君に逢えるまで~星の降る街~

GIO

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十三話 謎の解明へ

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 昌一郎が真実に一歩近づいていたのと同じ時、高校に隣接する竹林で一騒動起きていたがそんなことは彼の知る余地では無かった。
 進入禁止のエリアにいたのがバレて、大人から追われていた哲平は知らない誰かに助けてもらった。
 ただ乗せた車の運転手は乗せるときに発した言葉以降一言も喋らずに黙りながら車を走らせる。
 沈黙の時間は、哲平に考える時間を与え知らない人物の車に何故乗ってしまったのかと後悔する反面、車を運転する老人が何者なのか興味を持っていた。
 だが質問できる雰囲気ではなく車内に静かな時間だけが漂う。

「着いたぞここがわしの家じゃ」

 そこは見るからにして家と呼べる代物では無く敢えて呼称するとしてらオンボロ倉庫が相応しいのではないかと哲平は内心思った。

「この中は案外冷えるからタオルケットとほれ暖かいお茶を飲め」

 乱雑に置かれた段ボールの中から、古びたタオルケットを取り出し、ポットから注いだお茶と一緒に渡してきた。

「どうもありがとうございます。えっとぉ~」
「わしの名前は阿笠輝雄、研究者だ」

 阿笠博士が自己紹介を終えると廃倉庫の外で車のエンジン音が聞こえ、追っ手を振り切れなくてここまで追ってきたのではないかと哲平の警戒心が高まる。

「あれっ哲平君、どうして君がここに?」
「確かあなたは柿さん……」
「そっよく覚えていたな」

 あきら以外の三人については昌一郎が面会にて質問していたが、その間柿は病室の隅で話をただ聞くことに徹していた。
 その際彼は始めに軽く自己紹介だけは済ませていたのだ。
 だから哲平も柿のことを知っていた。

「でもどうしてあなたがここに?」
「それはこっちの台詞と言いたいところだが、まぁそれはいいや。先に謝っとくが君たちのことを洩らしてしまった」

 だからワゴン車に乗り込むときに阿笠博士が自分の名前を知っていたのだと合点がいき納得した。
 でも公務員として情報漏洩にもあたる行為を平然とした柿さんを怪しむ目でじっと見ると柿さんは困った顔を示した。

「そんな顔で見ないでくれ。結果的に役に立ったからここにいるんだろ?」
「おっほん。二人ともそろそろ本題に入りたいのだが良いかな?」
「あっすみませんどうぞ話して下さい」
「その前に君達にはわしが知り得る全てを話そうと思うがそれが原因で命の危険を孕むがそれでも良いのだな?」

 阿笠博士から最後の忠告が成された。



 喩え命の危険を孕むとしてもあの日自分が見たあれは何だったのか確かめたい好奇心。彗星の一部が落ちてきた日、起きたあの現象ーーーー。
 空間の渦に呑み込まれた友である本堂あきら、その渦から放り出されたもう一人の本堂あきらと謎の少女が誰なのかを知りたい。
 と考えていた哲平の答えは揺らぎようも無く確定していた。

「お願いします、阿笠博士。僕は真実が知りたい」



 真実を追って早四年。
 それでも真実に近づけなかった。
 阿笠博士と出会ったことで漸く近づけた。
 そして事実の一端を知らされ、これ以上の話を聞けば引き返せないと問われた。
 その上で立ち向かうための装備も整え、準備をしてこの場に戻ってきた。
 覚悟は出来ていた。

「教えてくれ。相葉さんらは何を企んでいるんだ」



 両者の揺らぎようがないほど強固な意志が、阿笠博士に届き、その思いに答えねばいけない。

「分かった。では話そうアクロス彗星だけが持つ特殊な粒子とそれが織り成す神秘あるいはその粒子がもたらす恐ろしい特質を」

 阿笠博士の口から語られた内容は二人にとって驚愕すべきものだった…………。



十月十七日 月曜日 午後三時

 仕事をしながら、上司が隠している何かについて密かに調べていたが全然その尻尾すら掴めない状況に苛つきを覚えていた。

「なんで見つからないんだよ」

 何が起きているかは分からないが一つだけ言えることは確実に隠蔽されているということだけ。

「おい、何してるんだ?」
「相葉さんっ、どうかされましたか」
「皆を集めてくれ。」
「あっはい分かりました」

 何かを捜索していることがバレたのかと冷や汗をかきながら相葉さんが立ち去る姿を見ていた。
 ただいきなりの召集が何を意味するのか分からず、不気味さだけが身体を襲った。

「昨夜この高校のすぐ横にある竹林付近で誘拐事件が発生した」

 大宮高校に派遣されていた国家安全監理局の職員一同が一つの仮設テントの中に勢揃いしていた。
 その場で現場を統括をしている相葉秋から告げた一言に一気に周囲の緊張感は高まった。

「誘拐されたのは岩沼哲平十七歳。尚この件については非公開な上に警察にも知らせていないことだ」

 岩沼哲平、ここで働いている者達はすぐにその名前が災害に巻き込まれた少年少女の一人と理解した。

「ですが何故岩沼哲平の誘拐を警察に知らせないのですか?」

 その場にいた一人の職員から声が出る。

「最初にいっておくが犯人からの要求はまだない。そして災害に巻き込まれた関係者である岩沼哲平が、それを調査する我々の仲間に拉致されたなどと公にすることは出来ない。我々は国民を護る担い手なのだ」

