僕は美女だったらしい

寺蔵

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時間を戻して、夏の話

ザコ相手にラスボスが出るわけねーだろ

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「無視してんじゃねーよクソガキが……!」

 背後で激昂した男達の声が響く。
 ひいいいい。

「黙れよバァーカ。テメーらみたいなザコ相手にウチのラスボスが出るわけねーだろ」

 いつもは敬語で喋る真十郎君が(ヒロト君が相手だと敬語じゃないけど)、別人みたいな口調で男たちを罵りながら、一歩前に進んだ。

「そうそう。まずはこのスライムナイト様とスライムAが相手だっつーの」
 ヒロト君も面白そうに金属の塊のようなものを手のひらで弾ませながら立ち塞がる。

 相手は20代の男だ。しかも6人もいるというのに、たった2人だけで相手をしようとしてた。

「あ? スライムバカにすんなよ? レベルアップさせりゃスッゲー戦力になるんだぞ。あいつの潜在能力半端ねえからなマジで」

 真十郎君がヒロト君に食ってかかる。

「『ふるふるボク悪いスライムじゃナイヨーふるふる』ってとこがお前そっくり」
「てめー!!!」

 顔を真っ赤にした真十郎君がヒロト君の胸倉をつかむ。いきなり身内で喧嘩をし始めた。

「や、八鬼、相手6人もいるのに、ヒロト君と真十郎君だけでいいの!?」

 僕は震える指をそのままに八鬼の袖を引いてしまった。
 あの2人も相手そっちのけで喧嘩し出したけど……!

「珍しくお前が自分で食ってるのに、アホの相手してる暇なんかねーよ」

 ぼ、僕が食べることは年中行事かなにかかな? イベントみたいな扱いにされても困るんだけど!

「薫君! 手を貸さなくていいの!?」
 八鬼と同じく無視して歩き出した薫君の袖を引く。

「私たち女は男の喧嘩を高みの見物してればいいのよ」
 僕、男です! 薫君も男じゃないか!
 どうしよう……。僕も喧嘩に参加したほうがいいのかな? 僕めちゃくちゃ喧嘩弱いけど……!

「ガキが……!!!」

 真十郎君とヒロト君が喧嘩している横を抜け、男が一人走り込んできた。
 僕がボスだと思ったマッチョな大男だ。
 八鬼の顔面をめがけて拳を振り上げる。

「やぎ――――!!」

 こんな人に殴られたら頬骨ぐらい簡単に叩き折られてしまう!
 八鬼が傷つけられる!

 悲鳴を上げる僕の前で八鬼が動いた。

 ドンと、まるで大砲でも撃ったかのような重たい打撃音が空気を揺らす。

 八鬼に殴りかかった男が、頭から地面に叩きつけられた。

 え?

 何が起こった?
 呆然として八鬼を見ると、長い脚が男の顔の高さまで上がっていた。

 えっえっえ???
 あ、そうか。
 八鬼が、男の顔面に蹴りを入れたんだ。

 ドンってすごい音は八鬼が蹴りを入れた音だったんだ。

 八鬼よりもはるかに年上で、はるかに強そうに見えた男は、八鬼のたった一撃で地面に叩きつけられていた。

「って」
 八鬼は上げた足を下ろしながら忌々しそうに舌を打った。

「草履で蹴らすんじゃねーよ足痛ェじゃねえか。どうしてくれんだ? あぁ?」

 乱れた浴衣をなおしながら、失神し白目を剥いて鼻血と泡を吹き始めた男の顔をぐりぐりと踏みしめる。

「あーあーだから言ったのに。バラモスに挑む前にスライムとスライムナイトでレベルアップしねーとなぁ」

 ヒロト君が地面に伸びた男を観ながら憐れんだ声を出す。
 喧嘩が始まった。5人の大人対2人の15歳の喧嘩だ。

 だけど、一番強いボス男が八鬼のたった一撃で粉砕された相手は、ほとんど戦意を喪失していた。

「漬物」

 背後の喧騒を他所に、八鬼が僕の手を引いて漬物の屋台に向かい始めた。

 一時期ご飯が食べられなかったときに八鬼の前で唯一食べたのがモモとパイン、そして漬物だ。
 どうやら八鬼はそれらが僕の大好物だと勘違いしている節があった。

「八鬼、八鬼、普通にかき氷とかの方がいいな」
 漬物も嫌いじゃないけどさ。
「かき氷ぃ? 栄養ねーだろあんなもん」
 屋台の食べ物に栄養を求めるのはどうかと思うのです。

「じゃあ…………あ、ラムネ飲みたいです!」

 広場の中央にラムネ売りのワゴンがあった。
 氷がたっぷりのワゴンに埋まるたくさんのラムネ。
 すっごく美味しそう! 見ているだけで涼しくなるよ!

 八鬼は少々不満そうにしたものの、文句は言わずに買ってくれた。

 ひょっとしたら、昔、ペットボトルのジュースを買ってくれた時に蓋を開けることもできずに「いらない」と突っぱねたのを思い出したのかもしれない。

 自分から進んで飲むのならば、ラムネでも妥協しなければ、といったところなのかも。
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