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よく考えればあり得ないことではなかった。最近忘れがちだけど、ロイはお貴族様なのだ。
なんでもロイは俺が学園を出た後、両親と交渉したらしい。まずは俺の家に婚約を申し込んで欲しいと。そして驚いたことにロイの要求は通った。どうやったんだ、なんか怖い。
もちろん、ロイの両親は条件を付けた。ロイが成績優等で卒業することだ。しばらくは勉強にかかりきりだったという。
あの時点のロイにその条件を出したところから見て、両親はロイに俺のことを諦めさせようとしたのだろう。しかし、要領のいいロイはどうにかそれを達成した。
もちろん、彼の両親はロイから話を聞いてすぐに俺のことを調べさせたようだ。そしてロイより早く俺の出奔を知った。セシリーが預けられた修道院の場所までは突き止めていたらしい。相手は子爵家だ、姉の夫だった人は何らかの交渉の末、情報を渡したのだろう。
卒業後にそれを知らされたロイは王都で決まっていた仕事を蹴って、俺を探すために冒険者になった。俺が冒険者になったことを聞いたからだという。
社交界ではホーソン家の次男が恋に狂って思い人を探し回っていると、ちょっとした話題になったのだそうだ。
それが俺とロイをつないだのだから世間は狭いというか、ロイに俺の情報を流したのは俺に愛人契約を持ち掛けてきた人、詳しくは教えてもらえなかったのだが、どうやら彼は貴族だったらしい。
俺のことを調べさせ、学園までたどり着き、ちょっとした遊び心でロイにも情報を渡してきたのだそうだ。
「それで、必死に迷宮の縁を目指して、ようやく会えたと思ったら「忘れてくれ」と「友達だと思ってる」の連結技だ、天国から一気に地獄だぞ、さすがの俺も取り繕うのに必死だった。その上おまえはレオばかりだし」
ロイは、冗談めかしてはいたもののなかなか恨みがましげだった。
「……言ってくれればよかったのに」
全くその通り、言い訳のしようもないが、それも本心だ。
「言えるかよ、友達だと思ってたやつがこんなところまで追いかけてきて婚約を申し込んでくるとか、怖いだろ。まずは信頼関係を作り直して、そこから攻めるほうが確実だ。セシリーさんとコリンもいるし。最悪、コリンが一人前になるまでは様子見だと思っていたからな、早い方だよ。セシリーさんの旦那さんには感謝しかない。……一応言っておくが、セシリーさんたちを邪魔者扱いしてたわけじゃないぞ、ノアの家族だ」
そう言われればロイは俺のために口を閉ざしてくれていたのだと納得せざるを得なかった。
「それに勝算はあったし」
「勝算?」
「ノアは相手が誰であれ遊びで寝るようなやつじゃない。学園のやつらならみんな賛成してくれるだろ。そのノアが処女をくれたんだ、勝算はじゅうぶんある。外れてなかっただろう?」
ロイは言うと、俺の額にキスをした。
結局その日は一緒にベッドに寝転がって、キスをしたり、ふれあったり、挿入なしのセックスみたいなことをして寄り添いあって眠った。
あまりたいしたことはしなかった。止められなくなりそうで怖かった。それでも、ものすごく久しぶりにロイにふれて、ふれられて、骨がとけたみたいにぐにゃぐにゃになった。ロイはどこか追い詰められたような目で俺を見た。俺も似たようなものだったと思う。なんかものすごくえろい気分になった。しかし一旦お預けとなった。
お互い不完全燃焼だったが、ロイの方も次の日に予定を入れていた。俺たちは性欲より仕事を優先できる程度には大人になったということだ。
翌日だけではなく、引っ越しやセシリーの件で、色々なことを後回しにしていた俺には、片付けなければならないことがたくさんあった。しばらく、一か月くらいは待ってほしい、多少申し訳なく思いながらも言うと、ロイは苦笑しながらもうなずいてくれた。
これだけ待ったんだから追加で一か月くらい待つよ、というのはもしかしたら半分くらいは皮肉かもしれないけど。
俺はその猶予期間を使って仕事や用事を片付けながらも、合間合間に準備を進めた。
