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DATA 001
しおりを挟むついにやってきた、魔王の城の最上階。
魔族に支配されたこの世界で、『お前こそ世界を救う勇者じゃ』と、長老に追い出されるように村を出てから苦節132時間。
最後のセーブポイントで体力を回復して、魔法の日誌に時を刻む。
振り返るとここまで共に戦ってきた頼もしい仲間達が一同に頷いた。
「いくぞみんな!これが最後の戦いだ!」
「おぉ!」という皆の力強い声を背に、俺は目の前の重たい扉を開き、いざ魔王の部屋へと踏み込んだ!
◇
…ん、ここは……?
真っ暗な空間に、漂う感覚。
耳に入ってくるのは聞き慣れた物哀しいメロディ。
暗闇から浮かび上がるように現れたのは、見慣れた赤い大きな文字。
『GAME OVER』
……つまりはそういうことである。
「なんだよ! また俺死んじまったのかよ!」
「通算253回目のゲームオーバーです。お疲れ様でした」
抑揚もなく律儀に答えたのは腰につけた魔法の書。
いらりとした俺はこいつを手荒に取り外すと、さっきセーブしたばかりのページを開いた。
その見開きには「GAME OVER」の文字。
なるほど確かに今回の冒険はここで終わってしまったらしかった。
「お疲れ様、じゃねー! 今度はなんなんだよ! 俺まだ魔王に一太刀も浴びせてないぞ、てか姿も見てねーし!」
「では、いつものように、おさらいコーナーをどうぞ」
ほわわわんという効果音と共に、目の前に浮かび上がった光景はつい先ほどまでいたはずの場面。
『いくぞみんな! これが最後の戦いだ!』
「…いつも思うんだけどさ、俺のセリフまで再放送するのやめてくれない? 恥ずいんだけど」
「決まりですので。あ、ここです」
魔王の部屋に足を踏み入れた俺たちを、充満する紫の濃い霧が包みこむ。
そして――
「ぐはぁっ!」
俺の断末魔と、その後のどさりと倒れる音で画面は終了した。
いや、なんていうか。
「全然わからないんだけど。結局なんで俺死んだの?」
「一言で言うと、好感度不足です」
「は? 好感度? 誰の?」
メインヒロインのエリーか、幼馴染みのユーナか、はたまたセクシー踊り子のライラ姐さんか?
皆それなりにイベントは踏んできたし、ラスボス戦後(に出るであろうと期待している)選択肢によっては、夢のハーレムエンドもある……はず。
「今回は老剣士のルドガーです」
「…は?」
ピンクな想像は、抑揚のない声に打ち砕かれた。
ルドガー? ルドガーってあの爺さん剣士だよな…?
「……俺そっちの趣味はないぞ」
半歩後ずさった俺に書は呆れたようにため息をついた(ように見えた。本がため息なんてつくはずもないが)
「魔王の部屋には、怨恨の霧が立ち込めています」
「あー、あの紫の霧の事だな?」
「それに触れると、あなたへの好感度が一定以下の味方は怨恨の呪いに取り憑かれ、あなたに謀反を起こします」
「……なんだよそのクソ仕様!」
ヤローの好感度なんて、ピンクなイベントがある訳でもなし、ほとんど上げてねーよ! 好感度イベントは当然女の子が最優先である。
「えー、じゃあ好感度が低めのやつらは拠点に置いてくるしかないわけか。全体の戦力は下がるが仕方ない、背に腹は変えられないな……」
「最終戦は強制全員参加です」
「……だからなんなんだよそのクソ仕様!」
「お約束です。ロード画面へ戻りますか?」
淡々とそう言うこの本を、俺はいっそ燃やしてやりたい衝動に駆られた。
――選択してください――
ボス戦の直前からコンティニュー
≫ セーブデータのロード画面へ戻る
諦める
――ロード画面へ戻ります、よろしいですか?――
≫ はい
いいえ
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