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第六話 死にたがりクラブ
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次の日の昼休み、美冬の通う高校。
文学部部室。
校舎とは渡り廊下で繋がっている築三十年以上の木造の部室棟の中に、文学部の部室もあった。
そして安藤敏生は此処にいた。
安藤はいつも此処でお昼を済ませ、休み時間一杯までスマホで音楽を聴きながら、読書をするのが日課だった。
いつもなら他にも誰か居たりする筈の部室。しかしその日はたまたま一人だった。
ガラッ
突然引き戸を引いて入って来る美冬。
美冬もまた文学部員だった。
「やっぱり今日も居た」
美冬は入って来て直ぐに部室のテーブルで本を読んでいる安藤を見つけると、呆れた様な声で開口一番にそう言った。
「あ、瀬川さん」
だから安藤は本から目線を上げて、スマホのイヤホンを外す。
美冬の存在を確認したからだ。
「何か用事?」
気さくな素振りで話す安藤。
「うん。用事」
美冬はニコッと笑って言った。
「何?」
「安藤君、同じクラスの佐々木舞、どう思う?」
「どう思うって?」
「可愛いと思わない? 眼鏡も似合ってて、胸も大きいし、なんか、萌えない?」
「は? 何それ? どしたの急に?」
安藤は美冬の話に困惑した。
「だから、佐々木さんと付き合ってみない?」
「なにそれ?」
「佐々木さんは安藤君の事が好きなんだって」
相変わらず美冬はニコニコして言った。
「ちょっと、待ってよ」
「何で? 何を?」
そこで安藤は軽く溜息を付くと、開いたままにしていた本を閉じて、それから真剣な顔をして椅子から立ち上がると、美冬の方に向かって歩き近づいた。
「俺、一週間前に瀬川さんに振られたんだぞ。何考えてんの?」
「だから丁度良いじゃない。私の事を忘れて、新しい恋をしたら」
美冬は笑顔で答えた。
「俺はまだ、瀬川さん好きだし。なんか、自分から引き離そうとしてるみたいだ」
「安藤君、相変わらずそういう所糞真面目だね」
そう言うと美冬の顔からは笑顔が消えて、今度は真面目な口調になって言った。
「舞に安藤君と付き合わせてあげるって、言っちゃったんだよね。何とかしてよ」
「何とかって、何考えてんだよ! 俺の気持ち知ってるくせに」
思わず安藤は怒鳴り声を上げた。
「だってさ、安藤君の死についての話。私が感化されたアレ。舞にも分かって貰いたいんだよ。だから安藤君と舞が付き合えば、安藤君に感化されて、舞も死ねるって思える瞬間が時々ある感覚が分かるんじゃないかって思って」
安藤は部活中、良く自分の死に対する自論をみんなの前で披露していた。
普通に暮らしていても、突然、今なら死ねると感じる時がある。
これは自分だけじゃなくて、きっとみんなにもある筈の感覚だ。
脳が考える事じゃなく、体が一瞬脳に反逆して起こす行為なのではなかろうか。
脳で考えたら死にたい人でも躊躇はある。
しかし、この突然感じる『死ねる』という感覚は、その瞬間に出来るなら、気持ちよく、無意識のままの感覚で死ねるのではないか。
この話に美冬は深く共感した。
「今なら死ねる」
そう感じた時が度々あったからだ。
しかし、先輩や、他の部員達はこの話を一笑に伏した。
そんな感覚を、感じた事がなかったからだ。
「それは何。佐々木さんも仲間に引き入れて、『死にたがりクラブ』でも作る気かい?」
安藤が言った。
「あ、いいねそれ。私も安藤君もどっかで死にたがっているし、死にたいって欠片も思った事無い人なんていない筈だし。きっと舞だって」
美冬は微笑みながら言った。
「ふざけてる。大体僕はそういう感覚が存在すると言っただけで自分から死にたいと言った訳じゃないよ」
安藤は美冬の目を見ながら言った。
