21 / 60
第二十一話 月曜・放課後・断片
しおりを挟む
次の日は月曜日。
美冬のゲーム開始から、既に五日が経っていた。
そして舞と安藤は放課後の駅前、大手チェーン店になっているコーヒーショップにいた。
「まいったね、アイツには」
安藤はブレンドコーヒーを手に持ち、飲みながら言った。
「何か楽しそう」
それに対してそう答えた舞は、まだテーブルの上のカプチーノには手を出さずにいた。
「誰が?」
安藤は飲んでいたブレンドを、テーブルに置きながら尋ねる。
「二人とも」
「は?」
舞のその言葉に安藤は思わず聞き返した。
「あの日から安藤君は私を連れて学校中逃げ回って、美冬はずっと追いかけて来て、なんか鬼ごっこしているみたい。二人とも楽しそう」
舞は微笑みながら言う。
「楽しくなんかないよ。誤解誤解」
そう言って、安藤は顔の前で右手をパタパタとして見せる。
「大体さ、アイツに生きる希望を持たせて、『生きたい~』って思わせるのが俺達の目的なんだぜ。それを何で本人が邪魔すんだよ」
「ふふふ、でも本当にそれで正解なのかな?」
安堵の言い方が面白かったのか、舞は微笑みながら尋ねた。
「えっ?」
「だから例えばだけれど、もし美冬の生きる希望が誰かの幸せで。それが叶ったら、そしたら美冬はやっぱり死んじゃうんじゃないかって」
舞は今度は少し愁いの帯びた表情をしながら話した。
「何で? 何でそうなるの? 死ぬって決めた上で、それまでに誰かの夢かなんかを叶えるって目標でも立ててた訳? 有り得ない。人間の発想じゃないよ。それじゃまるで…」
「そう。必ず死ぬって決めた人なら、その前に人の役に立ちたいと思うかも知れないじゃない。美冬が私に死についての自分の考えを話した日ね」
舞はそこまで言うと、テーブルのカプチーノを手に取って一口啜った。
「うん」
「あの日、私と安藤君が付き合えるようにしてくれるって、言ったの」
舞は静かに、少し伏せ目がちで言った。
「同じ日の同じ時間に言った言葉は同じ事を指す。か?」
安藤が言った。
「だから美冬があれからずっと追いかけ回していたのは、相談の邪魔をする為じゃなくて、私と安藤君を仲良くさせる為じゃないかって」
「確かに俺に佐々木さんと付き合って欲しいって言って来たのは、あのゲームを言い出した日の昼休みだよ」
「私が美冬と死についてや、安藤君の事を話したのは、前の日の水曜日」
「そう考えると、確かに物事が急激に動いているのかも知れない」
そう言いながら安藤は自分のブレンドに手を伸ばした。
「実際、この数日で私は随分安藤君と仲良くなったと思うの…それに美冬とは中学も一緒だったけれど、こんなに仲良くなったのは此処に来て急だし」
下を向き、少し頬を赤らめながら舞は言った。
その様子を見ていた安藤は口元まで来ていたブレンドを飲む手を止めて、照れ臭そうに口を開く。
「ああ、うん。それは…俺も思う」
それから少し、二人には無言の時間があった。
「じゃあさぁ、その時の瀬川さんの死についての話をちゃんと教えてよ」
暫くの沈黙の後、それまでの雰囲気を払拭する様に最初に明るく話し出したのは安藤だった。
「覚えてるかな…」
自信なさ気な舞。
「その時の話を聞ければ、もしかしたら瀬川さんの考え方が分かるかも知れないから」
「そう」
舞は頷くと、あの日の美冬と話した死についての考えを、出来る限り詳細に思い出しては安藤に話した。
そして一通り聞き終った安藤が口を開く。
「突然死ねる気がするって言うのは、俺の発想の受け売りだね。でも脳についてはちょっと違うかな。脳を客観視すると、痛みも苦しみも軽くなるなんて話しはしてない。脳とは別な自分? 全ては脳が思わせているだけ…うーん。そこに何か有りそうな感じもするけど、具体的なものが思いつかないや」
話の途中から困った顔になって行く安藤を見つめながら、舞は言った。
「私達、美冬の事何にも知らないのね…」
つづく
美冬のゲーム開始から、既に五日が経っていた。
そして舞と安藤は放課後の駅前、大手チェーン店になっているコーヒーショップにいた。
