何処へいこう

孤独堂

文字の大きさ
19 / 60

第十九話 涙

しおりを挟む
 コンビニの自動ドアが開いて、小太りの中年男性と、スタイルも良くなかなか美人な十代の女性が二人並んで入って来た。

     ピンポーン

 コンビニ入店のチャイムが鳴る。

「いらっしゃいませ~」

 それに合わせてレジの方からは若い女性の声がする。
 二人は入って直ぐに右に曲がり、雑誌コーナーの方へと向かった。
 その二人こそが渡辺と美冬であった。
 美冬はファッション雑誌を手に取り、渡辺はその横でビジネス雑誌を手に取った。

「今の声が娘さん」

「そ、そうか」

 美冬に教えられると、渡辺はまた少し緊張して来ていた。

「店内回りながら、とりあえずチラ見する?」

「お、おお」

 二人は本を置き、店内の棚を見る振りをしながら遠巻きにレジの方を見る。

「あの娘」

 美冬が小声で渡辺に言った。
 だから棚越しに渡辺もレジの方を眺める。

「遥…」

 会わないでいた五年間によって、背も伸び体形や顔立ちも変わってこそはいたが、しかしそれは間違いなく渡辺の娘だった。
 遥は決して美人ではなかったが、愛嬌のある顔をしていた。

「間違いない?」

 美冬が尋ねる。

「ああ、間違いない。遥だ。娘だ」

 渡辺はそれに小声で答えた。

「じゃあさぁ、お客さんいる時じゃ話しかけるの拙いから、あと二人、あのお客さん達行くまで待とうよ」

「そうか、ああ、そうだな」

 渡辺は娘の顔を見た事によって、更に緊張が高まって来ていた。

「大丈夫? 落ち着かないみたいだけれど」

 そんなだから渡辺の緊張は美冬にも見て取れていた。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと、トイレ行って来る」

 渡辺はそう言うと少し早足で店の奥にあるトイレへと向かう。
 その様子を眺めていた美冬にも、渡辺の緊張は痛いほど伝わって来た。


 渡辺がトイレから出てくると、店には客が二人しか居なかった。
 美冬と渡辺の事だ。
 先程の場所で雑誌を見ていた美冬は、ツカッツカッと渡辺の前へとやって来た。

「誰も居ないから、今がチャンスだから」

「え、今?」

 渡辺はまだ心の準備が出来てはいなかった。
 しかし美冬は、もうこれ以上は良いタイミングはないだろう。待ってはいられないと考えていた。

「いいから来て」

 だから美冬は渡辺の手を掴むと、真っ直ぐにレジの方に向かって歩き出す。

「おい、おい」

 トイレから出たての渡辺は、それでもまだ心の準備が出来てはいなかった。

「私が死んでも良いの? 幸せになれなくて良いの?」

「困る。そりゃ困るけど、おい。ちょっと」

「そうやってこうなったんじゃないの? 何でもかんでも後回しにして、それでこうなったんじゃないの?」

「……」 

 渡辺は美冬のその問いには答える事が出来なかった。
 そしてそう言った美冬は、それが渡辺だけの事じゃないという事に気付くと、突然目から涙が溢れ出して来ていた。
 二人はレジのあるカウンターの前まで来ると横に並んだ。
 その時横目に見て、初めて美冬が泣いてる事に渡辺は気付いた。

「美冬ちゃん、涙」

 渡辺が小声で言う。



「いらっしゃいませ!」

 その瞬間、渡辺の娘・遥は、カウンター前の二人に向かって元気な声でそう言った。






 つづく

 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...