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第五十七話 本当は…
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コトッ
緊張した舞が、少し音を立てながら渡辺と光男の前にお茶を置いた。
「ありがとう」
渡辺は舞の方は見ずに、光男の目を見たままそう言った。
リビングの真ん中にあるテーブルに、渡辺と光男は向かい合わせに座っていた。
警備員は外に待たせていた。
お茶を置いた舞の戻った先、カウンター奥の台所の所に美冬と安藤もいた。
三人はそこで聞き耳を立てていた。
「今の娘は?」
光男が尋ねた。
「娘さんの、美冬ちゃんの友達です。心配して来てくれている」
「そうか」
光男は渡辺の言葉に頷いて言い、美冬達のいる方を少し眺めた。
「それで」
「ん?」
渡辺の言葉に光男は再び渡辺の方に視線を戻した。
「それで、奥さんとは離婚する事にしたんですか?」
渡辺は単刀直入に尋ねた。
「ふん、あなたらしい。ズバッと聞いてくる。私はね、渡辺さん。このままあの家で暮らせばいずれ娘は死ぬ。自殺すると言われ、色々考えた。確かに妻は私と二人だけの生活を望んでいる。娘に嫉妬している。普通じゃない。しかし好きで結婚した女だ。美冬の母親だ。やはり私は愛している。別れないよ」
渡辺は無表情のまま光男の話を聞き、そして口を開いた。
「では、娘さんを渡せない」
「マンションを借りた」
渡辺の言葉に光男は即座に反応した。
「家の側のマンションに部屋を借りた。手続きも済ませた。美冬はそこから学校に通う。今高二だ。あと一年とちょっともすれば卒業だ。そうなれば好きにすればいい。娘の自由だ。進学しようが就職しようが、好きにすればいい。これなら、ここで暮らす事と変わらない。問題ないだろ」
「なるほど」
渡辺は光男の話に少し感心した様にそう言った。
「渡辺さん。私はあなたを知っているつもりだ。あなた、崩壊寸前のウチを助けるつもりでこんな事をしたんだろ。ありがとう。でももうこれでいいだろう。マンションの一人暮らしだ。君たちも遊びに来てくれていいんだよ」
光男は話しの途中から、舞と安藤の方を見て声をかけた。
「ありが、とう…ですか」
光男の話を聞いた渡辺は、途中から下を向き笑いながらそう言った。
「何がおかしい」
それに気付いた光男は再び渡辺の方を見て言う。
「ア、ハハ、ハ、それはおかしいですよ。瀬川さん、あなたは勘違いをしている」
「勘違い?」
「私はこの前、嘘を付きました。本当はもう何年も前からあの家を見に行っていました」
「家を? 偶然じゃないのか?」
光男の顔が驚きの表情へと変わった。
「あの家の所為でウチは離婚。俺の人生は狂っちまった。あの家がどれ程憎いか。分りますか?」
「憎い?」
「そう、その憎い家をあんたが買って、住み始めた。奥さんと娘と。ウチと同じ家族構成だ。かたや離婚して辛い思いをしているのに。あんた達は俺には順風満帆な幸せそうな家族に見えた。どれ程憎たらしいか分りますか? 俺はこの家庭も、俺と同じ様にバラバラに崩壊してしまえばいいと思っていた。そういう気持ちであの家を何度となく見に行っていたんですよ」
「そんな…」
光男は唖然とした。
美冬と舞、それから安藤にとってもそれは、衝撃的な話だった。
「そんな時、娘さんが灯油を家にかけているのを見かけた。そしてあんた達と関わりを持った。笑っちゃったよ。既にこの家庭は壊れてた。ちっ、もう少しで離婚させて同じ思いをさせられたんだがな…もういいよ。連れて帰っていいよ! 遊びは終わりだ!」
つづく
緊張した舞が、少し音を立てながら渡辺と光男の前にお茶を置いた。
「ありがとう」
渡辺は舞の方は見ずに、光男の目を見たままそう言った。
リビングの真ん中にあるテーブルに、渡辺と光男は向かい合わせに座っていた。
警備員は外に待たせていた。
お茶を置いた舞の戻った先、カウンター奥の台所の所に美冬と安藤もいた。
三人はそこで聞き耳を立てていた。
「今の娘は?」
光男が尋ねた。
「娘さんの、美冬ちゃんの友達です。心配して来てくれている」
「そうか」
光男は渡辺の言葉に頷いて言い、美冬達のいる方を少し眺めた。
「それで」
「ん?」
渡辺の言葉に光男は再び渡辺の方に視線を戻した。
「それで、奥さんとは離婚する事にしたんですか?」
渡辺は単刀直入に尋ねた。
「ふん、あなたらしい。ズバッと聞いてくる。私はね、渡辺さん。このままあの家で暮らせばいずれ娘は死ぬ。自殺すると言われ、色々考えた。確かに妻は私と二人だけの生活を望んでいる。娘に嫉妬している。普通じゃない。しかし好きで結婚した女だ。美冬の母親だ。やはり私は愛している。別れないよ」
渡辺は無表情のまま光男の話を聞き、そして口を開いた。
「では、娘さんを渡せない」
「マンションを借りた」
渡辺の言葉に光男は即座に反応した。
「家の側のマンションに部屋を借りた。手続きも済ませた。美冬はそこから学校に通う。今高二だ。あと一年とちょっともすれば卒業だ。そうなれば好きにすればいい。娘の自由だ。進学しようが就職しようが、好きにすればいい。これなら、ここで暮らす事と変わらない。問題ないだろ」
「なるほど」
渡辺は光男の話に少し感心した様にそう言った。
「渡辺さん。私はあなたを知っているつもりだ。あなた、崩壊寸前のウチを助けるつもりでこんな事をしたんだろ。ありがとう。でももうこれでいいだろう。マンションの一人暮らしだ。君たちも遊びに来てくれていいんだよ」
光男は話しの途中から、舞と安藤の方を見て声をかけた。
「ありが、とう…ですか」
光男の話を聞いた渡辺は、途中から下を向き笑いながらそう言った。
「何がおかしい」
それに気付いた光男は再び渡辺の方を見て言う。
「ア、ハハ、ハ、それはおかしいですよ。瀬川さん、あなたは勘違いをしている」
「勘違い?」
「私はこの前、嘘を付きました。本当はもう何年も前からあの家を見に行っていました」
「家を? 偶然じゃないのか?」
光男の顔が驚きの表情へと変わった。
「あの家の所為でウチは離婚。俺の人生は狂っちまった。あの家がどれ程憎いか。分りますか?」
「憎い?」
「そう、その憎い家をあんたが買って、住み始めた。奥さんと娘と。ウチと同じ家族構成だ。かたや離婚して辛い思いをしているのに。あんた達は俺には順風満帆な幸せそうな家族に見えた。どれ程憎たらしいか分りますか? 俺はこの家庭も、俺と同じ様にバラバラに崩壊してしまえばいいと思っていた。そういう気持ちであの家を何度となく見に行っていたんですよ」
「そんな…」
光男は唖然とした。
美冬と舞、それから安藤にとってもそれは、衝撃的な話だった。
「そんな時、娘さんが灯油を家にかけているのを見かけた。そしてあんた達と関わりを持った。笑っちゃったよ。既にこの家庭は壊れてた。ちっ、もう少しで離婚させて同じ思いをさせられたんだがな…もういいよ。連れて帰っていいよ! 遊びは終わりだ!」
つづく
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