白い猫と白い騎士

せんりお

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32 白の軍服

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「まあ、よし。報告は終わった。街に出るか」

気を取り直したようにシグさんが言って私もその提案にテンションをあげた。
馬の上から見た街はそれは賑わっていて楽しそうだった。

『行く!早く行こうよ!』

急にテンションをあげた私にシグさんは苦笑を溢してからゆったりと歩き始めた。私が肩に乗っていないからだろう。てててて、と歩く私の小さな歩幅にあわせてくれているのを感じてなんだかこそばゆい。

「とりあえず一旦宿舎に行くぞ。軍服で街に出るわけにはいかないからな」

確かにそうだ。シグさんたちの軍服は真っ白だ。一点の曇りもないその白は人混みでもひどく目立つだろう。

『ねぇ、なんでシグさんたちの軍服は白色なの?魔獣たちと闘う時に目立たないで自然に紛れる色とかじゃなくてさ』

ふと疑問に思う。魔獣相手には目立たない方が戦いやすいんじゃないだろうか。
私の質問にシグさんはちらりとこちらを見た。そしてまた前に向き直る。

「…魔獣相手には姿を隠した程度では目眩ましにならないことの方が多い。奴等は魔力を察知するからな。それと…」

シグさんはそこで少し言葉を切った。

「血が、よく見えるだろ」

『…え、血?』

「そうだ。白色だと出血がよく確認できて怪我の有無や大小がわかりやすいんだ。野外での魔獣との戦闘においては少しの怪我でも命に関わるからな」

『そんな理由があったんだ…』

「やせ我慢する隊員が多いからな。周りから一瞬で怪我が分かるようにするのは大切なんだ」

軽い気持ちで聞いた疑問は、思っていたよりも遥かに重い答えを持っていた。ニルガで経験した魔獣との戦闘。あの恐ろしさが思い出される。
改めて、命を懸けて日々を生きている軍人という立場の重さを実感して少し怖くなった。シグさんもレオンさんも、良くしてくれる他の隊員さんたちもそんな白い軍服を背負っている。
黙り混んでしまった私をシグさんはひょいと持ち上げた。

「にゃっ!?」

「俺たちは強い。訓練もしている。早々に致命傷なんか負わねえよ」

そう言ってシグさんはにっと笑った。シグさんはほんとに優しい。今も沈みこんだ私を察して励まそうとしてくれている。

「…にゃー」

あえて鳴き声で返事をした。ふっと笑ったシグさんにぐりぐりと頭を撫でられる。
私が出来ることはないのかな。なにかシグさんの、この人たちの助けにはなれないのかな。何かしたい。そう思った。


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