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第四十一話 言葉
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だから渡辺は数秒置いて、自分の頭を整理してから口を開いた。
「それでもやはり言うべきじゃなかった。美冬ちゃんは死のうとしてる。『自分は一度死んでいる』と私に言いました。彼女は、『私は死ななくちゃいけない。死ぬのは怖いけれど、死んでも良いって思える瞬間なら、死ねるかも知れない。生き続けるのが辛い。苦しい。頭がおかしいのかも知れない』と、私に精一杯訴えて来ました。それ程までにその事実は、彼女を苦しめた。多分、母親との間に僅かに繋がっていると思っていた細い糸も、既に出生届の時点で切られていたのだと、その時絶望したのでしょう。彼女の中では生まれてまもなく、自分は殺された。全否定されたんだと思ったに違いない。何処にそんな親がいる。生まれたばかりの我が子にそんな意地悪をして、更にその後も、いなければ良かったとか。欠片も母親の愛情を与えられず育てられ、あの娘は何の為に生まれて来たんだ。あなたの、あなたの自己満足の為じゃないんですか? 自分がまっとうな人間の証として、子供の誕生を喜び、子供の成長を楽しみ、普通の父親の様に愛し」
「それの何処が悪い! 我が子を愛して何が悪い! まっとうで何が悪い! 私はあなたみたいに嘘を付いたりはしない。家族の為に働き、家族の為に誠心誠意やって来た。あなたに言われる筋合いはない。今までだってこうやって暮らして来たんだ。これからだって、きっとなんとかなる」
「彼女はあと六日で死ぬと言っています。一人で死ぬのが怖いから、助けてとも、言っています。どうすれば助けられるか、私達は真剣に悩んでる。それなのにあなたは、なんとかなる? ふざけるな! あなたは本気で自分の娘の事を考えてるのか! 確かに私は嘘を付いた。家族を失った。でもこんな事はしていない。私は悪い事はしたが、家族への誠意はあった。あなたとは違う。あなたのは自分の話だ。子供の、美冬ちゃんの事を思った事じゃない。気持ちがない。誠意がない!」
光男は言葉を失って、目を大きく見開いて、痙攣した様に小刻みに震えながら、じっと渡辺の顔を睨んでいた。
「それじゃあ、どうすればいいんだ?」
光男はやっと搾り出した様な声で呟く。
「瀬川さん、もう駄目だ。これ以上はもう続かない。選ぶしかない。奥さんか? 娘さんか?」
渡辺は少しだけ優しい顔になって、そして優しい声でそう言った。
つづく
「それでもやはり言うべきじゃなかった。美冬ちゃんは死のうとしてる。『自分は一度死んでいる』と私に言いました。彼女は、『私は死ななくちゃいけない。死ぬのは怖いけれど、死んでも良いって思える瞬間なら、死ねるかも知れない。生き続けるのが辛い。苦しい。頭がおかしいのかも知れない』と、私に精一杯訴えて来ました。それ程までにその事実は、彼女を苦しめた。多分、母親との間に僅かに繋がっていると思っていた細い糸も、既に出生届の時点で切られていたのだと、その時絶望したのでしょう。彼女の中では生まれてまもなく、自分は殺された。全否定されたんだと思ったに違いない。何処にそんな親がいる。生まれたばかりの我が子にそんな意地悪をして、更にその後も、いなければ良かったとか。欠片も母親の愛情を与えられず育てられ、あの娘は何の為に生まれて来たんだ。あなたの、あなたの自己満足の為じゃないんですか? 自分がまっとうな人間の証として、子供の誕生を喜び、子供の成長を楽しみ、普通の父親の様に愛し」
「それの何処が悪い! 我が子を愛して何が悪い! まっとうで何が悪い! 私はあなたみたいに嘘を付いたりはしない。家族の為に働き、家族の為に誠心誠意やって来た。あなたに言われる筋合いはない。今までだってこうやって暮らして来たんだ。これからだって、きっとなんとかなる」
「彼女はあと六日で死ぬと言っています。一人で死ぬのが怖いから、助けてとも、言っています。どうすれば助けられるか、私達は真剣に悩んでる。それなのにあなたは、なんとかなる? ふざけるな! あなたは本気で自分の娘の事を考えてるのか! 確かに私は嘘を付いた。家族を失った。でもこんな事はしていない。私は悪い事はしたが、家族への誠意はあった。あなたとは違う。あなたのは自分の話だ。子供の、美冬ちゃんの事を思った事じゃない。気持ちがない。誠意がない!」
光男は言葉を失って、目を大きく見開いて、痙攣した様に小刻みに震えながら、じっと渡辺の顔を睨んでいた。
「それじゃあ、どうすればいいんだ?」
光男はやっと搾り出した様な声で呟く。
「瀬川さん、もう駄目だ。これ以上はもう続かない。選ぶしかない。奥さんか? 娘さんか?」
渡辺は少しだけ優しい顔になって、そして優しい声でそう言った。
つづく
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