45 / 93
2章
体の異変
しおりを挟む週に二回開催されるルーンとのお茶会。
今まであまり話す機会の無かった二人の距離がグンっと縮まった理由は正にこのお茶会である。
その日はアンジェにとって大変楽しみなイベントなのだが、残念ながら今日は中止となってしまった。
理由は急遽入ったルーンの仕事である。
前よりも仕事は減ったとはいえ、相変わらず忙しそうなルーン。ブラック過ぎるのでは? と思う事もまだ有るし、アンジェはルーンが体調を崩さない事を祈るばかりである。
アンジェの図書館司書としての仕事はお昼から。
けれど家に持ち帰った本の修繕の仕事に取り掛からなくてはならない。
「奥様。お茶の準備が出来ました」
「ありがとうございます、イリス」
「お仕事中かと思いますが、先程からずっと作業をしていらっしゃるので気になって……。無理はなさならないで下さいね」
イリスは一礼すると、テキパキとお茶を素早く準備するとアンジェの仕事の邪魔にならないようにと部屋を後にした。
どうやらアンジェの体調を気にしてくれていたらしい。
イリスの優しさに感謝しつつ、アンジェがお茶を口に運ぶ。
「流石イリスの入れたお茶ね。凄く美味しい」
アンジェはほんのりと頬を赤く染める、
口に広がる甘い紅茶の味。
最初は意地を張って砂糖無しで紅茶を飲んでいた事を懐かしく思った。
持ち帰った本の修繕をしていると、ふと左腕にズキリと痛みを感じた。
アンジェは嫌な予感を覚え、恐る恐ると指輪を外し、左袖をめくった。
そうすれば、禍々しい文様がまるで茨の様になり、アンジェの細く白い腕をグルグルと囲っていた。
「カハッ……」
そして次の瞬間、アンジェは口から血を吐き出していた。
体の中に渦巻く魔力が暴れている。
左腕が動かせない……。
「……これが体を蝕まれていくってことか」
一向に動いてくれる気配の無い左腕にアンジェは小さく息を吐いたあと、平常心を装いながら再び仕事に取り掛かった。
▢◇▢◇◇◇◇▢▢▢▢
「此処が……歴史書。と、とにかく本がた、たくさん有るから…その、覚えるの大変だと思うけど……グレジス夫人ならきっと、だ、大丈夫…かと」
「あの、シオさん。仕事仲間になったんですし、グレジス夫人では無くアンジェと呼んで下さい」
「え、でも…!?」
「無理強いはしませんが、カイトさんとイチカさんも私をアンジェと呼びます。それって仕事は仕事だと割り切っているからだと思うんです」
アンジェがそう言って微笑めば、シオは困ったような顔をした。
シオは平民だ。
それに比べてアンジェは公爵夫人。
そんなにも馴れ馴れしく名前を呼んでいいものなのかと不安になった。
けれど、こんな根暗な自分にこうして微笑み掛けて気遣ってくれているアンジェを突っぱねる様な真似がシオに出来るわけも無く、恐る恐ると言葉にした。
「……ァ、アンジェさん」
「何なら愛称のアンでも良いんですよ?」
「さ、さすがに恐れ多いですよっ!!」
シオがあたふたと焦った様子で言うので、アンジェはおかしくなってつい笑ってしまった。
それから二人は本棚の整理をしながら、世間話に花を咲かせた。
シオはかなりの口下手だが、アンジェの話にしっかり受け答えをしてくれるし、何なら的確なアドバイスもしてくれた。
脚立に乗りながらアンジェは本棚に本をしまっていく。
その時、左手に強い痺れを感じで本を床へと落としてしまった。
顔が青くなるアンジェ。
そんなアンジェの元へとシオが駆け付け、落ちた本を拾う。
「だ、大丈夫です、か?」
「……すいません。手が滑ってしまいました。その、本は大丈夫でしょうか?」
「あ、本は大丈夫ですけど……アンジェさん、その顔色が悪いですよ? だ、大丈夫…ですか?」
「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしてすいません」
アンジェはニコリと笑ってみせた。
シオに心配をかけない様にと。
85
あなたにおすすめの小説
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末
コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。
平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。
そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。
厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。
アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。
お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。
番外編始めました。
世界観は緩めです。
ご都合主義な所があります。
誤字脱字は随時修正していきます。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる