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1章
届かない思い
しおりを挟む「もう帰ってしまうのかい……?」
「長居しすぎてはレベッカ先生のお邪魔になるじゃないですか。私はレベッカ先生の新作、楽しみにしてます」
「任せたまえっ! もう最新作のネタは上がってるからね!」
ノーニアスは高笑いする。
その様子からかなりの自信作らしい。
レベッカの作品の大ファンであるアンジェは、次回作が楽しみで仕方ない。
因みに、そんな次回作。ライアーとアンジェが元ネタである事はアンジェは知る由もない……。
馬車に荷物が積み込まれている間、アンジェは辺りを見渡す。
「あの、ハーフル卿は…」
「ん? あー、彼なら仕事で昨日の夜中に帰ったよ。最後まで君の事を心配してたよ」
「そうですか…。お仕事なら仕方ないですよね」
しょんぼりと項垂れるアンジェ。
あと少しだけで良かったから、ライアーと話がしたかった。
昨日助けてくれた事。
ちゃんと、助けてくれた御礼を言いたかった。
そして昔の事も……。
「…また彼とは会えるよ。もしかしら案外身近に居るかも?」
「案外身近にって……。まぁ、こうして再会出来たんです。また会えますよね」
アンジェは嬉しそうに笑うと馬車に乗り、ノーニアスの館を後にした。
ノーニアスはそんな馬車に手を振り、見送った。
そして馬車が見えなくなった後、小さく息を吐いて肩を竦めた。
「グレジス夫人はいつライアーがルーンだと気づくのか。まぁ、見ていて面白いし、当分の間は黙っていようかな」
▢◇▢◇▢◇◇◇◇◇◇
「奥様!」
ノーニアスのパーティーから一週間経ったある日の午後、アンジェがお菓子とお茶を楽しんでいるとイリスが慌てた様子でやって来た。
普段から落ち着きに満ちているイリスが、こうも慌てているのは珍しくて、何があったのだろう? と首を傾げた時だった。
「奥様のお父様がお見えになりましたよ」
「え……」
アンジェの表情が酷く強ばった。
何故? どうして此処に父親が?
グルグルと頭の中を巡るのは嫌な予感のみ。
イリスに助けを求めようかとも思った。
けれど、イリスには仲良し家族として通している。
白い頬に冷や汗が伝う。
「やぁ、久しぶりだね。アンジェ」
「……お久しぶり…です」
アンジェは身支度を整えた後、遂に父親と面会した。
妙に顔色の悪いアンジェを、イリスは心配そうに見つめている。
そんなイリスへ父親が言う。
「久々にアンジェに会ったんだ。少し二人っきりにして貰って良いだろうか?」
「奥様の顔色が大変優れないように見えます。今日は少しお休みなさった方がよろしいかと」
「まだ出会って間もない君がアンジェの何が分かる。この表情は嬉しさゆえのものだぞ?」
「は、はい…?」
「だから早く部屋から出て行ってくれないか?」
イリスは追い出されるかのように部屋から渋々と出て行ってしまった。
何が出会って間もない君がアンジェの何が分かる、だ。父親である癖にアンジェの事が分かってないのはそちらでは無いか。
震える体。
それはこれから訪れるであろう恐怖に対してのものだった。
「アンジェ。お前……自分が何をやったか分かってるだろうな?」
父親はそう言うと、懐からぐしゃぐしゃになった便箋を取り出した。
それは三日前、アンジェがノーニアスの館でリア宛に書いた手紙だった。
アンジェはその手紙を見るなり目を見張った。
何故父親がそれを持っているのかと。
「お前からリアへと手紙を出す時は、いつも私の元に一度届く様にしている。お前が変な動きを取らないようにな。今までお利口な手紙を書いていたじゃないか。なのに何故急に反抗期になったのか。………アンジェ。私は、あれ程リアには真実を告げてはならないと言ったではないかっ!? お前はただでさえお荷物なんだぞ!? これ以上リアの足を引っ張って何がしたい! 大好きとは言っているが、本当はリアの事が大嫌いなんじゃないか? そうでも無いとリアの足を引っ張るような事する訳がないっ!!」
父親からの罵声にアンジェは唇を噛み締めた。
怒鳴られる事は慣れている。
けれど、何時までも怒鳴られるだけの自分ではいけない。そう思った。
「わ、私はっ! お姉ちゃんが大好き…! だから嘘をつきたくないの!! 何でそれが分からないのっ!? 大切な人に嘘を着くのは本当に辛いことなんだよっ!?」
「口答えするとはな……。そんな子供に育てた覚えは無いのだが? そんな口答えする商品にはお仕置が必要だな」
父親はそう言うと、アンジェへと魔法を発動させた。
「カハッ……!」
口から突如でた血。
体内を巡る魔力が止まったのを感じた。
しかもそのスピードは異常な程だ。
本来ならゆっくりと体内全ての魔力の流れは止まっていくのだが、全てが一気に止まった。
それはあまりにも突然過ぎるもので、体がその負担に耐えれず、アンジェはその場に崩れ落ちた。
息が出来ない。
頭痛が酷い。
視界が歪む。
「助けて………おねえ、ちゃん」
アンジェは死を覚悟した。
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