白い猫と白い騎士

せんりお

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1 森での出会い

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私、宮野六花はただいま


―化け物に追いかけられています。


「にゃぁぁぁぁぁーー!!」

心の中ではいやぁぁぁぁーー!!と言っているつもりなのに口に出るのは猫の鳴き声。

それもそのはず私の体は多分―猫だ。

【多分】がつくのは自分の体を鏡で見ることができていないから。
前足を見る限り多分、灰色猫。…いや、白猫…?

その小さな足で、鬱蒼と木々が茂る森の中を全力疾走する。凄まじい速さで景色が過ぎ去っていく。

後ろの化け物とはその距離僅か3メートル。化け物はとてつもなく大きくて、熊みたいな姿だ。ただその色は言い表せないような禍々しい真っ黒で、本能的に追い付かれてはいけないと感じる。

って、あかーん追いつかれとる‼

脳内でふざけてみるも打開策は思い付かない。

そもそも、なんで追われてるの⁉ここどこ⁉あれなに⁉なんで猫になってるの⁉
わからないことだらけで頭が沸騰しそうだ。

「にゃっ⁉」

足を木の根っこに引っかけて転んでしまった。
大きな黒い化け物が迫ってくる。鋭い牙を剥き出しにして、口をガバッと開けた。

ヤバイっ、噛まれる!

恐怖に身が強ばって動かない。
なんだか分からないうちに始まった2度目の人生らしきものも、もう終わりを迎えそうだ。
ぎゅっと目を閉じた。

その時、ざしゅっという音が響いた。

体を襲うだろう痛みを覚悟していたが、一向にやってこない。

あ…れ?

うっすらと目を開けてみる。

そこにはまっぷたつになった化け物が転がっていた。

その傍に、人が立っている。

「おい、猫。大丈夫か?」

私にそう声をかけてきたのは、白い軍服のような服をまとった男の人だった。

うっわ、この人すごい綺麗…

思わず見惚れてしまったその人は、そこらのモデルなんか足元にも及ばないような、まるで作り物みたいな美形。歳は20代くらいに見える。
艶のある長めの黒髪を後ろで一つに束ねている。

目が合う。うっと息が止まるほど真っ直ぐに。何もかも見透かすことの出来るような鋭さを含むその人の目は、星空のような深い青色をしていた。


視線に射ぬかれて目が反らせないまま呆然と見上げていると、突然首根っこを掴まれて、ぶらーんとぶらさげられた。

「にゃっ⁉にゃー!(ちょっと⁉何すんのよ!)」

「うるさい猫だな。まあ、怪我はしていないか。」

そう言うとその人はなんとそのまま空中でぱっと手を放した。

「にゃーー!(落ちる落ちるー!)」

地面に激突する‼と思ったけど、そこはさすが猫で、難なく着地することができた。



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