雪柳が積もる椅子

幸甚

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椅子

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俺の名前は、碧井だ。と言っても勝手に自分でつけた名前だが。
俺の住んでいる街は、地球から三十九光年離れている。職業は宇宙の監視。それなりの地位に着いている。
俺の寿命は永遠。死と言う概念が無いので、こんな地位に着いて当然だ。仲間は、老いて次々と死んでいった。只、悲しかった。
永遠の命、それは、永遠の別れとの出逢い。
俺を産んだ両親は、永遠の命だけ遺して死んだ。
こんな仕事を続けて早6000万年、色々な文明があった。
みんな過ぎたけど、な。


試験に、二十年かけて受かり、宇宙監視の重要メンバーとして新たな人生が始まった。
そして、同期の翠川と仲が良くなった。話す事は、いつも限ってどの星が好きでどの星が嫌いか、だ。懐かしいただの思い出。
俺は、毎回、イウスと答えた。イウスと言う星は、宇宙の隅にあり、多種多様の生命体の宝庫だ。何故好きかというと、交流所として輝いて見えるからだ。星と星を跨いでの交流。心が何処にあるか知らないが、温かくなってくる。
翠川は、


翠川が好きな星は、地球と言った。俺は、あまり地球に対して良いイメージを抱いていない。最初から最後までおかしいと思っていた。人間として命を授かり、なぜ子孫を残そうとしているのか。意味があるのか。そう、翠川に問うと
「意味の無いことをするのが人間なんだよ」
と一蹴された。益々、理解ができない。意味の無いことをする、かぁ。
翠川の背中を目で追った。一瞬誰か分からなくなってしまった。


少し暇になったので、地球を覗く。見た目は、青と白のコントラストが印象に残る。あそこに、文明があり、社会があり、家庭がある。其れが俄に信じられない。
 でも、限りなく綺麗だ。
夢 希望 明日 未来  人々が嘆くもの。
百年も無い一生。
笑顔が生み出せるのは、人間だけ。
笑うという感情が我々には、無い。
笑って死ぬ、か。俺にとって深くて沁みる言葉だ。
貴方が笑うと、私も笑ってしまう、かぁ。


自由気ままに、施設内にある機械を使って、地球の日本という国に下りる。この星の最新技術で、地球人からは、俺の姿は見えない。
ここは、”中学校”か。黒い板に大人が白い短い棒で、熱心に教えている。時折混じる、笑い声。
窓の外を覗いている人もいれば、誰かをそっと見つめている人もいる。これが、青い春か。
今、俺が見つめているのは、永遠ではない命。
今、俺が見つめているのは、終わりの近い生活。
今、俺が長い間見つめているのは、憧れちゃったからかな。
気付かないまま、過ぎ去っていく。


俺は、今まで、勉強と言うものをしたことが無い。ある機械に脳を繋げば脳に勝手にインプットされていくからだ。と同時に皆で少しずつ、勉強するのは、非効率だなとも思った。
限りある一生で、遠回りしながら生きていく。
例え、それが近道だろうが、ぬかるんでいようが、前が見えなくて後ろに縋りたくなっても。
『人間』って、そう言うもんか。
俺たちにとって、遠回りは、時間の無駄であり、意味なんかない。しかし、永遠ではない命を持つ地球人が、わざわざ遠回りしていくのは、限りがあるからこそ、輝き、自分の存在している有用性を見出していくために必要だと思う。
要するに、きれいだ。


中学校の次に、ある家に訪れてきた。どこにでもある、普通の家庭だ。落ち着いた顔をした女性と、あまり頼りがいのない顔の男性の家。
女性の方は、お腹が膨れている。子供が、産まれるのか。男性は、初めてなのか、心配した表情で女性に話しかけている。それを見て、女性が笑う。
「そんなに心配しないでいいよ」
と。
女性の方が強い。
でも、守るものが増えたから男だってやる。
「もう、だいじょうぶ」
と。