幸いにもここは同性同士の恋愛が当たり前の世界だ、学園時代の保健体育的な性教育でも最低限は習ったし、必要な薬品や道具も当たり前のように売っていたし、レオにもいくらか聞いたことはあった。
レオの性事情なんてあんまり聞きたくなかったんだけど、こうなってみればありがたかった。
思えばレオは俺に見えていないものが見えていたのだろう、年下みたいに小柄でかわいい顔はしていても、レオは俺より年上だしずっとしっかりしているのだ。
帰ってくるまで預かっといて、そう押し付けられた箱をおそるおそる開いて、名前を聞いていた店に行き、同じ道具をそろえた。店の人はとても丁寧にカウンセリングをしてくれた。話の途中でレオのことを話すと、彼は何か思いだしたような顔をしておまけをつけてくれた。
初心者向けの指南書だった。保健体育的な手順というより性技関係だ。レオが何を言ったのかは知らないけど俺はありがたくもらっておいた。ロイとの最初の日の自分がだいぶひどかった自覚はあった。少しは挽回したかった。
……まさか、ロイ、レオに余計なこと言ってないだろうな、一瞬だけ疑ったけど、ロイはそんなことしない。多分。
そうやって何食わぬ顔で家に帰ると、ロイがいるのが嬉しかった。
もう少しの間踏み越えることがないように、友達の顔で言葉を交わし、食事をとり、雑談をしたり、思い出話をしたり、仕事の打ち合わせをした。
結局ほとんど飲むことはなかったリコの酒もしまい込んだ。アルコール怖い。あの夜は、悪くすれば酔った勢いで人間関係を壊しかねないあれだったのだ、それでうまくいったというのは単なる結果論だ。
もちろん寝室も分けたままだ。
俺は一人でベッドに寝転がりながら、なんというか体の準備をしたり、おまけでもらった指南書を読んだ。勉強には慣れているがこればっかりは座学でどうにかなるようなものでもないような気はした。しかしもちろん何であれ学ぶことはそうしないよりいいだろう。
一人で体をいじりながら、ロイのことを考えていると、時々ものすごく寂しくて、ものすごく不安な気持ちになった。
婚約、というパワーワードにすっかり幻惑されていた俺も半月もたてば冷静になった。
よく考えれば何も変わっていない。俺は相変わらずロイに釣り合うほどではなく、ロイは相変わらず視線を集め続けた。怖くなった。こうなってみれば改めて、自分がロイに依存しすぎていることを意識しないではいられなかった。今ここで俺が得ている仕事も、ほとんどはロイからもらったようなものだ。何もかも明け渡して結局失ったら俺にはもう帰る場所もない。
ただ、ロイは声をかけられても、すぐに断りを入れてくれるようになった。
「ノアと付き合うことになったから」
最初にロイが言ったとき周囲がざわめくのが分かった。俺はまさかそんなに急にオープンにされるとは思わなかったので目を見開いて固まった。
「だめだった?」
ロイはにこりと笑った。
「だめじゃない」
俺は言い、耐えきれずに視線を落とした。
ロイは俺の頭にキスをした。俺は恋愛モノの主人公になったみたいな気分になった。
「あー、残念だけど、おめでとう」
ロイに声をかけた冒険者、引きがいい彼がどれだけロイに本気だったかは分からないけど、多少ひきつった笑みでそう言えるくらいには人間ができた人だった。
俺よりランクも高く、俺より外見も洗練されていて、俺だったら俺よりこの人を選ぶかも、そう思ってしまう自分が嫌だった。
気持ちが上がったり、下がったり、また上がったり、精神的にくたくただった。
それでも仕事はちゃんとした。俺も大人になったものだと思う。一月もすれば溜まっていた仕事も片付いて、どうしてもやらないといけないようなことは、探してもなくなっていた。
……うん、探した。俺はこのころには問題を先送りにするためだけに、わざと仕事を増やしたりしていた。ロイは気づいていたのかもしれないけど、指摘はしないでいてくれた。
その日の仕事は夕方の早い時間に終わったので、俺は家に帰って夕食を作った。塩漬けの燻製肉と芋、バターやチーズやその他何種類かの野菜を使った、いわゆるキャセロール料理のようなものだ。
一緒に住んでいたころにはセシリーが時々そんなふうに凝った料理を作ることがあった。今思えば彼女のあれも無心になりたかったからだろう。
ロイの帰宅に合わせて料理をオーブンに入れると、お茶を入れて、キッチンでぼんやりとロイの帰宅を待った。
ロイはいつもより早い時間に帰ってきた。
俺が彼の分のお茶を入れると、ロイもテーブルについて料理の出来上がりを待った。時々二人でオーブンをのぞきながら、適当な話をして時間を潰す。
ロイとこういう時間を過ごすのが俺は好きだった。友達の距離はただ心地よかった。俺はふと、なかったことにして欲しいと言ったら、ロイはどんな顔をするのだろう、そう思った。
案外ロイのことだから例の笑顔であっさりと受け入れてくれるかもしれない。
「……明後日から、二日ほど、休みが取れそうなんだ」
俺はオーブンの扉を開けながら、出来るだけさりげなさを装って言った。
「……その日なら、俺も休みが取れると思う」
どれだけさりげなさを装ったところで、この文脈においてそれはセックスの誘いだった。ロイは一瞬沈黙し、それを受けた。少しだけ友達の線を踏み越えた駆け引きめいたやりとりは、俺には少しストレスだった。
溶けたチーズの良い匂いがしている。おいしそうだけどもう少し焦げ目をつけたい。俺は大きな鍋つかみを取って皿を一段上段に上げた。
「もう少し?」
ロイはどこか甘い声で囁いた。
「もう少し。……なぁ、ロイ、本当に俺でいいのか? 俺、だめになるくらいなら、このまま友達でいたい」
俺はオーブンの扉を閉めると、なかば衝動的に言った。
「……駄目、無理、俺はもう友達とか無理。俺はノアがいい。ノアじゃなければ嫌だ」
ロイはオーブンの扉をほとんど睨みつけながら口早に言った。
「……そうなのか?」
まさかそんな交渉の余地もないような返事が返ってくるとは思わなかった。俺は少しあっけにとられた。
「そうだ。多分おまえが思っているより、俺はおまえが好きだよ」
ロイは言った。
なんでもロイは俺が学園を出た後、両親と交渉したらしい。まずは俺の家に婚約を申し込んで欲しいと。そして驚いたことにロイの要求は通った。どうやったんだ、なんか怖い。
もちろん、ロイの両親は条件を付けた。ロイが成績優等で卒業することだ。しばらくは勉強にかかりきりだったという。
あの時点のロイにその条件を出したところから見て、両親はロイに俺のことを諦めさせようとしたのだろう。しかし、要領のいいロイはどうにかそれを達成した。
もちろん、彼の両親はロイから話を聞いてすぐに俺のことを調べさせたようだ。そしてロイより早く俺の出奔を知った。セシリーが預けられた修道院の場所までは突き止めていたらしい。相手は子爵家だ、姉の夫だった人は何らかの交渉の末、情報を渡したのだろう。
卒業後にそれを知らされたロイは王都で決まっていた仕事を蹴って、俺を探すために冒険者になった。俺が冒険者になったことを聞いたからだという。
社交界ではホーソン家の次男が恋に狂って思い人を探し回っていると、ちょっとした話題になったのだそうだ。
それが俺とロイをつないだのだから世間は狭いというか、ロイに俺の情報を流したのは俺に愛人契約を持ち掛けてきた人、詳しくは教えてもらえなかったのだが、どうやら彼は貴族だったらしい。
俺のことを調べさせ、学園までたどり着き、ちょっとした遊び心でロイにも情報を渡してきたのだそうだ。
「それで、必死に迷宮の縁を目指して、ようやく会えたと思ったら「忘れてくれ」と「友達だと思ってる」の連結技だ、天国から一気に地獄だぞ、さすがの俺も取り繕うのに必死だった。その上おまえはレオばかりだし」
ロイは、冗談めかしてはいたもののなかなか恨みがましげだった。
「……言ってくれればよかったのに」
全くその通り、言い訳のしようもないが、それも本心だ。
