星恋アルビレオ

オオカミ

文字の大きさ
1 / 4

星空を見つめて

しおりを挟む
 午後八時、周囲を山々に囲まれたこの場所に、十数人の人たちが集まっている。
 辺りはすっかり暗闇に覆われ、フィルムを通した懐中電灯の弱い赤色の光だけが、私たちのいる場所を照らしていた。
 
 ついにやってきた……! 星を愛する人たちが集まる、この天文台に……!
 
 初めてきた場所で、見知らぬ人々とする天体観測。私は、期待感と興奮とで、胸をドクドク高鳴らせていた。

「南の空をご覧ください。木星と土星が見えると思います。またその上の方には、明るい三つの星が見えています。この三つの星が、夏の大三角形のデネブ、ベガ、アルタイルです」

 レーザーポインタで空を指しながら、天文台のスタッフが、夜空の星について解説している。ポインタの光はあまり強くなく、星空まで光が届いてはいなかったが、説明された星々は明るかったので、配られた星座盤と夜空を見合わせると、簡単にそれぞれの星の位置を把握できた。

「今、一番上の方にあるデネブは、はくちょう座のしっぽの部分にあたりまして、デネブの少し下には、はくちょう座の中心部分にあたる星、サドルがあります。そして、デネブからサドルへと直線を引いていきますと、はくちょう座のくちばしの部分にあたる星、アルビレオが輝いていると思います」

 星座盤に赤色のライトを当て、スタッフの説明を参考に空の星と見合わせてみる。すると確かに、デネブからサドルに直線を引いた先の方に、少し明るい星を見つけることができた。   
 その星は、デネブやサドルよりは光が弱いが、周りと比べるとなんとなく明るい星だった。

「このアルビレオという星は、肉眼では一つの星のように見えますが。実は、二つの星が重なって見えている星、二重星なのです。この話を聞くと、この二つの星は隣り合っているように思えてきますが、最近の観測データによると………………」
 
 それから少しの間、スタッフさんの説明が続いた。

「では、望遠鏡で星を見てみましょう」

 スタッフさんたちが、望遠鏡のレンズの角度を調整し始めた。私を含む参加者は望遠鏡に並んで待っている。

「お待たせしました。順番にご覧ください」

 調整が終わり、最初の人が望遠鏡を覗き込んだ。私はけっこう後ろの方に並んだので、順番が回ってくるまで時間がかかりそうだ。
 手持ち無沙汰になってしまったので、なんとなく空の星を眺めていると、後ろから、男性っぽいさわやかな声が聞こえてきた。

「夜空、きれいだね」
「え?」

 振り向くとそこには、私より頭一つ分ぐらい背が大きく、やや細身の人が立っていた。
 暗闇のせいで、その姿ははっきりとは見えないが、声やシルエットから、なんとなく、若い男性なように思えた。

「あ、ごめん。いきなり話しかけちゃって……。失礼だったかな?」

 私が疑問符で返してしまったからか、その人は慌てた様子になってしまった。

「いえいえ、話しかけてもらえて嬉しかったです。……星、好きなんですか?」

 私は、その人を不安にさせないよう、なるべく落ち着いた声で返事をした。

「ほんと!? よかったー!」
 
 その人は、大げさなほどに喜び、ぴょんと一回その場で飛び跳ねた。
 変わってるけれど、子供みたいでなんだか面白いな、と思った。

「星はね、もちろん大好きだよ! やっぱり、生きてると色々大変なことがあるんだけどさ、星を見てると心がすっきりして、明日もがんばろー! ……って気持ちになってくるんだよね」
「わかります! 星を見てるとほんとに癒されますよね!!」

 彼の星への想いに共感しすぎてしまい、思わず情熱的に言葉を返してしまった。

「だよね!! やっぱり星ってすてきだよね!」

 彼も熱く共感してくれた。やはり、同じ星好きの仲間が見つかるとうれしいものなのだ。

「そういえば、あなたのお名前は何て言うんですか? 私は夜空舞よそらまいと言います!」
「えーと、僕はね……『ルイ』って呼んでもらえるとうれしいな」

 ルイ……何となく外国人っぽい名前だ。ひょっとして、どこか海外からやってきた留学生さんなのだろうか?