「大丈夫。世の中みんなふざけてるから。ねえ、だから嘘でも舞と付き合ってよ」
つづく
文学部部室。
校舎とは渡り廊下で繋がっている築三十年以上の木造の部室棟の中に、文学部の部室もあった。
そして安藤敏生は此処にいた。
安藤はいつも此処でお昼を済ませ、休み時間一杯までスマホで音楽を聴きながら、読書をするのが日課だった。
いつもなら他にも誰か居たりする筈の部室。しかしその日はたまたま一人だった。
ガラッ
突然引き戸を引いて入って来る美冬。
美冬もまた文学部員だった。
「やっぱり今日も居た」
美冬は入って来て直ぐに部室のテーブルで本を読んでいる安藤を見つけると、呆れた様な声で開口一番にそう言った。
「あ、瀬川さん」
だから安藤は本から目線を上げて、スマホのイヤホンを外す。
美冬の存在を確認したからだ。
「何か用事?」
気さくな素振りで話す安藤。
「うん。用事」
美冬はニコッと笑って言った。
「何?」
「安藤君、同じクラスの佐々木舞、どう思う?」
「どう思うって?」
「可愛いと思わない? 眼鏡も似合ってて、胸も大きいし、なんか、萌えない?」
「は? 何それ? どしたの急に?」
安藤は美冬の話に困惑した。
「だから、佐々木さんと付き合ってみない?」
「なにそれ?」
「佐々木さんは安藤君の事が好きなんだって」
相変わらず美冬はニコニコして言った。
「ちょっと、待ってよ」
「何で? 何を?」
そこで安藤は軽く溜息を付くと、開いたままにしていた本を閉じて、それから真剣な顔をして椅子から立ち上がると、美冬の方に向かって歩き近づいた。
「俺、一週間前に瀬川さんに振られたんだぞ。何考えてんの?」
「だから丁度良いじゃない。私の事を忘れて、新しい恋をしたら」
美冬は笑顔で答えた。
「俺はまだ、瀬川さん好きだし。なんか、自分から引き離そうとしてるみたいだ」
「安藤君、相変わらずそういう所糞真面目だね」
そう言うと美冬の顔からは笑顔が消えて、今度は真面目な口調になって言った。
「舞に安藤君と付き合わせてあげるって、言っちゃったんだよね。何とかしてよ」
「何とかって、何考えてんだよ! 俺の気持ち知ってるくせに」
思わず安藤は怒鳴り声を上げた。
「だってさ、安藤君の死についての話。私が感化されたアレ。舞にも分かって貰いたいんだよ。だから安藤君と舞が付き合えば、安藤君に感化されて、舞も死ねるって思える瞬間が時々ある感覚が分かるんじゃないかって思って」
安藤は部活中、良く自分の死に対する自論をみんなの前で披露していた。
普通に暮らしていても、突然、今なら死ねると感じる時がある。
これは自分だけじゃなくて、きっとみんなにもある筈の感覚だ。
脳が考える事じゃなく、体が一瞬脳に反逆して起こす行為なのではなかろうか。
脳で考えたら死にたい人でも躊躇はある。
しかし、この突然感じる『死ねる』という感覚は、その瞬間に出来るなら、気持ちよく、無意識のままの感覚で死ねるのではないか。
この話に美冬は深く共感した。
「今なら死ねる」
そう感じた時が度々あったからだ。
しかし、先輩や、他の部員達はこの話を一笑に伏した。
そんな感覚を、感じた事がなかったからだ。
「それは何。佐々木さんも仲間に引き入れて、『死にたがりクラブ』でも作る気かい?」
安藤が言った。
「あ、いいねそれ。私も安藤君もどっかで死にたがっているし、死にたいって欠片も思った事無い人なんていない筈だし。きっと舞だって」
美冬は微笑みながら言った。
「ふざけてる。大体僕はそういう感覚が存在すると言っただけで自分から死にたいと言った訳じゃないよ」
安藤は美冬の目を見ながら言った。
「大丈夫。世の中みんなふざけてるから。ねえ、だから嘘でも舞と付き合ってよ」
つづく
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