「言えるかよ、友達だと思ってたやつがこんなところまで追いかけてきて婚約を申し込んでくるとか、怖いだろ。まずは信頼関係を作り直して、そこから攻めるほうが確実だ。セシリーさんとコリンもいるし。最悪、コリンが一人前になるまでは様子見だと思っていたからな、早い方だよ。セシリーさんの旦那さんには感謝しかない。……一応言っておくが、セシリーさんたちを邪魔者扱いしてたわけじゃないぞ、ノアの家族だ」
そう言われればロイは俺のために口を閉ざしてくれていたのだと納得せざるを得なかった。
「それに勝算はあったし」
「勝算?」
「ノアは相手が誰であれ遊びで寝るようなやつじゃない。学園のやつらならみんな賛成してくれるだろ。そのノアが処女をくれたんだ、勝算はじゅうぶんある。外れてなかっただろう?」
ロイは言うと、俺の額にキスをした。
結局その日は一緒にベッドに寝転がって、キスをしたり、ふれあったり、挿入なしのセックスみたいなことをして寄り添いあって眠った。
あまりたいしたことはしなかった。止められなくなりそうで怖かった。それでも、ものすごく久しぶりにロイにふれて、ふれられて、骨がとけたみたいにぐにゃぐにゃになった。ロイはどこか追い詰められたような目で俺を見た。俺も似たようなものだったと思う。なんかものすごくえろい気分になった。しかし一旦お預けとなった。
お互い不完全燃焼だったが、ロイの方も次の日に予定を入れていた。俺たちは性欲より仕事を優先できる程度には大人になったということだ。
翌日だけではなく、引っ越しやセシリーの件で、色々なことを後回しにしていた俺には、片付けなければならないことがたくさんあった。しばらく、一か月くらいは待ってほしい、多少申し訳なく思いながらも言うと、ロイは苦笑しながらもうなずいてくれた。
これだけ待ったんだから追加で一か月くらい待つよ、というのはもしかしたら半分くらいは皮肉かもしれないけど。
俺はその猶予期間を使って仕事や用事を片付けながらも、合間合間に準備を進めた。
幸いにもここは同性同士の恋愛が当たり前の世界だ、学園時代の保健体育的な性教育でも最低限は習ったし、必要な薬品や道具も当たり前のように売っていたし、レオにもいくらか聞いたことはあった。
レオの性事情なんてあんまり聞きたくなかったんだけど、こうなってみればありがたかった。
思えばレオは俺に見えていないものが見えていたのだろう、年下みたいに小柄でかわいい顔はしていても、レオは俺より年上だしずっとしっかりしているのだ。
帰ってくるまで預かっといて、そう押し付けられた箱をおそるおそる開いて、名前を聞いていた店に行き、同じ道具をそろえた。店の人はとても丁寧にカウンセリングをしてくれた。話の途中でレオのことを話すと、彼は何か思いだしたような顔をしておまけをつけてくれた。
初心者向けの指南書だった。保健体育的な手順というより性技関係だ。レオが何を言ったのかは知らないけど俺はありがたくもらっておいた。ロイとの最初の日の自分がだいぶひどかった自覚はあった。少しは挽回したかった。
……まさか、ロイ、レオに余計なこと言ってないだろうな、一瞬だけ疑ったけど、ロイはそんなことしない。多分。
そうやって何食わぬ顔で家に帰ると、ロイがいるのが嬉しかった。
もう少しの間踏み越えることがないように、友達の顔で言葉を交わし、食事をとり、雑談をしたり、思い出話をしたり、仕事の打ち合わせをした。
結局ほとんど飲むことはなかったリコの酒もしまい込んだ。アルコール怖い。あの夜は、悪くすれば酔った勢いで人間関係を壊しかねないあれだったのだ、それでうまくいったというのは単なる結果論だ。
もちろん寝室も分けたままだ。
俺は一人でベッドに寝転がりながら、なんというか体の準備をしたり、おまけでもらった指南書を読んだ。勉強には慣れているがこればっかりは座学でどうにかなるようなものでもないような気はした。しかしもちろん何であれ学ぶことはそうしないよりいいだろう。
一人で体をいじりながら、ロイのことを考えていると、時々ものすごく寂しくて、ものすごく不安な気持ちになった。
婚約、というパワーワードにすっかり幻惑されていた俺も半月もたてば冷静になった。
