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迷走編
44話【case 5】塩谷 茜 22歳:緊急入院(藍原編)①
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さてさて、次は、貧血精査中の塩谷さん。前回は結局、婦人科検索で何も見つからなくて、でもデータ上は鉄欠乏性貧血だったから、鉄剤を処方して帰ってもらったのよね。あれから1か月。鉄が補充されて、貧血は改善してるはず……
「……え?」
パソコンで今日の採血データを見て、びっくりする。
ヘモグロビン、4.2。
うそでしょ。これ、別の人のデータじゃなくて? よくなってるどころか、ものすごい下がり方。こんなんじゃあ命に関わる。
診察室に呼び入れると、彼氏のけんちゃんに付き添われて、塩谷さんが入ってきた。前回より、更に顔色が悪い。真っ白。でも、歩いてる。
「……塩谷さん。今日のデータ、ひどく悪いんだけど、どうしてこんなになるまで我慢してたの? 歩くのだって精いっぱいじゃない?」
「……でも、じっとしてれば平気だから……そのうちよくなるかな、と思って……」
とりあえず、心臓の音を聞く。貧血がひどすぎて、ものすごい頻脈だ。心雑音もすごい。足を見ると、前回よりむくんでいる。眼瞼結膜も、真っ白。呼吸数も増えているし、どうやらデータの取り違えじゃないらしい。これは、まずいわ。
「塩谷さん。今日、入院してもらわないとダメだわ」
そういうと、塩谷さんより先にけんちゃんのほうが驚いて声を上げた。
「ええっ! そんなに悪いんですか、茜は!?」
「貧血が悪化しすぎて、今、心不全を起こしてます。若くて慢性の貧血だから、本人は慣れちゃって大丈夫そうにしてますけど、実際は、体は限界ですよ。これ以上悪化したら命に関わります。今日緊急的に輸血して、それから、原因を調べましょう。鉄欠乏性貧血には間違いないですから、体のどこからか、出血してるはずなんです。しかもこれだけの悪化だと、本人にも何かしら出血の自覚があってもよさそうなんだけど……」
そういってちらりと塩谷さんを見る。息苦しそうで、あまりあたしの話も聞けてないみたい。
「便が真っ赤とか、出血らしい出血、ないかしら?」
塩谷さんは首を横に振る。
「とにかく、外来で話していても進まないので、入院の手配、しちゃいいますよ? いいですね、塩谷さん?」
塩谷さんはこくりとうなずいた。けんちゃんが真っ青な顔をして彼女の手を握る。
「大丈夫だよ、俺がずっとついてるから。きっと大丈夫だよ」
参ったわね、まさか安パイのはずの塩谷さんがこんな展開になるとは。入院指示と、初期対応の指示をオーダーして、次に、梨沙ちゃんに電話。
『はーい、戸叶です』
「梨沙ちゃん、藍原です。悪いんだけど、今から緊急入院1件、お願い」
『ひゃあ、何者ですか?』
「鉄欠乏性貧血精査、今日のHbが4.2。外来で点滴と輸血のオーダー入れたから、病棟に上がったら、なるべく早く輸血つけてあげて」
『了解でーす』
緊急入院が入ると、外来でも事務処理や雑務が発生して一気に流れが滞る。でも仕方ない、人手が足りないから、追加採血を兼ねてあたしが外来で血管を確保する。そういえば塩谷さん、職業は看護師だったわね。病院にもよるけど、看護師さんは採血や血管確保の達人。そんな人に針を刺すなんて、何だか緊張するわね……。
「じゃあ塩谷さん、点滴始めるわね。利き腕は右? じゃあ、左でルート確保するわよ」
左手の袖をめくろうとしたら、塩谷さんは右腕を差し出した。
「あ、右でいいです。あたし、血管出にくいんで……」
「あら、そう?」
確かに、筋肉の発達した利き腕のほうが、血管は確保しやすいけど。看護師ならではの気遣い、ありがとう。
