シャンプーハットに泣いた僕

幸甚

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僕はまだ、シャンプーハットをつけている。


僕は、産まれたときから耳が悪かった。入退院を繰り返し、手術も何回も受けた。手術室までの道のりが、自分にとって、恐怖でしかなかった。無駄に飾り付けられたら意味のない道。手術は痛くない。そもそも記憶にすらない。普段に浸かる。のが羨ましかった。
窓から見える世界に昨日までいたはずなのに、手術をして切り離されてしまった気がする。窓から見える景色に、憧れを抱いた。
なのに、夜、響きわたるのは泣き声。理解しているはずなのに、自分が一番辛さを分かっているはずなのに、胸が砕ける。
月の光におびき寄せられ、雲の流れをみる。ベットの隣にある来客用の椅子が僕の目から流れ落ちる涙を視界に入れる。
普段の日常が、純粋で綺麗だった。「ただ、戻りたかった」
僕は、決して死ぬわけではない。なのに、名前も知らない隣の女の子の泣き声が、沁みる。自分よりもっと前から入院していて、嫌になるほど感傷的になり自分という鏡を直視できなくなっているはずなのに。
朝、鏡に映った自分が、憎かった。想うことしかできない、自分という海。
トイレに行く時に女の子の病室の横を過ぎる。あの子のお母さんだろうか、手を両手で握っている。朝日が射し込んでいる。
僕は、病院を退院した。今までお世話になった先生や看護師さんに挨拶をして。病院院を後にして、浴びる日光。久しぶりの外気。
つっかかるのは、病院のこと。恐らく、まだあそこにいる。
少女は、少ない齢にして『本当の孤独』を知ってしまった。


僕は、家に着き、お風呂に入った。浴槽にあるのは古びたシャンプーハット。耳は治ったのでもう付けなくても良い、のに、無意識のうちに手が伸びる。
僕は、ふと、シャンプーハットって、お風呂のお湯は防げるのに、どうして雨は防げないんだろう、と思った。何を考えているのだろう。
何故だか、シャンプーハットを眺める。いつもどうり、シャンプーハットをつけた。
皮肉なことに、シャンプーハットが、僕と孤独を結びつけ始めていた。



僕はまだ、今でもシャンプーハットをつけている。


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