俺には、守るべきものが見当たらない。
心の底から愛している人も。


あの家庭の次に、隣の古い家にやって来た。
八十歳は確実に超えているであろう風貌と、経験が語る、謎のオーラを放っている夫婦だ。
子供が既に独立し、広い家には二人だけ。
たまに、孫と帰ってきてくれるのが嬉しくて、日に日に覚えが悪くなっていき、昔の事など、もう覚えていない。いつの間にか、
「おじいさん」
「おばあさん」
なんて呼びあったりして。
何も残せず、幸せだったと走馬灯をよぎらせ、
死ぬ。
俺は、自分の事のように、胸が苦しくなった。



古い家を後にして、道路に目をやると、部活帰りなのか疲れた顔をした少女が視界に入る。
「ただいまー」
玄関を開ける。当然、
「おかえり」
と、帰ってくる。すると突然、
怒号と共にティッシュの箱が飛ぶ。おそらく、お父さんが怒っているのだろう。
「おいっ」
何処にも動けず、また疲れる。
「なんだこの成績はっ」
少女は、無視して自室に閉じこまる。
泪を震えながら流し、羨む。
俺は、高望みし過ぎだな~、と他人事のように受け流す。少女は、歯を食いしばり、手の甲で泪を拭いていた。



突然、翠川から電話が掛かってきた。勿論、現代のような形ではないが。
「どうだ、地球は」
俺は、雲ひとつない夕陽を見て呟く。
「よくわからん」
本心だ。
「そうか、じゃあな」
翠川は忙しいのか、素早くそれだけを言って電話をきった。
蝉の声が脳内に響く。陽の光が目を虚ろげさせる。
目を閉じると、微かに聴こえる。
地球の”魂動”が。
「ありがと」「またね」「バイバイ」
「本当!?」「アハハハハ!」「好きだよ」
綺麗、だな。



僕には、やりたいことも、やり遂げたいことも見つからない。いつも、当てもなく携帯をいじっている。お母さんや先生からも、夢をもて、と言われる。苦痛で苦痛で、期待されるのが死ぬほど嫌だった。
「なんか好きな事ないの?」
ある訳ねえだろうが。あったらとっくに、とっくに、とっくに。ツラい。

俺は、この子を気に入っている。何故なら、今、の自分自身を探しているから。何色にでも染まる今、頑張って生きて欲しい。思い出だけに生かされているなら、進むしかない。前が見えなくても、自分が分からなくなっても。


「終わったんならさ、はじめればいいじゃん」
「そうだな」
俺は彼女の言うことに、笑いを少し零した。


俺には、何時もそばに居る友達のような、家族のような、恋人のようなのがいた。
名前は、花火。この名前を初めて見た時、流石に吹き出した。花火?ハナビ?
性格が、一人でずっと喋っていられるタイプで、一緒にいると飽きない。
地球の花火は、儚くて、一瞬だが、こっちの花火は、図太くて、ずっと笑顔で光っている。こんな人に出会えて幸せだったのかもしれない。
「碧井、笑いすぎて顎外れた。助けてくれっ!」
仕事中にも、遠慮なく大声で電話をかけてくる。そのおかげで、そのおかげで、だが、彼女は、
                 もう、、、、、、いない。
夜空に散ってしまった。儚く、
影を強がって隠し、溜め込んで。
蒼い、とは言えない宙に向かって彼女らしく、
花火のように、散っていった。



「おい、碧井、ちょっと付き合ってくれないか」
「どこに?」
「新しく見つけた、綺麗な星に、だ」
花火は、満面の花畑みたいな笑顔を俺に差し出した。
当然のように、星に花火の後を続いてワープする。たどり着いたのは、“花火大会”。
皆が、花火の光に染められ、上を向く。黒い空に、色とりどりの華やかな景色。
「いつ見ても、綺麗だなぁ」
花火が、呟く。
「おい、碧井。綺麗、だろ?」
花火が花火大会を鑑賞している。ダジャレみたいなフレーズが頭をよぎり、それにつられてしまったのか分からないが、本心で、
「ああ、綺麗、だな」
そこには、輝かしい花火がたくさんあった。











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