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第十九話 涙
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コンビニの自動ドアが開いて、小太りの中年男性と、スタイルも良くなかなか美人な十代の女性が二人並んで入って来た。
ピンポーン
コンビニ入店のチャイムが鳴る。
「いらっしゃいませ~」
それに合わせてレジの方からは若い女性の声がする。
二人は入って直ぐに右に曲がり、雑誌コーナーの方へと向かった。
その二人こそが渡辺と美冬であった。
美冬はファッション雑誌を手に取り、渡辺はその横でビジネス雑誌を手に取った。
「今の声が娘さん」
「そ、そうか」
美冬に教えられると、渡辺はまた少し緊張して来ていた。
「店内回りながら、とりあえずチラ見する?」
「お、おお」
二人は本を置き、店内の棚を見る振りをしながら遠巻きにレジの方を見る。
「あの娘」
美冬が小声で渡辺に言った。
だから棚越しに渡辺もレジの方を眺める。
「遥…」
会わないでいた五年間によって、背も伸び体形や顔立ちも変わってこそはいたが、しかしそれは間違いなく渡辺の娘だった。
遥は決して美人ではなかったが、愛嬌のある顔をしていた。
「間違いない?」
美冬が尋ねる。
「ああ、間違いない。遥だ。娘だ」
渡辺はそれに小声で答えた。
「じゃあさぁ、お客さんいる時じゃ話しかけるの拙いから、あと二人、あのお客さん達行くまで待とうよ」
「そうか、ああ、そうだな」
渡辺は娘の顔を見た事によって、更に緊張が高まって来ていた。
「大丈夫? 落ち着かないみたいだけれど」
そんなだから渡辺の緊張は美冬にも見て取れていた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと、トイレ行って来る」
渡辺はそう言うと少し早足で店の奥にあるトイレへと向かう。
その様子を眺めていた美冬にも、渡辺の緊張は痛いほど伝わって来た。
渡辺がトイレから出てくると、店には客が二人しか居なかった。
美冬と渡辺の事だ。
先程の場所で雑誌を見ていた美冬は、ツカッツカッと渡辺の前へとやって来た。
「誰も居ないから、今がチャンスだから」
「え、今?」
渡辺はまだ心の準備が出来てはいなかった。
しかし美冬は、もうこれ以上は良いタイミングはないだろう。待ってはいられないと考えていた。
「いいから来て」
だから美冬は渡辺の手を掴むと、真っ直ぐにレジの方に向かって歩き出す。
「おい、おい」
トイレから出たての渡辺は、それでもまだ心の準備が出来てはいなかった。
「私が死んでも良いの? 幸せになれなくて良いの?」
「困る。そりゃ困るけど、おい。ちょっと」
「そうやってこうなったんじゃないの? 何でもかんでも後回しにして、それでこうなったんじゃないの?」
「……」
渡辺は美冬のその問いには答える事が出来なかった。
そしてそう言った美冬は、それが渡辺だけの事じゃないという事に気付くと、突然目から涙が溢れ出して来ていた。
二人はレジのあるカウンターの前まで来ると横に並んだ。
その時横目に見て、初めて美冬が泣いてる事に渡辺は気付いた。
「美冬ちゃん、涙」
渡辺が小声で言う。
「いらっしゃいませ!」
その瞬間、渡辺の娘・遥は、カウンター前の二人に向かって元気な声でそう言った。
つづく
ピンポーン
コンビニ入店のチャイムが鳴る。
「いらっしゃいませ~」
それに合わせてレジの方からは若い女性の声がする。
二人は入って直ぐに右に曲がり、雑誌コーナーの方へと向かった。
その二人こそが渡辺と美冬であった。
美冬はファッション雑誌を手に取り、渡辺はその横でビジネス雑誌を手に取った。
「今の声が娘さん」
「そ、そうか」
美冬に教えられると、渡辺はまた少し緊張して来ていた。
「店内回りながら、とりあえずチラ見する?」
「お、おお」
二人は本を置き、店内の棚を見る振りをしながら遠巻きにレジの方を見る。
「あの娘」
美冬が小声で渡辺に言った。
だから棚越しに渡辺もレジの方を眺める。
「遥…」
会わないでいた五年間によって、背も伸び体形や顔立ちも変わってこそはいたが、しかしそれは間違いなく渡辺の娘だった。
遥は決して美人ではなかったが、愛嬌のある顔をしていた。
「間違いない?」
美冬が尋ねる。
「ああ、間違いない。遥だ。娘だ」
渡辺はそれに小声で答えた。
「じゃあさぁ、お客さんいる時じゃ話しかけるの拙いから、あと二人、あのお客さん達行くまで待とうよ」
「そうか、ああ、そうだな」
渡辺は娘の顔を見た事によって、更に緊張が高まって来ていた。
「大丈夫? 落ち着かないみたいだけれど」
そんなだから渡辺の緊張は美冬にも見て取れていた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと、トイレ行って来る」
渡辺はそう言うと少し早足で店の奥にあるトイレへと向かう。
その様子を眺めていた美冬にも、渡辺の緊張は痛いほど伝わって来た。
渡辺がトイレから出てくると、店には客が二人しか居なかった。
美冬と渡辺の事だ。
先程の場所で雑誌を見ていた美冬は、ツカッツカッと渡辺の前へとやって来た。
「誰も居ないから、今がチャンスだから」
「え、今?」
渡辺はまだ心の準備が出来てはいなかった。
しかし美冬は、もうこれ以上は良いタイミングはないだろう。待ってはいられないと考えていた。
「いいから来て」
だから美冬は渡辺の手を掴むと、真っ直ぐにレジの方に向かって歩き出す。
「おい、おい」
トイレから出たての渡辺は、それでもまだ心の準備が出来てはいなかった。
「私が死んでも良いの? 幸せになれなくて良いの?」
「困る。そりゃ困るけど、おい。ちょっと」
「そうやってこうなったんじゃないの? 何でもかんでも後回しにして、それでこうなったんじゃないの?」
「……」
渡辺は美冬のその問いには答える事が出来なかった。
そしてそう言った美冬は、それが渡辺だけの事じゃないという事に気付くと、突然目から涙が溢れ出して来ていた。
二人はレジのあるカウンターの前まで来ると横に並んだ。
その時横目に見て、初めて美冬が泣いてる事に渡辺は気付いた。
「美冬ちゃん、涙」
渡辺が小声で言う。
「いらっしゃいませ!」
その瞬間、渡辺の娘・遥は、カウンター前の二人に向かって元気な声でそう言った。
つづく
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