りんご成金のご令息

けい

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 試験に落ちたのは、試験問題の傾向や準備不足、色々理由はあるけど、私生活が慌ただしくあまり本調子ではなかったというのも理由だ、と思う。負け惜しみかもしれないけど。
 レオは俺を甘いというけど、うん、俺はメンタル鋼というタイプではない。周囲に影響されやすく、悪くすると勝手に色々考えて勝手に追い詰められていく。自覚はある。

 まずセシリーが今の旦那さんを連れてきた。驚いた。正直ショックだった。
 彼らは一年ほど交際を続けたのち、つい先日結婚してセシリーは家を出た。
 俺はなんとなく、このままセシリーとコリンと三人で、ずっと生きていくんだろうと思っていた。なのにいきなり出てきた男に二人とも持っていかれてしまった。
 ……いや、いい人だけど。あんなことがあったセシリーがそれでも信じた相手に、文句言う気はないけれど。

 それからレオだ。気が付けばフィルとくっついて、フィルはロイとの同居を解消し、レオと暮らし始めた。
 なんでだよ、フィル師匠、そんなキャラじゃなかっただろ、レオは俺が好きなんじゃなかったのかよ、裏切り者、俺が酔っぱらって叫ぶとレオはまた俺の頭を抱きしめて、一番好きなのはノアだぜ、そう言ってくれたが嘘だった。すぐに、ありとあらゆる場面でフィルを優先するようになった。
 ……いや、いいけど、レオもフィルもいいやつだし、別にいいけど。
 ちなみに今は二人で長期の出張に出ている。フィルの仕事にレオがついていった形になる。そろそろ戻ってくるはずだけど試験の時はちょうど出発したばかりだった。だから落ちたとは言わないけど。

 そして相変わらずロイにはあまたの視線が投げかけられ、あまたの強者が挑み続けた。
 このころまでにはロイの難攻不落ぶりは周知されていたけど、育ちのいいロイは誘いを断る場合も紳士的だった。断られてもいいから言葉を交わしたい、あわよくば一晩でいいからお相手願いたい、そういうやつらが行列をなしていた。
 そんなことになれば敵も大勢作りそうなものだけどロイはその辺上手だった。丁寧に恨みを買わないように誘いを交わし、難癖をつけられてもうまいこと機嫌を取り、そのうちロイに声をかけてくる冒険者同士を引き合わせてくっつけるようなことをしだしたのを見て、俺はロイのコミュ力に恐れおののかずにはいられなかった。
 人生何回目だよ、俺で二回目だから、ロイは五回くらいは人間をやっているのかもしれない。

 人生五回目のロイは集めに集めた視線をうまいこと利用してこの地で上手に人脈を築いた。
 顔がいいだけの優男ではなく冒険者としての能力も高いことはすぐに知れ渡った。今やB級冒険者だ。
 チームのランクはCだったけど、最初は足手まといと見られていた俺やレオをうまく使い、素材採取の分野では一定の評価を得ている、それも、ロイの手腕ととらえられているようだ。
 それはどちらかと言えばフィルの手柄なのだが、外部との交渉周りはロイが引き受けることが多いので、箔をつけるためにも訂正はしていない。

 俺はというとランクはまだD級のままだ。とうとうレオに追いつかれてしまった。試験に受かれば無条件でC級に上がれるということだったのだけど、受からなかったのだからしょうがない。

 ……実はけっこう落ち込んだ。
 中級魔法薬師の資格を得て冒険者としてC級に上がれば、内容はともかく字面だけ見れば立派なものだ。戦闘職でない冒険者はだいたいC級止まりだ。魔法薬師でB級以上なんて、未踏破迷宮の探索者レベルでなければなれない。
 だから、C級になればロイの隣に並んでも見劣りすることはない。友人として恥ずかしくない程度にはなりたかったのだ。

