星恋アルビレオ

オオカミ

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アルビレオ

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 僕が生まれた星は、科学技術が非常に進んでいて、何億光年も距離がある場所……つまり光が到達するまでに、何億年もかかるような場所でも、旅行感覚で行くことができた。
 地球の人たちから見たら、信じられないことかもしれないけれど、僕たちのいる星では、そのくらいのことは常識だった。宇宙の果てはどこか……とかって話になると、さすがに、僕たちの星でも、解明されていないんだけれど。
 そんな星で生まれたなら、たいそう贅沢ができるだろうと思うかもしれない。確かに、僕は生まれてこの方、日常生活に苦労したことはなかった。食べ物も、ゲームも、欲しいものは何でも手に入れられた。
 けれど、僕には、科学で満たされたこの星は息苦しかった。どれほど多くの物を得られても、人の心の温もりを得ることはできなかった。この科学の星のように、星に住む人たちはみんな、まるで機械のように無感情で、目に見える物のことしか考えていなかった。同じ生きた人間のはずなのに、機械の人形に囲まれているように感じながら、僕は生きてきた。
 僕には、この星で一生を過ごすことはできない……そう思って、まだ文明が発達しすぎていない、人の心が感じられる星、地球へとやってきた。
 だけど、今までずっと孤独に生きてきた僕には、人と仲良くなる術が分からなくて、うまく地球に馴染むことができずにいた。
 そんな時に、僕は彼女に出会ったんだ。
 僕は昔から、星を見るのが好きだったし、地球から見える星空は、僕の星から見たものとはまったく違っていて、とても新鮮に映った。だから、好きなことでなら友達を作れるんじゃないかと思って、あの日、星空の観測会に行ったんだ。
 そこで出会った彼女……舞は、とても優しい人で、この人には暖かい心があるんだと感じられて、とても安心できた。気づけば、このままずっと、舞と一緒に生きていきたいと、心の底から願うようになっていた。
 でも、そう簡単にはいかなかった。僕の星には、移星に関して厳格なルールがあって、他の星に定住するためには、一度、決められた期間内に帰星しなければならなかった。そして、それでも新たな星での生活を望むなら…………帰星してから二年後以降、この星に戻ることは永久に禁じられてしまう。
 正直、この星に帰って来れなくなるのは嫌だった。たとえ、人の心を感じられなくても、僕にとっては大切な生まれ故郷だから。
 それでも、僕は彼女と生きることを選ぶ。短い時間ではあったけれど、彼女と過ごせて幸せだった。彼女と出会って、共に過ごして、自分の心の欠けていた部分が、ようやく満たされた気がした。そして何より、僕は、彼女のことを愛してしまったから。
 彼女が……舞が、僕のことを拒絶してもかまわない。僕は、そうなっても仕方のないことをしてしまったから。それでも僕は、彼女との約束を守ってみせる。
 待っていてね、舞。二年が経って、この星ですべきことが全て終わったなら、必ず君を迎えに行くから。
「大好きだよ、舞」
 彼女と再び笑い合える日を夢見ながら、僕は幾度目の孤独な眠りについた。
 