「ルイっていうんですね! ちなみに、ルイさんは何歳なんですか? ひょっとして社会人?」
「あー、僕はね……十六歳……くらいで、社会人じゃなくて……そう、高校生! 十六歳で高校生だよ!」
 
 なんだか歯切れが悪くて、ちょっと混乱してしまう。
 もしかしたら彼は、少し、というかだいぶ天然な人なのかもしれない。そういう私も、学校では天然ってよく言われてしまうので、あまり人のことは言えなかったりする……。

「そうなんですね! 実は私も十六歳で、高校一年生なんです! 先月に誕生日を迎えたばかりなんですけどね~」
「先月っていうと、七月?」
「そうですよ~、七月二十二日ですっ!」
「うーんと、七月二十二日ってことは、かに座かな?」
「そうですそうです! ルイさんは何座なんですか?」
「僕は双子座だよ~」

 双子座ということは、だいたい五月から六月生まれだったはずだ。

「じゃあもしかして、ルイさんと私って学年同じ?」
「えーと、そだよ~」
 
 なんて話していると、ついに私の番がやってきた。

「お先に望遠鏡見てくるね」
「はーい」

 スタッフさんに誘導されて、望遠鏡のレンズをのぞいてみると、大小二つの隣り合った星の姿を見ることができた。
 大きな星は黄色く、小さな星は青白く輝いている。この二つが重なって見えていたのが、はくちょう座のくちばし部分を形作る星、アルビレオなのだろう。

 鮮やかな色彩を放つアルビレオの双星を、心ゆくまで眺めてから、私は望遠鏡から目を離した。
 私の番が終わると、後ろに並んでいたルイが望遠鏡を覗き込んだ。「へー」とか「ほー」とか、感嘆の声を上げながらレンズを覗いている。

「いやー、面白かったー。確かにあの望遠鏡で見ると、あの二星は隣り合っているようにしか見えないなー。……あれ? 待っててくれたの?」
「ん? うん」

 せっかく星好きの同士が見つかったのだ。望遠鏡を見終わったくらいで、さよならなんかするわけがない。

「そっか……なんだかうれしいな」
「そうなの?」
「うん……。僕、こうやって自然に話せる人、あんまりいなくてさ……」
「そうなんだ…………」

 会話できる相手のいない寂しさは、私にもよくわかる。私も学校では、友達作りに苦労しているのだ。
 まったく友達がいないわけではないのだが、会話のテンポがずれているのか、感性がずれているのか、それとも価値観がずれているのか……とにかく、周りの人たちとうまく噛み合わないのだ。

「まあ、私は全然気にしてないからさ。せっかく星を見に来たんだし、いっしょに楽しもうよ!」
「そうだね!」

 それから私たちは、ぽつりぽつりと言葉を交わしながら、静かに星を眺めていた。多くを語ることはなくとも、こうやって美しい星空を眺めているだけで、お互いに分かり合えるような気がした。

「今日はありがとう! おかげさまで、とっても楽しい観望会だったよ!」
「いえいえ、私の方こそ! 星をいっしょに見れる友達ができて、とってもうれしい!」
「トモダチ……そっか、こういうのを友達っていうんだね!」
「そうだよ、友達! また、いっしょに星を見ようね!」
「うん!」

 彼と向かい合い、手を触れ合わせて握手をする。

 ほのかな暖かさを感じる、なめらかで優しい手だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

初恋の人

凛子
恋愛
幼い頃から大好きだった彼は、マンションの隣人だった。 年の差十八歳。恋愛対象としては見れませんか?

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...