 犯人を特定している言い草だ。

「ちょっと待ってください。我々の仲間が拉致したとは一体どういうことですか!」
「言葉の通りこの画像を見てくれ」

 部屋にある巨大スクリーン一枚の画像が映写機を用いて映し出される。
 その画像にはワゴン車に連れ込まれる岩沼哲平の姿を視認することが出来た。
 この画像は侵入者対策に国家安全監理局が初日に取り付けた監視カメラによるものだ。

「あ!」

 静まり返るなか昌一郎が大声を上げて周りが一斉に振り向いた。

「すみません。何でもありません」

 昌一郎が声を上げるのも無理は無かった。
 今画面に映し出されている灰色のワゴン車は自分の父親が運転するワゴン車と同一車であると確信した。
 何故ならつい先日あの車に自分は荷物を乗せたからであった。

「このワゴン車を運転する者が誰かまでは今のところ識別できてはいない」
「車のナンバーから持ち主の特定は?」
「画像が粗く、ナンバーの特定までは無理だそうだ。これだけなら我々の職員が関与したとは思えないのも無理はないだろう」

 皆の心情を代わりに代弁する。
 顔も分からない、持ち主の名前も分からないとなれば誰が関与したかなど知ることも出来ない。

「但しこの車を目撃していた市民がいた。昨日の昼間以降数時間にも及びあの近くに駐車してあったとのことで、ある警官が注意を促すと走り去ったとのことだったがその警官と言うのが問題なのだ」

 前半部分を聞いている限りは何も問題視する必要は無いように昌一郎は思えたのだが答えはそう甘いものでなかった。
 
「そもそもその場に警官は出向いていない。この辺りの情報統制は我々が行い、警察には関わらせないように要請したからに他ならない。もしかしてと思いある人物の顔写真を聞き込みを行った住人に見せてみると訪ねてきた警官と一致したそうだ」

 画像が切り替わり、スーツ姿の男性の顔写真が映し出され国家安全管理局の職員一同はその男性に心当たりがあった。

「なにしてんだよ柿」

 写真の人物は柿大地。
 昌一郎の同僚だ。
 そして柿が何かしら岩沼哲平誘拐に大きく関わっていると相葉が判断するに至った経緯がここにある。

「ではこれから職員を捜索班とここに残る調査班との二班に分け行動する」


 国民を守る絶対機関として身内の行いを余り公にしたくない為に警察に通報しない。
 それが決定事項なのだと皆が悟る。
 相葉は決して口には出さなかったがその思いは周りの職員に伝わった。
 そして相葉は手際よく二班に分けると解散させ各々が仕事に移るなか昌一郎は捜索班に回された。
 皆に続くようにして部屋の外に出ようとしたのだが上司の相葉に引き留められた。

「昌一郎、確か君が柿と最後にあった人間だと把握しているのだが彼は何か言っていなかったか?」
「何か気になることがあるとだけ言っていました」
「気になること?」
「はい。だけど詳しく聞かないまま柿は居なくなってしまいました」
「そうか、報告ご苦労。手間を取らせた君も捜索の方をしっかりと頑張ってくれ」



 昌一郎は部屋の外で考え込んだ。
 捜索班に回されたのは今回動員されている局員の中でも、今まで雑務に宛がわれていた者ばかりで当然と言えば当然であるがそこに昌一郎は不信感を持つ。

「やはり上は何としても隠し立てたい何かがある?」

 それは昌一郎の想像する、考えを裏付けるものだとさえ思えてくる。
 調査班に回された者は相葉に長年付き従う信頼の置ける者ばかりでそれ以外、今回の騒動によって他の部署から駆り出された人や昌一郎のように相葉が率いる部署に配属されて日が浅い人物達その全員が今まで雑務に宛がわれ次ぎは捜索班だった。
 その行為に半ば除け者扱いされていると昌一郎は考えたていたが、裏で行っていることを鑑みると知っている者は少なくした方が良いと思うのは当然のことだ。

「だけど父さんと柿は二人して一体何を企んでいる?」

 ワゴン車の運転手は自分の父親で間違いないと思ったがあの場ではどうしても言えなかった。
 昌一郎は自分の父親が子供を誘拐し、犯罪を起こすなど到底理解出来なかった。
 おそらくそこにも今回の事が絡んできているのだろう。
 だからこそ真実を早く確かめたいと思ってしまう。
 昌一郎は一人学校の外に出ると携帯電話のアドレス帳に登録してある先日教えてもらった父親の番号にかけてみたが繋がらなかった。
 父親の話によると家を出る四年前まで使っていた携帯電話は既に処分していてその為新しい携帯電話を今は使っているとのことだった。

「取り敢えずあのオンボロ倉庫に行くしかないみたいだな」

 昌一郎はそう決断づけると徒歩で三日前に父親と再会した街外れにあるオンボロ倉庫を目指す。



同日 午後九時

 普段この時間帯には誰もいなく、静かな加茂公園には一組の男女がいた。

「俺と恭子ちゃんが付き合っていた?」

 唐突すぎかつ予想だにもしなかった事実に俺は驚き、もう一度確認する。

「ええ、そうよ。付き合い始めたのは高一の春からだから付き合って一年半になるわね」

 俺の質問に恭子ちゃんは真面目に答えるその姿に嘘偽りは一切見受けられなく、これまでのことから皆からしてみれば記憶がすっぽりと抜け落ちた俺に対して思い出して欲しいその一心で恭子ちゃんが投げ掛けたことは明白だ。
 いや、違う。
 好きだからこそ俺を支えたいその一心で打ち明けてくれたに違いない。
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