余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

文字の大きさ
30 / 93
1章

届かない思い

しおりを挟む


 「もう帰ってしまうのかい……?」


 「長居しすぎてはレベッカ先生のお邪魔になるじゃないですか。私はレベッカ先生の新作、楽しみにしてます」


 「任せたまえっ! もう最新作のネタは上がってるからね!」


 ノーニアスは高笑いする。
 その様子からかなりの自信作らしい。
 レベッカの作品の大ファンであるアンジェは、次回作が楽しみで仕方ない。
 因みに、そんな次回作。ライアーとアンジェが元ネタである事はアンジェは知る由もない……。

 馬車に荷物が積み込まれている間、アンジェは辺りを見渡す。


 「あの、ハーフル卿は…」


 「ん? あー、彼なら仕事で昨日の夜中に帰ったよ。最後まで君の事を心配してたよ」


 「そうですか…。お仕事なら仕方ないですよね」


 しょんぼりと項垂れるアンジェ。
 あと少しだけで良かったから、ライアーと話がしたかった。
 昨日助けてくれた事。
 ちゃんと、助けてくれた御礼を言いたかった。
 そして昔の事も……。


 「…また彼とは会えるよ。もしかしら案外身近に居るかも?」


 「案外身近にって……。まぁ、こうして再会出来たんです。また会えますよね」


 アンジェは嬉しそうに笑うと馬車に乗り、ノーニアスの館を後にした。
 ノーニアスはそんな馬車に手を振り、見送った。
 そして馬車が見えなくなった後、小さく息を吐いて肩を竦めた。


 「グレジス夫人はいつライアーがルーンだと気づくのか。まぁ、見ていて面白いし、当分の間は黙っていようかな」




 ▢◇▢◇▢◇◇◇◇◇◇
 




 「奥様!」


 ノーニアスのパーティーから一週間経ったある日の午後、アンジェがお菓子とお茶を楽しんでいるとイリスが慌てた様子でやって来た。
 普段から落ち着きに満ちているイリスが、こうも慌てているのは珍しくて、何があったのだろう? と首を傾げた時だった。


 「奥様のお父様がお見えになりましたよ」


 「え……」


 アンジェの表情が酷く強ばった。
 何故? どうして此処に父親が?

 グルグルと頭の中を巡るのは嫌な予感のみ。

 イリスに助けを求めようかとも思った。
 けれど、イリスには仲良し家族として通している。

 白い頬に冷や汗が伝う。
 


 「やぁ、久しぶりだね。アンジェ」


 「……お久しぶり…です」


 アンジェは身支度を整えた後、遂に父親と面会した。
 妙に顔色の悪いアンジェを、イリスは心配そうに見つめている。
 そんなイリスへ父親が言う。


 「久々にアンジェに会ったんだ。少し二人っきりにして貰って良いだろうか?」


 「奥様の顔色が大変優れないように見えます。今日は少しお休みなさった方がよろしいかと」


 「まだ出会って間もない君がアンジェの何が分かる。この表情は嬉しさゆえのものだぞ?」


 「は、はい…?」


 「だから早く部屋から出て行ってくれないか?」


 イリスは追い出されるかのように部屋から渋々と出て行ってしまった。

 何が出会って間もない君がアンジェの何が分かる、だ。父親である癖にアンジェの事が分かってないのはそちらでは無いか。

 震える体。
 それはこれから訪れるであろう恐怖に対してのものだった。


 「アンジェ。お前……自分が何をやったか分かってるだろうな?」


 父親はそう言うと、懐からぐしゃぐしゃになった便箋を取り出した。
 それは三日前、アンジェがノーニアスの館でリア宛に書いた手紙だった。

 アンジェはその手紙を見るなり目を見張った。
 何故父親がそれを持っているのかと。


 「お前からリアへと手紙を出す時は、いつも私の元に一度届く様にしている。お前が変な動きを取らないようにな。今までお利口な手紙を書いていたじゃないか。なのに何故急に反抗期になったのか。………アンジェ。私は、あれ程リアには真実を告げてはならないと言ったではないかっ!?  お前はただでさえお荷物なんだぞ!? これ以上リアの足を引っ張って何がしたい! 大好きとは言っているが、本当はリアの事が大嫌いなんじゃないか? そうでも無いとリアの足を引っ張るような事する訳がないっ!!」


 父親からの罵声にアンジェは唇を噛み締めた。

 怒鳴られる事は慣れている。
 けれど、何時までも怒鳴られるだけの自分ではいけない。そう思った。


 「わ、私はっ! お姉ちゃんが大好き…! だから嘘をつきたくないの!! 何でそれが分からないのっ!? 大切な人に嘘を着くのは本当に辛いことなんだよっ!?」


 「口答えするとはな……。そんな子供商品に育てた覚えは無いのだが? そんな口答えする商品にはお仕置が必要だな」


 父親はそう言うと、アンジェへと魔法を発動させた。


 「カハッ……!」


 口から突如でた血。
 体内を巡る魔力が止まったのを感じた。
 しかもそのスピードは異常な程だ。
 本来ならゆっくりと体内全ての魔力の流れは止まっていくのだが、全てが一気に止まった。
 それはあまりにも突然過ぎるもので、体がその負担に耐えれず、アンジェはその場に崩れ落ちた。


 息が出来ない。
 頭痛が酷い。
 視界が歪む。



 「助けて………おねえ、ちゃん」



 アンジェは死を覚悟した。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

あなたに嘘を一つ、つきました

小蝶
恋愛
 ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…  最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ

処理中です...