 午後六時、周囲を山々に囲まれたこの天文台に、私は再び訪れていた。
 八月になり、季節はもうすっかり夏だというのに、この場所の風は涼しく感じられる。
 私は誰かを探して、四方八方を見回した。けれど、いくら探しても、誰かの姿を見つけることはできない。
 諦めた私は、天文台の施設の中に入ろうとした。すると、歩いている私の肩を誰かが叩いた。
 振り向くと、藍色の瞳の王子様が、私に向かって笑いかけた。
「やあ、今日も夜空はきれいだね」
「ルイ……!」 
 私たちはお互いを抱き締め、ずっと得られずにいた温もりを分かち合った。
「ずっと、ずっと会いたかった……!」
 私の瞳から涙が零れ落ちる。
「僕も、ずっと君に会いたかった。もう、絶対に君を離さない」 
「ルイ……!」
「舞、君のことが大好きだ、これからもずっと、僕と一緒に生きてほしい」
「ルイ、私も大好きだよ……! これからはずっと、あなたのそばにいたいよ……!」
 彼は再び、私のことを強く抱き締めた。
「約束するよ。たとえこの体が消えてなくなっても、僕の心は、君と共にあり続けると」
「ルイ……死ぬのはよくないよ?」
 そう答えると、彼は目を丸くして、それから慌てて返事をした。
「いや、あの、そういう意味じゃないから……! それくらい君のことが好きだって意味だから……!」
 彼が慌てているのが面白くて、思わずくすっと笑ってしまった。
「ふふ、分かってるよ。私も、あなたと同じ気持ちだもの」
「舞……」
「それじゃあ行こっか。しばらくしたら観望会だよ。それまでに、気持ちを落ち着けておかないと」
「ああ、そうだね」
 それから私たちは、星空観望会が始まる午後八時まで、しばらく天文台の宿泊施設で休んだ。
 午後八時が近づいてきたので、私たちは宿泊施設を出て、星空観望会が行われる場所に向かった。周囲はすっかり暗くなっており、フィルムを通した懐中電灯の弱い赤色の光だけが、屋外の集合場所の目印となった。
 そして観望会が始まり、以前のように、天体についての説明がされた後、順番に望遠鏡で星を見る時間がやって来た。
「そういえば、僕たちが初めて出会った時は、アルビレオって星を見たんだったよね」
 ルイがふと話し始めた。
「そうね。確か、二つの星が一つになって見える二重星……だったよね?」
「そうだと思う。でも、その二つの星って、けっこう離れているらしいよね」
「ふふ、今までの私たちみたいだね」
「そうかな? でも、ここにいる僕たちから見れば、二つの星は一つに見える。だから、大きな視点で見れば、今までの僕たちもずっと一つだった……って考えられるんじゃないかな?」
「なるほど……確かに、そうとも考えられるかも。離れていても心は一つ……とってもロマンチックだね」
「そうだね、やっぱり星って、とてもロマンチックだよ」
 それから私たちは、望遠鏡で拡大した天体を、天文台のスタッフさんに見せてもらった後、自由気ままに星を眺めていた。
「今日もきれいな星空だね」
 ルイが言った。
「ふふ、ほんとだね」
「これからもずっと、僕と一緒に星を見てほしいな」
「ふふ、それってプロポーズ? ちょっと早すぎると思うな」
 私は恥ずかしくなってしまい、、さらっと言われた愛の言葉に対して、照れ隠しに笑いながら答えた。
「そうかな? 時間なんて、あっという間に過ぎちゃうからさ。言いたいことは、今言っておかないと」
 その言葉に私はハッとした。私たちが、かつて離れ離れになってしまったように、いつまた、別れの時が訪れるかはわからない。だから私たちは、今の時間を、精一杯大切にしなければならないのだ。 
 恥じらう気持ちを、今は忘れよう。
 私は凛とした想いを込めて、彼に言葉を返した。
「そうだよね。後で後悔してもどうしようもないって、私の弟も言ってたし」
「そうなんだ。じゃあなおさら、言いたいことは、今言っておかないとね」
「言いたいこと?」
 私が不思議に思っていると、彼は私の右手を、ほのかに暖かいその両の手で包み込んだ。
「舞、君のことを、僕は心から愛してる。君のおかげで、僕は救われたんだ。本当に感謝してる」
「ルイ……」
 私は、私の右手を包んでいる彼の手の上に、私の左手を重ねた。
「私の方こそ、本当にありがとう。ルイと出会えたおかげで、私は、心から笑顔になれたんだよ。だから私も、この手はもう絶対離さない」
「舞……それは困るよ、そしたら僕たち、ここから死ぬまで離れられないじゃないか」
「そういう意味じゃないってば! もう!」
「ふふ、さっきのお返しだよ~」
 そうして、私たちは、お互いに愛を確かめ合いながら、夜が明けるまで星を眺め続けた。
 きっとこれからも、私たちはこうやって、一緒に星を見続けるのだろう。
 この幸せが、ずっとずっと続きますように………………。
 明けてゆく空を見つめながら、その先にある星たちに想いを馳せ、祈りを込めてそう願った。

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