目に映るもの

らりおん

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目に映るもの

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俺は二度の教員採用試験に落ちた後知人の務める私立七蔵高校を勧められ受けたところ見事に採用されたため、今年から勤務することになった。晴れて俺は念願の教師になることが出来たのだが、予想してたよりも余裕がなく慣れるまで時間がかかりあっという間に勤務してから約1ヶ月たったとき朝のの後教頭先生に呼び出され
「俺に天文部の顧問を……ですか。」
「そうだ、以前顧問をしていた中原先生が転任してしまって以来居なくてね、だからよろしく頼みますよ谷蔵先生。」
そんなことがあって天文部顧問を受け持つことになってしまった。
正直部活のことについては全く知らないので自分の机につき資料手に取る。幸い一限目は授業がないので部活についてのページを読んでみる。
「なるほど、部活の活動は顧問が部室にいってからじゃないと始められないのか。てことは放課後に文芸行かないといけないのか、あとは部員が居なくなったら一時的廃部であり来年の新入生が入部しなかったら本格的な廃部が決定とのことか。そして天文部の部員は現在は一名だから存続の危機なのか。」
つまりは放課後は部室に隔離されるようなものなのか。とりあえず一通りは読み終わり椅子に座りながら伸びをする。まずは放課後になってからだな。

六限目が終わり各クラスでホームルームが始まる。といっても新人の俺にはクラスは割り当てられてはなく少し早めに天文部部室にいってみることにした。
天文部部室は校舎端の四階といったいかにも人が来そうに無いところにあった。
「ここが部室か、とにかく鍵を開けて入るか。」
そして鍵を回し引き戸を開けようとするが空かない、ためしにもう一度鍵を回すと今度は開いた。
「おいおい開いてたのかよ、鍵ぐらい閉めて帰ってくれよ。」
そして誰も居ない部室に入った、いや正確には居ないと思ってたが、そこには教室の半分ぐらいのスペースに机と椅子、そして窓際に置いてある望遠鏡がありそれをいじる一人の女子生徒がいた。髪の長く肌白い可憐な印象といった女子生徒が一人立っていたのだ。
俺に気づいた女子生徒はびっくりして大慌てでいじっていた望遠鏡から手を離し礼儀正しくお辞儀をしてから
「新しい顧問の先生ですよね。始めまして三年の松岡 夏目です。」
「谷蔵だ、よろしく頼むよ。ところで松岡さん、まだホームルームの時間じゃないのか?あと部室開けたのも君か?」
俺そう言うと松岡はまたびっくりした表情をみせる。がすぐ笑顔になり。
「私のクラスは早く終わったので、あと部室のほうは開いていたのでそのまま入っただけです。ちなみに他には部員がいません。」
そういって松岡は椅子に座りながらまた望遠鏡をいじっていた。
俺も近くにあった椅子に座り天体関系の本があったので適当にページをめくってみる。そして一つの記事で目が止まった。
「オリオン座のベテルギウスが爆発寸前の可能性がある……か、ベテルギウスってオリオンの右肩あたりだったけ。それを見れなくなるのか。」
そうして椅子に深く寄りかかる、古いパイプ椅子だから軋む嫌な音がするが、そんなことより楽な姿勢のほうが優先だ。そうして寛いだ姿勢になるや否や後ろからいきなり声がした。
「先生少し分かるんですね、ですけどすぐ見えなくなる訳ではないんですよ。」
そう松岡がいきなり俺の後ろにたっていたのだ、全く気配すら感じなかった。
「ちょ、いきなり後ろくるからびっくりしたよ。気配消すの上手なんだな。で、なぜすぐにきえないんだ?」
「そうですね、まずベテルギウスは地球から約642光年離れていて、視直径では太陽を除いて一番大きいんですよ。それでもしそのベテルギウスが爆発したとしましょう。その光は地球までとどき夜どころか昼間ですらはっきり見えるほど輝きます。それは半月よりも明るくて予想最長では爆発から四年間ちかく輝いてるんですよ。なので爆発してもだいたい四年間はオリオン座は残るんですよ。」
松岡の口からあまりにもペラペラ言葉が出てくるので唖然としてしまったがとても楽しそうに話すので自然と引き込まれてしまう、専門外とはいえ教師より詳しい知識がでてくるとは。
「よくここまで知ってるな、あと相当天体とかが好きなのが伝わったよ。他にも惑星のこと知ってるなら教えてくれないか。」
話し終えて満足したような顔になってる松岡にそう言ってみた。一瞬戸惑ったかのようにも見てたが、すぐ明るい表情になり
「はいよころんで!それならまずはベテルギウスが爆発する予想と同規模の爆発があったSN1054についてですね、これは千五十四年に……」
ここから俺の初日の顧問が終わったのは二時間後であった、ほとんどその時間は松岡の天体薀蓄で終わった。
そして約三週間がたち俺が松岡の薀蓄を聞くことが部活の日課になっていた、俺が部室に行くと既に椅子に座っており、惑星の名前の由来と大きさや特徴、ブラックホールの出来方と大まかな仕組みといった話を楽しそうに尽きるとこなく話をしてくれる。あと気配を消して後ろから喋り出す行為もしてくる、そんな部活の時間は楽しみになっていた。ところがある日を境に薀蓄を話す松岡の表情が曇って来たのだ。
この日も何時ものように薀蓄を聞いていたのだが、何時ものような楽しそうな声ではなかったそして。
「あの、先生は目に映っているものは全て実在するも思いますか?」
何時もの楽しそうな声とは裏腹に何処か辛そうな声では聞いて来たのだ、いつもは目もあわせて話しているのに今日は下を向いている。
「いきなりどうした、そんなこと聞いて。悩みでもあるのか?」
「いえ、悩みはなくはないのですが、ひとつ答えてくれませんか?。」
松岡は顔を上げ俺を見つめた、俺は恥ずかしくなり思わす目をそらした。
「そうだな、俺は実在していたものだと思うな。前に離してくれたベテルギウスの話のように消えてからまだ見えることのあるものだってあるわけ出しな。」
「そうですか、なら私は今実在していると思いますか。」
普通なら悪ふざけの質問だと思うが松岡の目からはふざけてるような感じはなく少し違和感を覚えた。
「本当にどうした、松岡は俺の目の前にいて実在しているじゃないか。こうしていつも薀蓄を聞かせてくれるだろ。」
それを聞いた松岡は少し苦笑いをして椅子から立ち上がり窓際の望遠鏡ところに移動して
「そうですね、正直私が入部したときからずっと一人だったので人に好きなことを話すのが自分でも恥ずかしいぐらい浮かれてしまいました。」
そして俺のほうを向いて
「先生本当にありがとうごさいました。」
「おいまて、文化部の引退は9月下旬だぞ、そのセリフはまだ早いだろ。」
軽く言ったが先ほどの質問といい何かおかしい、実在しないというか今にも消えてしまいそうな不安にかりたたれる。そんな気持ちとは裏腹にそうですね、まだありますねとつぶやいたあと笑顔に戻り、
「そうだ、明日屋上で天体観測しましょう。ちょうど東方最大離角を迎えて日の入り直後だと水星がみやすくなるんですよ。ね、行きましょうよ。」
さっきの雰囲気とは打って変わって急に元気になり半ば強制的に明日の日の入り直後の天体観測をすることになった。