 セシリーとコリンが家を出て、引っ越し先を探していた俺にロイが同居を持ち掛けてきたとき、最初は素直に受けられなかった。
 これ以上ロイを好きになりたくない、そんなのは無理だった。むしろ昔よりずっと好きになっていた。俺は悪くない。こんなん好きになるにきまってる。
 こんな状態で同居なんて始めたらどうなってしまうか分からなかった。

 迷宮の縁でのロイとの距離は学園時代よりずっと近かった。育ちのいい子息たちの中で礼儀正しく過ごしていた時とは違う。共に笑い、共に怒り、共に苦難を乗り越えながら、ロイは学園時代よりずっと気軽に俺にふれるようになった。
 ノアさんはロデリックさんとお付き合いをしているのですか? どころではない。そのうち俺は、ノア、もしかしてロイと付き合ってるけど隠してる? 的な、ふざけたことを聞かれるまでになった。
 ロイが来るまでは夜の酒場にいれば声をかけられることもあったけど、気が付けばほとんどなくなっていた。
 さすがにロイと張り合う気はないよ、何回か声をかけられたことがある冒険者に笑ってそう言われた時は、何と返していいか分からなかった。

 ロイのスキンシップはレオとフィルが旅に出ると、またもう少し過剰になった。
 そのころにはセシリーの結婚も決まっていた。婚約者と会うためにセシリーとコリンが家を空けることも多くなっていた。もちろん俺も誘われたけど、遠慮した。俺がいるとコリンは俺にばかりなつく。親子になる三人で仲良くしてほしかった。
 残された俺はロイと二人で外で食事をとることが多くなった。

 きっかけとなった夜を覚えている。
 まだレオとフィルを見送ってから間もないころだ。俺はロイと二人でギルドの酒場で夕食を取っていた。
 俺は少し飲みすぎていた。その日はセシリーとコリンが泊りがけで出かけており、家に帰っても一人だった。酔って帰ってもあきれて咎めるセシリーがいないと思うと、解放感と寂しさから酒が進んだ。
 いつものように机に突っ伏した時、ここにレオがいれば甘やかしてくれたのに、ふと思った。でもレオはいない、何かとても寂しくなった。
「レオがいなくて寂しい」
 俺が思わず呟くと、
「俺がいるだろう?」
 ロイは笑ってそう言ったけど、彼にしては珍しく少し拗ねているようにも聞こえた。俺は気分が良くなった。調子に乗った。
「……ロイじゃレオの代わりにはならない」
「なんでだよ、」
「だってロイは、レオみたいにぎゅっとしてくれな……」
 俺は最後まで言うことができなかった。
 ロイは俺の頭を抱いて、俺の髪の匂いを嗅いで、耳元に軽いキスをした。ホーソン家の石鹸の匂いとロイの汗の匂いがした。
「ノアはかわいいな、大好きだぜ」
 ロイは小さく囁いた。
「…おまえ、なにしてんだよ!」
 俺は思わずロイの腕を振り払った。レオの真似だとはわかっていたが、羞恥に心臓が早鐘を打った。酒場のど真ん中でこんなことをしていた俺たちには、いくつかからかう声が飛んだけど、俺は聞いていなかった。
「ぎゅっとして、キスもした、これで寂しくないだろう?」
 ロイは何でもないように言った。俺はロイの顔を見ていることもできなくなり、額をぶつけるようにしてまた机に突っ伏した。
「これに懲りたらもう二度とレオと比べるようなことは言わないでくれよ? レオだって俺の代わりにはならないだろう?」
 ロイはなんでもないように言いながら俺の髪をかき混ぜた。俺は無言を貫いた。確かに失礼なことを言ったかもしれない、謝っても良かったのだけど、恥ずかしくて顔を上げられなかった。
 ロイは機嫌がよさそうだった。声はとても優しかった。俺はきっと真っ赤になっていただろう。
 ロイにとってはこんなこと何でもないことなんだろう、でも俺は、ロイに抱かれたあの日のことを思い出さずにはいられなかった。

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