白い猫と白い騎士

せんりお

文字の大きさ
上 下
21 / 41

21 魔の森

しおりを挟む
森へ入ると一気に空気が変わったのを感じる。とても重く、どこか苦しいような空気。木が鬱蒼と繁っていて日の光が入ってこない森の中は薄暗く不気味だ。
その木の間をシグさんとレオンさんは巧みに馬を操って奥へ奥へと進んでいく。進めば進むほど空気が重いように感じる。

『シグさん、なんで奥に行くの?森の外に出てるやつを操ってるなら近くにいるんじゃないの?』

疑問に思ったことをシグさんに聞く。シグさんは前を向いたまま答えてくれた。

『いや、あれは操ってるんじゃなくて“産み出してる”んだ。そんな事ができるのは上位のものだけだ。そんなやつは森の外側へは出てこない』

シグさんが顔を歪めて言う。

『その魔獣はなぜそんな事を?』

だって魔獣には利益がないじゃないか。何のためにそんなことをするのかわからない。

『さあ、何でなんだろうな…魔獣に知性があると言う話は聞かない。強いて言うなら、本能なんだろうな。そう在るからそうするんだろう。はた迷惑な話だがな』

本能…本当にそんなことで?もしそうだったら、それはどうしようもないことなんだろうか…。
思考に沈みかけた私は、次の瞬間のシグさんの鋭い声にはっと引き戻された。

「気配が近い!レオン気を付けろ!」

シグさんとレオンさんが一気に極限まで緊張を高めたのがわかって、私も身を強ばらせた。私にもわかる。なにか大きな恐ろしい気配を感じる。どうにも怖くて心臓がどくどくと嫌な動きをし始めた。
と、突然木に覆われていた視界がばっと開けた。シグさんとレオンさんが慌てて馬を止める。突然現れたその開けた場所、真正面にそれはいた。恐怖に身がすくむ。それはとても大きな魔獣だった。黒い気配に覆われていて実態がはっきりとは見えない。
レオンさんがはっと息を吸い込んだのが聞こえた。

「シグ!実態が見えない系のやつは厄介だ!どうする!」

「どうするもこうするもお目にかかったことがないような化け物だぞ!叩くしかないだろうが!」

二人とも叫んでいる間も魔獣の注意を分散するかのように動き続ける。

「左右から同時にやるぞ!俺はこっちから行く!」

「りょーかい!」

レオンさんの声とともに二人は馬の背を蹴って魔獣に斬りかかった。乗り手を失った馬は本能でその場から離れ出す。慌てて私も飛び降りた。シグさんたちは阿吽の呼吸で動いている。だがさすがに高位の魔獣であるため決定打はなかなか与えられない様子だ。私も何かしたい、二人を助けたいとは思うけど今の私では邪魔になるだけだ。せめてそれはしたくない。私は激しい戦闘から少し離れた場所で祈りながら見守るしかない。お願い!レオンさん、シグさん!どうか、どうか無事で…!


しおりを挟む

処理中です...