「まいったね、アイツには」
安藤はブレンドコーヒーを手に持ち、飲みながら言った。
「何か楽しそう」
それに対してそう答えた舞は、まだテーブルの上のカプチーノには手を出さずにいた。
「誰が?」
安藤は飲んでいたブレンドを、テーブルに置きながら尋ねる。
「二人とも」
「は?」
舞のその言葉に安藤は思わず聞き返した。
「あの日から安藤君は私を連れて学校中逃げ回って、美冬はずっと追いかけて来て、なんか鬼ごっこしているみたい。二人とも楽しそう」
舞は微笑みながら言う。
「楽しくなんかないよ。誤解誤解」
そう言って、安藤は顔の前で右手をパタパタとして見せる。
「大体さ、アイツに生きる希望を持たせて、『生きたい~』って思わせるのが俺達の目的なんだぜ。それを何で本人が邪魔すんだよ」
「ふふふ、でも本当にそれで正解なのかな?」
安堵の言い方が面白かったのか、舞は微笑みながら尋ねた。
「えっ?」
「だから例えばだけれど、もし美冬の生きる希望が誰かの幸せで。それが叶ったら、そしたら美冬はやっぱり死んじゃうんじゃないかって」
舞は今度は少し愁いの帯びた表情をしながら話した。
「何で? 何でそうなるの? 死ぬって決めた上で、それまでに誰かの夢かなんかを叶えるって目標でも立ててた訳? 有り得ない。人間の発想じゃないよ。それじゃまるで…」
「そう。必ず死ぬって決めた人なら、その前に人の役に立ちたいと思うかも知れないじゃない。美冬が私に死についての自分の考えを話した日ね」
舞はそこまで言うと、テーブルのカプチーノを手に取って一口啜った。
「うん」
「あの日、私と安藤君が付き合えるようにしてくれるって、言ったの」
舞は静かに、少し伏せ目がちで言った。
「同じ日の同じ時間に言った言葉は同じ事を指す。か?」
安藤が言った。
「だから美冬があれからずっと追いかけ回していたのは、相談の邪魔をする為じゃなくて、私と安藤君を仲良くさせる為じゃないかって」
「確かに俺に佐々木さんと付き合って欲しいって言って来たのは、あのゲームを言い出した日の昼休みだよ」
「私が美冬と死についてや、安藤君の事を話したのは、前の日の水曜日」
「そう考えると、確かに物事が急激に動いているのかも知れない」
そう言いながら安藤は自分のブレンドに手を伸ばした。
「実際、この数日で私は随分安藤君と仲良くなったと思うの…それに美冬とは中学も一緒だったけれど、こんなに仲良くなったのは此処に来て急だし」
下を向き、少し頬を赤らめながら舞は言った。
その様子を見ていた安藤は口元まで来ていたブレンドを飲む手を止めて、照れ臭そうに口を開く。
「ああ、うん。それは…俺も思う」
それから少し、二人には無言の時間があった。
「じゃあさぁ、その時の瀬川さんの死についての話をちゃんと教えてよ」
暫くの沈黙の後、それまでの雰囲気を払拭する様に最初に明るく話し出したのは安藤だった。
「覚えてるかな…」
自信なさ気な舞。
「その時の話を聞ければ、もしかしたら瀬川さんの考え方が分かるかも知れないから」
「そう」
舞は頷くと、あの日の美冬と話した死についての考えを、出来る限り詳細に思い出しては安藤に話した。
そして一通り聞き終った安藤が口を開く。
「突然死ねる気がするって言うのは、俺の発想の受け売りだね。でも脳についてはちょっと違うかな。脳を客観視すると、痛みも苦しみも軽くなるなんて話しはしてない。脳とは別な自分? 全ては脳が思わせているだけ…うーん。そこに何か有りそうな感じもするけど、具体的なものが思いつかないや」
話の途中から困った顔になって行く安藤を見つめながら、舞は言った。
「私達、美冬の事何にも知らないのね…」
つづく
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。
その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。
全15話を予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる