余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

文字の大きさ
26 / 93
1章

芽生え

しおりを挟む


 「……!?」


 思わず目を瞑ったアンジェ。
 しかし、一向に自分に液体が掛かることは無い。
 カタン…と何かの落ちる音がして恐る恐ると目を開ければ、そこにはライアーの姿があった。

 彼の胸部が濡れている。
 恐らくアンジェを庇ってくれたのだろう。

 取り乱すエリーゼの取り巻きの令嬢達は、みるみるうちに顔を真っ青にする。
 しかし、エリーゼは怯むことなく、逆に強気の態度でライアーへと向かう。


 「あら貴方、確か後ろのチンチクリン娘をエスコートしていた人じゃなくて? ……あら? ちょっの貴方。よく見たらかなりのイケメン君じゃない? そんなチンチクリンと一緒に居ないで、私とパーティを過ごさない? 絶対に楽しいわよ」


 そう言ってエリーゼは豊かな胸をライアーへと近付ける。なんて無粋な行動だろう…とアンジェは思う。これが侯爵令嬢? それにパーティで色仕掛けなんて……とドン引きしている。

 
 「……相変わらず、貴方は変わりませんね」


 そうポツリと呟かれた言葉は、誰にも聞こえること無く静かに消えて行く。

 ルーンはエリーゼを睨みつける。
 その瞳の鋭さは、仮面を付けていても尚、ハッキリと分かる。


 「お断りします。私は、貴方のような色仕掛けでしか自身をアピール出来ないような女性では無く、グレジス夫人のようなお淑やかで、護って差し上げたくなる様な…そんな女性が好みなので」


 「なっ!?」


 「グレジス夫人。参りましょうか」


 そう言ってライアーは、アンジェの手を取りバルコニーを後にする。
 何の騒ぎだ、とパーティの参加者達がバルコニーへと顔を出し始める。
 何故か濡れた洋服を身に纏うライアーを誰もが不思議そうに見つめながら、二人はパーティ会場を後にした。


 それから二人は会場を出ると、突然アンジェが足を止めた。そして懐からハンカチを取り出し、ライアーの濡れた服を拭う。


 「……庇ってくださり、ありがとうございます。その…せっかくのお召し物を汚してしまって本当にごめんなさい」


 「貴方が謝ることじゃ有りません。それよりもお怪我はありませんか?」


 「え、は、はい! 全然平気です……」


 ほんのりと頬を赤くし、俯くアンジェ。
 ライアーはもしかしたら疲労が溜まって、熱でも出ているのかもしれない、そう思った。


 「グレジス夫人。少し、失礼致します」


 ライアーの手がゆっくりアンジェへと伸びる。
 そしてその手はアンジェのおでこへと当てられる。

 そうすれば、ライアーの手にじんわりと熱が当たった。


 「やはり熱がある様ですね…」


 「いえ、私は元気です! ほら!」


 そう言って拳をギュッと握ってガッツポーズをする。しかし、次の瞬間急に目眩がして、アンジェは思わず体勢を崩す。その場に崩れ落ちそうになるアンジェを、ライアーは咄嗟に手を伸ばし、支えた。

 その手の感触にアンジェは戸惑う。
 服越しからでも分かる、ゴツゴツとした大きな逞しい手。
 手を取った時はあまり意識していなかったが、なぜか今は酷く意識してしまっていた。


 鼓動が大きく高鳴るのを感じた。


 「……歩けそうですか? 正直に答えてください」


 その言葉にアンジェは更に力が抜けていくのを感じた。
 そして…体の芯に渦巻く気配に、アンジェの体が熱くなる。


 「ちょっと…無理、かもです」


 そう正直に言葉を告げれば
 

 「…貴方に触れることをお許し下さい」


 ライアーは先に謝罪の言葉を掛けると、軽々とアンジェを抱えた。いわゆるお姫様抱っこで。


 「部屋まで運びます」


 「あ、ありがとう…ございます」


 一気に力が抜けてしまったのか、だんだん思考が上手く回らなくなってきた。
 アンジェは感謝の言葉を述べるとふにゃりと微笑んだ。ほんのりと赤く染った頬と、その愛らしい笑みに、ライアーの胸が高鳴った。

 弱っている相手に自分は何を…!? とライアーは焦るものの、今はアンジェの身が心配だと、アンジェの部屋へと急いだ。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

処理中です...