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2章

視線の正体

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 エミルの言葉にアンジェは大きく目を見開いた。
 言葉を返したいのに声が出ない。
 ただエミルを見つめる事しか出来ないアンジェに、エミルは小さく微笑む。


 「……そう怯えないで。て言うか、何なら相談して欲しいくらいだね。絶対に力に慣れると思うからさ」


 エミルは胸元からメモ帳と魔法道具のペンを取り出し、スラスラと何かを書き出す。
 そして手を止めると、そのメモを誰にも気づかれないようにアンジェへと渡す。


 「相談したくなったらおいで。……オレが知ってる限りは教えてあげるから」


 エミルはそう言うと、「別件の仕事忘れてた! ルーン行こうか~」とルーンの首根っこを掴んでまるで嵐の如く食堂を去ってしまった。

 宮廷魔導師団団長。
 その肩書き通り、魔法の腕前は凄まじいものだと聞く。
 一度アンジェがお茶会でエミルについて尋ねたことがあった。
 その時、ルーンが言っていたのだ。


 『凄く不真面目で、いちいちうるさい人ですね。ですが、魔導師としての腕前は本当に尊敬してます。それに……その、私がちょーっと色々あった時にかなり面倒を見て貰った人なんですよね』


 何でも尊敬はしているが、尊敬していない部分もあって…けれど昔色々あって面倒を見てくれていたから頭が上がらない存在らしい。


 「アンジェ!」

 「え、旦那様!?」


 考え事をしていると、突然ルーンに呼ばれてアンジェは驚く。
 てっきりエミルと食堂を後にしたとばかり思っていたが、どうやら戻って来たらしい。

 何か自分に用だろうか?
 ただでさえ公爵夫人。
 ましてやルーンの妻が宮廷専属図書館司書として働き始めたことはお城に仕える人間で知らない者は居ない為、こうして二人が城内で話すとかなり目立つ。
 目立つことに慣れていないアンジェは酷く周りの視線を気にした。

 しかし、この間のお茶会は残念ながら中止になり、ルーンと話せていなかったのでこうして声を聞けたのは正直嬉しかった。


 「……お仕事、楽しめていますか?」


 「はい、とても。あと三年。しっかり社会勉強をさせて頂きます」


 そうアンジェが微笑むと…


 「だ、旦那様…?」
 

 「あ、すまんっ!!」


 ルーンがアンジェの腕を咄嗟に握った。
 その行動にアンジェ、そしてルーン自身も驚いた様に目を見開いていた。

 その時、アンジェの中で何かがグラリと揺らいだ。

 慌ててアンジェから手を離し、ルーンはもう一度謝罪の言葉を述べた。


 「あ、いえ…す、すみません。急に触ってしまって…」


 「それは構わないのですが……」


 アンジェはジーッとルーンを見つめる。
 その視線にルーンはビクリと肩を震わせた。


 「……あの、今さっきの言葉遣いって」


 「な、何か変でしたか?」


 「いえ…すいません。なんでもありません。その……お仕事、頑張って下さい」


 アンジェは瞼を閉じ、ゆっくり開いた後、微笑みながらルーンを見送った。




 ▢◇▢◇◇◇◇◇▢▢▢▢




 昼食を食べ終わった後、アンジェは図書館へと向かった。
 すると、また視線を感じた。
 今度はかなり近い距離から。

 変な輩に目を付けられていたらどうしよう。
 そうアンジェは酷く不安を覚えた。

 魔法が使えたり体術を心得ていたら良かったが、アンジェはどれも使えないのだから。


 急いで図書館へ戻ろう。
 そう思い、駆け足で急ぐと


 「へっ…!?」


 曲がった瞬間、突如首根っこを掴まれた。
 突然のことにアンジェは驚き、後ろを振り返る。すると、花瓶から白い手が伸びており、その手がアンジェの首根っこを掴んでいた。


 「いやぁぁあぁー!!」


 アンジェの悲鳴が響き渡る中、アンジェは花瓶の中へと吸い込まれた。


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