小さな恋のお話 〜5分で読める恋愛SS〜

那玖

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海辺の恋に

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(ファンタジー要素強め)
(小心者船長のおじさんと新入船員の少女のお話)


 もう! ホントに嫌になる、うちの船長!
 ビビりだし、鈍感だし、顔を合わせたら船の話しかしないこの船オタク!
 でも……そんな船長を好きになった私はもっと嫌になるわ。



「おー、そんな手摺から身乗り出してたら、落っこっちまうぜ」
「いいの、落ちたらカイが助けに来てくれるもん」

 どっかの怖がり船長じゃなくてね、そう付け加えるあたり、私はホントに可愛くないと思う。

「なっ、俺は怖がりなんかじゃねぇよ。そうだな……まぁ浮き輪くらいは投げてやるさ」
「……ほら、カイが来た。出航じゃないの? 私、ロープをチェックしてくるから」

 少しでも期待した私が馬鹿だったわ。絶対浮き輪なんかに摑まってやるもんか。
 プイと背を向けた私を気にも留めずに、航路について航海士のカイと話してる船長。
 その背中に思いきりアカンベーしてやった。



 次の行き先は南東の海、氷に覆われた島。
 嬉しそうに海図を眺めるカイと、これまた嬉しそうに船を旋回させる船長。

 暇だ……別に運転要員でもない私は、こうなると正直退屈。
 手摺から少し身を乗り出して、風を感じながら海を眺める。

 何でこんな手摺にしたのよ、掴みにくい。
 手摺はもたれたりぶら下がったりするもんじゃねぇ、どっかの船馬鹿の声が頭に響き、私はプルプルと首を振った。

 と、その時。急に感じた浮遊感。横波に煽られ船が大きく揺れたのだ。

 いつもならどこかしらに摑まってやり過ごすけど、なにもこの気を抜いたときに揺れなくても。
 何にも固定されてない私の体は、物理の法則に従って、綺麗に宙を舞った。

 あーあ、思いのほか私の頭は冷静だった。
 落ちるまでの時間がスローモーションのように感じる。

 驚いた顔で手を差しのばすカイの姿。
 一応私も手を伸ばすけど、この距離はどう考えても届かないと思う、うん、やっぱりね。

 伸ばしあった手は触れることなく、ドポーン、私は頭から海に落ちた。
 落ちる寸前、見たことないほど焦った船長の顔が見えた気がした。



 冷たい。そりゃ、氷漬けの島があんなに近くにあるんだもんね。
 泳ごうと思ったけど、冷たすぎるせいか、落ちる時どこかにぶつけたのか、身体が思うように動かない。

 ゴボゴボと沈んで行きながら、私の頭はやっぱり冷静だった。
 人生ゲームオーバーだ。こんなことなら、いろいろやり残したことやっておくんだったな。

 あ、昨日買ったお菓子、まだ食べてないや。
 カイに貸した本、返してもらってないな、まあそれはいっか。

 一通りやり残したことを考えた後、頭に浮かんできたのはあのアホ船長だった。

 それまで乗ってた船から落っこちて、漂流していたところを船長に拾われたのはもう結構前。
 大丈夫か、差し伸べてくれた手。別に人助けとかじゃねぇよ、照れたような顔。一目惚れだった。

 船に乗せてもらって、船長についていろいろ知って、正直がっかりするとこだらけだし、到底私のタイプじゃないし、オジサンだし、でも何故かこの感情は消えることはなかった。

 船長……ねぇ船長……こんなことになるなら、伝えればよかった。船長に。好きだって。

 後悔先に立たず。涙はすべて海に混じり、そして私の視界はフェードアウトした。



「ん……ここ……は……」
「あ! 目を覚ました! よかったぁ……」

目を覚ますと心配そうな表情のカイのドアップ。何事かと身を起こすとそこは見慣れた甲板。

「あれ……? 生きて……る……」
「あれ? じゃねーよ!」
「痛っ⁈」

 ポカリと、殴られた頭は言うほど痛くはなかったのだけれど。
 顔を上げると、怒ったような焦ったような、なんか変な顔をした船長。

「だから危ねぇって言っただろうが! ったく……カイに礼言っとけよ!」
「え、あ、はい」

 そう言って舵とりに向かう船長を見送って、言われたとおりカイにお礼を言うと、彼はくすくすと笑った。

「? なんで笑うのさ」
「あのさ、君を助けたのは僕じゃなくて……船長なんだよ」
「…………は?」

 そこで耐え切れなくなったのか、吹き出すカイに私は尋ねる。

「どういうこと?」
「君落ちてすぐにね、僕が行動する前になんとあの船長が飛び込んだんだよ。で、君を連れて上がってきたってわけ。吃驚したよ」
「嘘……」

 ばっと船長の向かった方を見ると、甲板に一本の道ができていた。
 濡れた状態で通って出来た、海水の道。

 なおも笑うカイにありがとうとそれだけ叫んで、私はその道の上を走った。

 頑張って、背中にかけられた声、なんだ、彼にはバレていたらしい。でも今はそんなことどうだっていい。



「船長!」
「ぅおっ⁈ な、なんだよ、いきなり大声出すんじゃねえよ。大体お前は溺れたばっかなんだからちったあ大人しく……うおおっ⁈」

 その言葉を遮って、私は船長に抱きついた。
 冷たい。だって、私も、それに船長もびしょぬれなのだから当然だ。

「な、な、な⁈」
「船長、助けてくれてありがとう」
「れ、礼ならカイに言いやがれ! 別に俺は何も……」
「……好き。船長が好きです」
「…………はぁっ⁈ ちょ、お前なぁ……」

 へなへなと地面に尻もちをつく船長、くっついてる私も同じく甲板に座った。
 初めて顔を上げて船長の顔を見ると、吃驚するほど真っ赤な顔をして船長は目をそらしていた。

「このタイミングでそれ言うかよ……」
「溺れて、もう駄目だって思った時に、やっぱり気持伝えておけばよかったってすごく後悔したの。だから……。次また溺れた時に、今度は後悔しないように……」

 そこまで言うと船長はやっと私を見た、と思ったらでこピンされた。

「あのなぁ、俺のことが好きなら、二度と心配させるようなことすんじゃねぇよ。……惚れてる女が目の前で死にかけるなんざ、一度で充分すぎるぜ」
「……えぇっ⁈」

 ばっと離れて船長を見ると、やっぱりその顔はそらされていて。でも耳が真っ赤っ赤。
 私は恐る恐る口を開いた。

「あの、さ……船長って私のこと……好きだったの?」
「……さぁな」
「な、何それ⁈ このロリコン船長!」
「う、うるせぇ!」

 もう! 素直じゃないなあ! まぁ、私もなんだけどね。

 服着替えてくる、そう言って私はその場を立ち去りかけ、くるりと振り向いた。
 船長がなんだよ、という顔で見てくる。

 私はつかつかと歩み寄ると、そのいまいちセンスがわからないスカーフを掴み、引き寄せた。

「おわっ⁈」

 チュ。一瞬だけ触れた唇。予想通り、アホ船長は固まっていた。

「ざまーみろ!!」

 そう一言投げたのは照れ隠し。船長に負けないくらい真っ赤になった顔を見られないよう、私はとっとと船室に退散した。


『朱に染まる水平線』
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