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第三十二話 ディスカッション【discussion】その③ まだ佐々木舞
しおりを挟む「それは…」
渡辺は言葉が出なかった。
それを認めてしまうと、美冬の考えを認めてしまう様な気がしたからだ。しかし、そう思わざるを得ない状況の人が世の中にはいるだろう事も、容易に想像出来た。
「渡辺さんみたいにどんな事があっても、死のうとは考えない人もいるみたいに、些細な事でも死にたくなっちゃう人もいるんです。それはその人が悪いとかじゃなく、私もそうだったけど、何かの所為みたいに責められたくない。死にたいって思う気持ちを、責められたくない」
舞は、渡辺の目を見ながら言った。
「いや、俺は責めてはいない。当然そういう気持ちの人もいるだろう。俺が特殊なのかも知れない。それでもやはり俺は、死にたいとは思わなかった。それに今は美冬ちゃんの問題がある。とても死にたい気持ちを分かるとは言えない」
渡辺は諦めて正直に話した。
「大人はどうして直ぐ嘘を付くんですか? そうやって誤魔化して言ってても、美冬は救えないと思う。美冬は私達から本当の事、本音を聞きたいんだと思う」
舞は渡辺を、大人を責める様に捲くし立てた。
「でも渡辺さんの言ってる事も分かる。それを認めたら瀬川さんのゲームを認めた事になる」
横から安藤が優しく舞に言った。
「多分、大人と子供。社会人と学生の違いもあるんだと思う」
「死についての考え方に?」
興味を持ったらしく、今まで黙って聞いていた美冬が口を出した。
「ああ、例えば俺達は学生で、知識はあるかも知れないけど、経験の長さや豊富さでは、長く生きてる大人には負ける。そこに、差があるんじゃないのかな。頭で考えた結論と、今まで生きて来た中から出た結論。渡辺さんは今まで生きて来た中で、容易に死のうなんて思わなくなった」
「そうなの?」
安藤の話を聞いて、美冬が渡辺の方を向いて尋ねた。
「さぁ、自分では分からないよ」
困った様な顔をする渡辺。
「つまり経験の長さ程、嘘を付くのも上手いって事?」
「舞、おじさんはそういう人じゃないよ」
舞の言葉に美冬はすかさず反論をした。
舞は美冬が渡辺と仲良さそうにしてるのが、面白くなかったのだ。
「いや、美冬ちゃん。佐々木さんの言う通りかも知れないよ。長い間生きて来て、変わったのかも知れない。俺も君達ぐらいの頃は、死にたいと思った事があったのかも知れない。いっそ死んじまいたいと思った事もあったのかも知れない。でもね、俺は、君を死なせたくない。君が死にたいと言っても、死なせたくない」
「大人は直ぐ『でも』とか『しかし』とか言う」
舞が渡辺の言葉尻を掴んで言った。
「舞」
美冬が言う。
「あー、それはこの前娘にも言われたよ」
渡辺は少し照れ笑いしながら言って、そして続けた。
「それでも言ってしまう。君達が危ういからだ。心配して言ってしまう。要らぬ心配だって、君達は思ってる。もう何でも自分達で出来ると思ってる。しかし世の中はそんなに甘くはない。足をすくわれる。君達の知らない事が世の中にはまだ一杯ある。学校じゃ用心の仕方は教えてくれない。だから『でも』とか『しかし』って言っちまう。これは誤魔化しや嘘じゃない。本当の、正直な気持ちだ」
美冬は渡辺の話を笑顔で聞いていた。
舞は少し悪気を感じたのか、静かに下を向いた。
つづく
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