その日の部活終了後俺は中間テストの成績をつけていた。そして三年生に差し掛かったところで一つの疑問がでてきた。
(そういえば松岡ってクラスはどこなんだろうか。)
そこで学校のデータベースへとアクセスをして松岡 夏目と入力をしたところ一名が検索結果がでてきた。それをクリックすると顔写真とクラスが表示される。
「おいこれはどういうことだ、ならあいつはなんなんだよ。」
検索結果の顔写真はまさしく松岡 夏目だったが、クラスもしっかり書かれていたが、所属していた西暦が五年も前でさらにこう書いてあった。
『三年生 春 病死のため途中退学』
どういうことだ、ならいったいあの楽しそうに薀蓄を話す松岡はなんだっていうんだ。
俺は頭の整理が出来なくなり、荷物を片付け飛び出すように学校から出て行った。

そして次の日、昨日の松岡のことも気になるが考えたところで答えが出るわけもなく放課後になってしまった。今日は天体観測をするため屋上に直接行くことになっている。階段を上がって行き屋上への扉を開けるとすでに松岡がいた、上を見上げ少しさみしそうな表情をしてるように見える。俺が入って来たことに気づいて何時もの笑顔にもどり、
「やっと来ました。あと10分足らずで日の入り始まっちゃいますよ、望遠鏡のほうは私が設置しましたのでゆっくり空でも眺めて待ちましょう。」
そういってゆっくりと座り上を向いて空を眺める、俺も釣られるように空を見てみる、夕日が低いところに来ておりその反対側からはうっすらと星が出始めていてなんとも綺麗な光景だった。俺は胸ポケットから携帯を取り出しカメラをパロラマに設定して空の風景を撮ってみる。そしたら座って空を眺めている松岡から
「いい写真は撮れましたか、ついでに私もこの空をバックに撮ってくださいよ。いいでしょ先生。」
そう言っては既に立ち上がってピースサインをして急かしてくる。だが、もし昨日のが本当で仮に目の前の松岡が幽霊なら写真に写るのだろうか、もし写ってなかったらと思うと写真を撮るのにためらってしまう、だが真実がわかるチャンスかもしれない。
「ほらほら先生早く、もう日の入り終わっちゃいますよ。」
「ああ分かったよほらポーズとれ、よし撮るぞ。」
カメラを松岡に向けると画面にもしっかりと松岡の姿が映っていた、思わず良かったとボソッと言ってしまった。そしてピントを合わせてカシャと音を立て写真を撮った。可愛らしくピースをして笑顔で映ってる、結構よく撮れた。
「それじゃ見せてください、先生の腕前をみて上げますから。」
そう言って俺のところまで来ては先ほどの写真を確認する。
「なかなかしっかり撮れてますね。それと先生、さっき良かったってなんですか?」
さっき言ったことを聞かれていたらしい、この通り写真にも映ったんだから、昨日のは何かの手違いと解釈し
「いやそれがな、昨日学校のデータベースで松岡を調べたんだが、なぜか五年前に病死となっててな。でも映ったから良かったって言ってしまったんだよ。」
これでしっかりここにいると証明したと思って話したのに、それを聞いた松岡は表示を一気に曇らせ下をを向いてしまった。そして小さな声で
「とうとう知っちゃいましたか。そうなんですよ、私は五年前に病気で死んじゃったんです。そ倒れたのは部室だったのですが、その当時も部員は私だけで当時顧問の中原先生も会議の方にでていたので発見が遅れてしまい、搬送中に息を引き取ったのですよ。なので今の私は幽霊なのです。」
それは聞きたくない答えだった。それを聞いたらこの日々が終わってしまいそうな気がした。たしかに気配なく後ろからくることや、毎回ホームルーム終わる少し前には部室にいることも納得してしまう。だがそう信じたくはない。
「おいおい、冗談は寄せ。現に松岡は目の前にいるじゃないか。」
「何言ってるんですか、昨日先生も言ったじゃないですか、見えてるものは実在していたと、ベテルギウスの話のように、消えても見えてるんだと。私もそれですよ。それにもうすぐ消えちゃいますしね。なぜだか分かるんです、今日消えてしまうことが……本当ならなにも言わずに消えようかと思ってたのですがね。」
そういって松岡は顔を上げ微笑んだ、その目には涙が溜まっていた。
「なら部員名簿にはどうして名前があるんだ、これは松岡が在学している証拠にもなるぞ。」
「それは前の顧問の中原先生のおかげです。どうやら搬送中に天文部のを廃部にして欲しくないって言ったらしく、亡くなったあとでもずっと部員名簿に書いてくださって、細かいところは色々とごまかして書いてました、中原先生もこの部活のOBだったそうなので先生も残したかったのでしょう。幽霊になってのはじての方の記憶なので良く覚えてます。」
これで松岡が死んでいることがほぼ確定になった。ただ唖然と口が開けず松岡を見ることしか出来ない。その松岡の顔からも溜まってた涙は流れだし止まることなく出続けている。
「私が死んだ後も中原先生は部室にしてくれたのですが中原先生には私が見えてなかったようなんです。何回も話しかけたけど反応してくれなくて、5年間話す人が居なくてすごく寂しかったんです。そこに谷蔵先生が新しい顧問として来てくれたんです。最初はダメもとで挨拶したのですが、まさか見えて返答してくれるとは思ってもなく驚いてしまいましたけどね。先生と話してからはたくさん話せてすごく楽しかったです。そしたら満足してしまったのか、少しづつ成仏なんでしょうかね。日に日に体が軽くなっていって、正直ここにいるのはもう根性みたいなものです。まだまだ残っていたいのですがね。」
そういってとうとう嗚咽を立てて泣き出してしまった。俺もやっと口を開くことが出来た。
「もしそれが本当なら急いで天体観測するぞ、水星探すんだろ、ほら日の入り始まってるからさっさと望遠鏡覗いてくれ。頼むから。」
俺は手をを貸して松岡を立たせて望遠鏡の前まで連れて行く、だが松岡は望遠鏡を覗こうとはしない。それどころか手を振りほどき泣き崩れた顔で
「もう無理です、泣いたら力が抜けたのかもう消えるのを止めれません、正直誰かと屋外で空を見れることで満足なんですよ。だから水星は先生自らで見つけてくださいね。この時期だと太陽近くに半月状の惑星が水星です。それと最後にお願いです。天文部出来ればですけど廃部にしないでいただけますかね、私この部活の大好きなので。それと先生ありがとうございました。出来れば中原先生にもありがとうございましたと伝えてください。」
そういって夕日が海に沈み始めると同時に細かな光となって消えてしまった。そのあと俺は一人泣きながら水星を探した。涙ではっきりとは見えなくて見つけることは出来なかったが、いつか絶体に見つけてやる。

それから一年が立ち俺は生徒を天文部へ必死で勧誘をしてやっとの思いで男女二人の部員を見つけて廃部はまぬがれた、どちらとも全く知らないそうなので、松岡の薀蓄を思い出しながら部員にはなしたり、屋外での天体観測を増やすようにした、そしてやっとの思いで俺は水星を見つけることができた、これで頼まれたお願いはなんとか果たすことが出来て今日松岡の最後のお願いを果たす日が来た。俺は携帯を取り出しあととき撮った写真を見てからとある人物に電話をかけた。複数のコールの後に男性の声が聞こえた。
「あ、はじめまして私七蔵高校の谷蔵と申しますが、中原さんでいらっしゃいますよね。」
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