「それじゃ、病棟でまた会いましょう。私と、もうひとり、戸叶という医師で入院中は見ていきますから。とにかく安静に、ね」
塩谷さんは、けんちゃんに付き添われて、車椅子で出ていった。
「……え?」
パソコンで今日の採血データを見て、びっくりする。
ヘモグロビン、4.2。
うそでしょ。これ、別の人のデータじゃなくて? よくなってるどころか、ものすごい下がり方。こんなんじゃあ命に関わる。
診察室に呼び入れると、彼氏のけんちゃんに付き添われて、塩谷さんが入ってきた。前回より、更に顔色が悪い。真っ白。でも、歩いてる。
「……塩谷さん。今日のデータ、ひどく悪いんだけど、どうしてこんなになるまで我慢してたの? 歩くのだって精いっぱいじゃない?」
「……でも、じっとしてれば平気だから……そのうちよくなるかな、と思って……」
とりあえず、心臓の音を聞く。貧血がひどすぎて、ものすごい頻脈だ。心雑音もすごい。足を見ると、前回よりむくんでいる。眼瞼結膜も、真っ白。呼吸数も増えているし、どうやらデータの取り違えじゃないらしい。これは、まずいわ。
「塩谷さん。今日、入院してもらわないとダメだわ」
そういうと、塩谷さんより先にけんちゃんのほうが驚いて声を上げた。
「ええっ! そんなに悪いんですか、茜は!?」
「貧血が悪化しすぎて、今、心不全を起こしてます。若くて慢性の貧血だから、本人は慣れちゃって大丈夫そうにしてますけど、実際は、体は限界ですよ。これ以上悪化したら命に関わります。今日緊急的に輸血して、それから、原因を調べましょう。鉄欠乏性貧血には間違いないですから、体のどこからか、出血してるはずなんです。しかもこれだけの悪化だと、本人にも何かしら出血の自覚があってもよさそうなんだけど……」
そういってちらりと塩谷さんを見る。息苦しそうで、あまりあたしの話も聞けてないみたい。
「便が真っ赤とか、出血らしい出血、ないかしら?」
塩谷さんは首を横に振る。
「とにかく、外来で話していても進まないので、入院の手配、しちゃいいますよ? いいですね、塩谷さん?」
塩谷さんはこくりとうなずいた。けんちゃんが真っ青な顔をして彼女の手を握る。
「大丈夫だよ、俺がずっとついてるから。きっと大丈夫だよ」
参ったわね、まさか安パイのはずの塩谷さんがこんな展開になるとは。入院指示と、初期対応の指示をオーダーして、次に、梨沙ちゃんに電話。
『はーい、戸叶です』
「梨沙ちゃん、藍原です。悪いんだけど、今から緊急入院1件、お願い」
『ひゃあ、何者ですか?』
「鉄欠乏性貧血精査、今日のHbが4.2。外来で点滴と輸血のオーダー入れたから、病棟に上がったら、なるべく早く輸血つけてあげて」
『了解でーす』
緊急入院が入ると、外来でも事務処理や雑務が発生して一気に流れが滞る。でも仕方ない、人手が足りないから、追加採血を兼ねてあたしが外来で血管を確保する。そういえば塩谷さん、職業は看護師だったわね。病院にもよるけど、看護師さんは採血や血管確保の達人。そんな人に針を刺すなんて、何だか緊張するわね……。
「じゃあ塩谷さん、点滴始めるわね。利き腕は右? じゃあ、左でルート確保するわよ」
左手の袖をめくろうとしたら、塩谷さんは右腕を差し出した。
「あ、右でいいです。あたし、血管出にくいんで……」
「あら、そう?」
確かに、筋肉の発達した利き腕のほうが、血管は確保しやすいけど。看護師ならではの気遣い、ありがとう。
「それじゃ、病棟でまた会いましょう。私と、もうひとり、戸叶という医師で入院中は見ていきますから。とにかく安静に、ね」
塩谷さんは、けんちゃんに付き添われて、車椅子で出ていった。
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