よく考えれば何も変わっていない。俺は相変わらずロイに釣り合うほどではなく、ロイは相変わらず視線を集め続けた。怖くなった。こうなってみれば改めて、自分がロイに依存しすぎていることを意識しないではいられなかった。今ここで俺が得ている仕事も、ほとんどはロイからもらったようなものだ。何もかも明け渡して結局失ったら俺にはもう帰る場所もない。
ただ、ロイは声をかけられても、すぐに断りを入れてくれるようになった。
「ノアと付き合うことになったから」
最初にロイが言ったとき周囲がざわめくのが分かった。俺はまさかそんなに急にオープンにされるとは思わなかったので目を見開いて固まった。
「だめだった?」
ロイはにこりと笑った。
「だめじゃない」
俺は言い、耐えきれずに視線を落とした。
ロイは俺の頭にキスをした。俺は恋愛モノの主人公になったみたいな気分になった。
「あー、残念だけど、おめでとう」
ロイに声をかけた冒険者、引きがいい彼がどれだけロイに本気だったかは分からないけど、多少ひきつった笑みでそう言えるくらいには人間ができた人だった。
俺よりランクも高く、俺より外見も洗練されていて、俺だったら俺よりこの人を選ぶかも、そう思ってしまう自分が嫌だった。
気持ちが上がったり、下がったり、また上がったり、精神的にくたくただった。
それでも仕事はちゃんとした。俺も大人になったものだと思う。一月もすれば溜まっていた仕事も片付いて、どうしてもやらないといけないようなことは、探してもなくなっていた。
……うん、探した。俺はこのころには問題を先送りにするためだけに、わざと仕事を増やしたりしていた。ロイは気づいていたのかもしれないけど、指摘はしないでいてくれた。
その日の仕事は夕方の早い時間に終わったので、俺は家に帰って夕食を作った。塩漬けの燻製肉と芋、バターやチーズやその他何種類かの野菜を使った、いわゆるキャセロール料理のようなものだ。
一緒に住んでいたころにはセシリーが時々そんなふうに凝った料理を作ることがあった。今思えば彼女のあれも無心になりたかったからだろう。
ロイの帰宅に合わせて料理をオーブンに入れると、お茶を入れて、キッチンでぼんやりとロイの帰宅を待った。
ロイはいつもより早い時間に帰ってきた。
俺が彼の分のお茶を入れると、ロイもテーブルについて料理の出来上がりを待った。時々二人でオーブンをのぞきながら、適当な話をして時間を潰す。
ロイとこういう時間を過ごすのが俺は好きだった。友達の距離はただ心地よかった。俺はふと、なかったことにして欲しいと言ったら、ロイはどんな顔をするのだろう、そう思った。
案外ロイのことだから例の笑顔であっさりと受け入れてくれるかもしれない。
「……明後日から、二日ほど、休みが取れそうなんだ」
俺はオーブンの扉を開けながら、出来るだけさりげなさを装って言った。
「……その日なら、俺も休みが取れると思う」
どれだけさりげなさを装ったところで、この文脈においてそれはセックスの誘いだった。ロイは一瞬沈黙し、それを受けた。少しだけ友達の線を踏み越えた駆け引きめいたやりとりは、俺には少しストレスだった。
溶けたチーズの良い匂いがしている。おいしそうだけどもう少し焦げ目をつけたい。俺は大きな鍋つかみを取って皿を一段上段に上げた。
「もう少し?」
ロイはどこか甘い声で囁いた。
「もう少し。……なぁ、ロイ、本当に俺でいいのか? 俺、だめになるくらいなら、このまま友達でいたい」
俺はオーブンの扉を閉めると、なかば衝動的に言った。
「……駄目、無理、俺はもう友達とか無理。俺はノアがいい。ノアじゃなければ嫌だ」
ロイはオーブンの扉をほとんど睨みつけながら口早に言った。
「……そうなのか?」
まさかそんな交渉の余地もないような返事が返ってくるとは思わなかった。俺は少しあっけにとられた。
「そうだ。多分おまえが思っているより、俺はおまえが好きだよ」
ロイは言った。
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