45 / 60
第四十五話 ありがとう
しおりを挟む「当たり前じゃないか。生物は生きる為に生まれて来るんだろ? 死ぬ為に生まれて来る訳じゃない。いいさ、生きてていいさ」
安藤が美冬の話に思わず口を出す。
「ビックリした。安藤君がお寿司も口に含まないでちゃんとした事言ってる。でも、私もそう思う」
舞は少し驚いた様な表情を見せながら、安藤の言葉に続いて口を出した。
「俺これでも一応文学部だから。佐々木さん意外と言うなぁ」
「フフフ、そうね。安藤君は『人間は突然急に死ねると思える時がある』って、気付いた人でもあるんだもんね」
安藤の言葉に舞は少し笑った。
「今それを言うかな~」
「いいじゃない」
舞は話ながら少し嬉しかった。
自分が憧れて、自分もそこにいたい、入りたいと思った人達と、今はこうやって普通に話していられるのだ。自分が今此処にいるという事が凄く嬉しかったのだ。
「いいなぁ、そうやって話してるの。そういうのを見ているだけで、こっちまで気持ち良くなる」
渡辺は思わず口を挟んだ。
美冬はキョトンとした顔でそれを見ている。
「何変な事言ってるんですか。渡辺さん」
「ホント、渡辺さんも『死にたがりクラブ』のメンバーじゃないですか。あ、でも解散しちゃうのか。でも、解散しても仲間だから」
「ありがとう。みんな優しいね。一人が長かったからね。こういう光景に憧れてたんだ。そこに今自分もいる。君達には分からないかも知れないが、多分こういう事でも、生きて行ける人もいるんだよ」
「分かります! 私分かります」
渡辺の話に突然舞が大きな声を出す。
「どうしたの?」
安藤がビックリした様に聞き返す。
「どうした?」
渡辺も聞き返した。
「え、あ、ごめんなさい。声大きかった」
周りの反応に自分の声の大きさに気付いた舞は、少しだけ身を小さくした。
「舞分かる。私今の舞の気持ち、何となく分かるよ。きっとみんながいなかったら、私も生きていてもいいかなんて考えなかった。それからおじさんの気持ちも分かる。独りぼっちはやっぱり寂しいもんね。それからえーと、安藤君は…なんだろ?」
「おい、そりゃないよ」
美冬の話に、安藤は合いの手を入れた。
「安藤君は、きっかけを作ってくれた」
「ホント」
「ああ、それはそうだ」
美冬の言葉に舞と渡辺が口々に言う。
「何だよきっかけって。最初だけみたいじゃないか。寿司全部食べちゃうぞ」
そう言って、安藤は両手にマグロといくらを持って食べ始める。
「全く、そんな事してないで。きっかけは大事よ。みんなお礼が言いたいんだから」
「へ?」
安藤は口の中一杯にお寿司を頬張りながらみんなの方を見た。
「「「 ありがとう」」」
その瞬間三人は一斉に安藤に向かって言葉を投げかける。
「なになに? これってドッキリか何か?」
安藤は口の中のお寿司を飲み込んで慌てて話す。
「みんな、お互いに感謝してるって事さ」
渡辺は少し照れた様に笑って言った。
「そんなーそしたら俺だって、みんなと一緒にいれて感謝してるよ。ありがとう」
安藤はそう言いながら、みんなの方に頭を下げた。
「舞と一緒にいられるから」
その様子に美冬が言う。
「そうなのかい?」
つられて渡辺は美冬に尋ねる。
「フフフフ」
それに対しては美冬は笑って答えた。
舞は、そんな二人を見ていた。
食事会も三十分が経った頃だろうか。
様子を見て、渡辺が口を開いた。
「美冬ちゃんが、今どういう心境でいるかは分からないが、ここで一つ私に提案があるんだ。提案と言うよりも強制かな? 今日からこの部屋に、美冬ちゃんに住んで貰おうと思っている。お父さんにはもう言った。ここから学校に通えばいい。そうすればお母さんへのストレスもないから、洗脳みたいな呪縛も何れ消えるだろう。君をきっと助けられる。『死にたがりクラブ』も解散出来る」
つづく
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる