初に聞いておくほうがいいでしょう。それを頭に講習を受け、さらに質問する。生存率が上がります。相手がきれたくらいでひるんじゃだめですよ、ずうずうしくないと生き残れません」
ギルド職員の言葉だ。至言だ。俺は忠告に従い、戦闘訓練では自分に合う武器と用途に合った防具も教えてもらった。職員が言う通りその講師はあたりだった。迷惑そうにされたし怒鳴られたが忠告は適切だった。
前世と違って公共交通機関は時刻表通りとはいかない。魔物が出て引き返す場合もあったし、大回りしなければいけない場合もあった。
コリンやセシリーが体調を崩し、途中の街で療養することもあった。
交通手段がない区間では隊商や冒険者の移動に交渉して同行させてもらうことになる。条件に合う同行者が見つかるまで足止めを食らうこともあった。
迷宮の縁に着いてからもしばらくは生活が定まらなかった。
ギルドで情報を集め、安宿を拠点に部屋を探し、結局落ち着くまでにはさらに数週間ほどが必要だった。
とはいえ俺は迷宮の縁で魔法薬師として働き始めた。
仕事は順調だった。冒険者の多いこの街では魔法薬は常に需要がある。魔法薬師も多いが初級回復薬は特に全ての冒険者にとって生命線のようなものだ。備蓄も他所への販売されていたし、値段も安定している。
軟膏や睡眠薬、二日酔いの薬のようなものも、必需品ではなかったが、大都市である迷宮の縁ではあるところには需要があった。
ただ、思っていた以上に物価が高く、特に家賃はびっくりするほど高かった。場所を選ばなければ安いところもあったけど、セシリーとコリンのことを考えると妥協できなかった。危ない場所は本当に危ない。その辺は旅で出会った冒険者たちからもよく注意されていた。
生活していけないわけではなかったけど、かつかつだった。ここに来るまでにはそれなりに金を使っていた。それを補填するほどの稼ぎにはならなかった。
自分がセシリーたちを連れてきたのだ、責任も感じていた。俺はちょっと焦っていた。
もっと稼げる仕事はないか、ギルド職員に相談してみると、横から声をかけてきたやつが明日の早い時間にギルドに来るといい、そう教えてくれた。
そいつはそれだけ言うと行ってしまったが、詳細については、ギルド職員が教えてくれた。
魔法薬師の中には自分たちで素材を採取しながら魔法薬を作っている者もいるらしい。
単純な話だ。魔法薬の素材は冒険者ギルドや魔法薬師ギルドで仕入れることができるが、自分で調達できればそれだけ利益が多くなる。朝の早いうちにギルドへ行けば、同行者を募っている魔法薬師に会えるだろうということだった。
彼らにしても同行者は多ければ多いほど安全だ。彼らの狩場は迷宮の森の周辺や浅い部分だ。通常は弱い魔物しかいない。素人の集まりとはいえ大人数のチームには普通は近づかない。
「危険がないわけではないんで、おすすめはしないですけどね」
ギルド職員は少し迷惑そうに言った。
ギルドとしては採取者は採取、魔法薬師は魔法薬作成、それぞれの仕事に集中することを推奨しているということだった。
そうはいっても禁止はしていないので、自己責任でやってもらう分にはいいですよ、ギルド職員は続けた。
「ただし採取にはいくつかルールがありますから、講習は受けてもらいます。気休めでも戦闘講習も受けておいた方がいいでしょうね。お金に余裕があるなら札を買っておくとより安全です。あのあたりなら炎系の魔術がいいでしょう。魔獣なら脅しとしては火が一番効きますから。脅し程度なら自分でも何とかなると思っているかもしれませんが、戦い慣れていないと魔物相手にとっさに魔術を使うのは難しい。新人の非戦闘職にはまず無理でしょう」
ギルド職員は少し諦めているように言った。忠告むなしく金を惜しんで死んでいく冒険者をたくさん見てきた、そう言いたげだった。
札というのは、魔術札、一回分の魔術を札の形で販売しているものだが、高価だ。ギルド職員がいう火炎魔術の札も一番安いものでも初級魔法薬師の半月分くらいの稼ぎが飛ぶ。ギルドの講習も、高くはないがタダではない。たしかに本末転倒だ。
しかし、俺は忠告に従うことにした。情報の大切さはこれまでの旅で学んでいた。火炎魔術は脅し程度のものなら使えたけど、ギルド職員が言うように実戦で魔物相手に使いこなす自信はない。
この世界の魔術は、手順を踏めば毎回同じ威力のものが同じように発動する、というものではない。術者のその時の状態、特に精神状態に深くかかわってくる。職員が言うように初心者が安定していない状態で使えばまず発動しない。
魔素と情動の間には何らかの関連があるというのはよくいわれていることだ。学園では体調と精神状態の両方を安定させるために、戦闘職を目指す者以外も運動の習慣づけを指導されていた。
魔術札は初級から中級の限られた魔術限定ではあるが、ある程度の威力の魔術を簡単な手続きで安定的に発動できる。今回のような用途にはうってつけだった。
前世で言うところの先行投資だ。セシリーとコリンのためにも死ぬわけにはいかない。幸い、まだ金に余裕もあった。
俺程度の冒険者には、金の余裕が命の余裕だ。俺はすぐに知ることになる。
俺が炎の札を購入すると、ギルド職員は少し見直したように俺を見て、講習選びのポイントを教えてくれた。採取についてはさほど難しい内容ではないが、メモを取れるものは持ってくるようにとのことだった。戦闘訓練については当たりはずれもあるらしい。評判のいい講師を教えてくれた。
「お金払ってるんだからなんでも質問することです。自分に合う武器と防具は最初に聞いておくほうがいいでしょう。それを頭に講習を受け、さらに質問する。生存率が上がります。相手がきれたくらいでひるんじゃだめですよ、ずうずうしくないと生き残れません」
ギルド職員の言葉だ。至言だ。俺は忠告に従い、戦闘訓練では自分に合う武器と用途に合った防具も教えてもらった。職員が言う通りその講師はあたりだった。迷惑そうにされたし怒鳴られたが忠告は適切だった。
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