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終焉の業火
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私の愛する国、スウァルテルムが、今地獄のように紅く、恐ろしい炎に覆われている。周囲に響き渡るのは、兵士たちの怒声と、突然の事態に見舞われ、驚き嘆く人々の声。
私は、現実から逃避したい気持ちに抗いながら、スウァルテルムを守るために即座の判断と指示を行っていた。
「ここまで火が燃え広がってしまっては、もう兵士たちだけでは対応できないわ! 少しでも多くの住民に応援を頼んで!! それと同時に、白の兵士たちが侵入してくるであろう経路を予測して、迎撃の準備を!!!」
臣下たちは、私の命を受け、すぐさま対処へと移ってゆく。その様子を眺めながら、私は自責の念に駆られ続けていた。
ああ、どうしてこんなことに……。私が甘かったんだわ…………。この国スウァルテルムは、分厚いに森に守られている。だから、そう簡単に攻められることはできない……そう、思っていたのに……。
どれだけ後悔しても、私の大切な国を、森を焼き尽くそうとする火の勢いは一向に衰える様子はない。その上に、混乱に乗じて白の国、サントニアの兵士たちが徐々に国の内側へと攻め入ってきている。今は凌げても、この森の炎が途絶える頃には、彼らの圧倒的な兵力によって蹂躙されてしまうだろう。
「クシェリ様、このままではいずれこの城の内部にまで敵兵どもはやって来ます!! あなただけでも、この城から脱出を!!!」
三大臣のうち、この国を守護する役目を持っている守護大臣、クラッススが私にそう進言する。
「……いいえ、クラッスス、私にそれはできないわ……。私の役目は、この国を守り、そして、この国と命運を共にすることよ。自分だけのうのうと生き残るなんていう選択、王として……いえ、黒の民の一員として、選ぶわけにはいかなかいわ」
「……この国は、あなたあってこそのものです。先代の王様を、あなたのお父上を失い、ただ途方にくれるばかりだった我々を束ね、導いてくださったのは、あなたなのです……」
「クラッスス……」
「……無礼は承知の上です。そのような選択をなさるのは、あなたにとって死よりもつらいことだということも、充分に理解しているつもりでございます。……ですが、どうか、どうか、あなた様だけには、生き延びていて欲しいのです。……あなたは、我々の希望です。この国の希望です。あなたさえ生きていれば、この国は、我々黒の民の誇りは、永遠にあり続けることができるのです。……だから、どうか、お願いいたします……」
いつも勇敢で、恐れを知らないかのように振る舞い、この国を守るために戦ってきた守護大臣、クラッススが、今はとても悲しそうな顔で、ほんの少し目に涙を浮かべてさえいた。
「……ごめんね、クラッスス。これが、私の最後の我が儘だから……。お願い、最後まであなた達と一緒に戦わせて」
「クシェリ様…………」
「私、本当はね、王なんて立場ではいたくなかった……。本当は、みんなとおんなじように、この国の民として、同じ立場で、同じ目線で、一緒に生きていきたいって、ずっとそう思ってたの……。だから、せめて最後は、みんなと一緒に、ありふれた黒の民として、戦わせて欲しい」
そう伝えると、クラッススはついに両方の目から大粒の涙を流し、泣き叫びそうな声を抑えるように、口を固く結びながら、首を縦に振った。
……きっと、私もこの国も、もう助からないだろう……。いつか、このような事態に遭遇することは覚悟していたけれども、事前情報もなしに、これほどわ大軍が迫ってくるとは、思ってもみなかった。一体、どのような変革が、サントニアにて起こったというのだろうか……。
暗く傾いてゆく思考の中、はっとひとつの考えが思い浮かぶ。
――この国で生まれ育った私は、この戦いの中で命を落とそうとも構わない。……だけど、レイオスは? 彼は、この国にやってきてからまだ十数日しか経っていない。そんな彼を、この戦いの中で死なせるわけにはいかない!
戦いに備えるための雑務を終え、私の傍らまで戻ってきたリュメに、レイオスの所在を訪ねる。
「リュメ! 今レイオスはどこにいるの!? 彼を、彼だけでも逃がさないと……!」
「クシェリ様……。私も城内を探索しましたが、レイオスの姿は見つけられませんでした……。ただ、城の周りを警備している兵に聞いたところ、全身に鎧を纏い、槍を持った一人の兵士が、城を出て森の方へと向かったそうです……」
「そんな!? まさかそれって……!!」
凍えるような寒さが全身を駆け巡る。その鎧を纏った兵士と言うのは、きっとレイオスのことだ……!
「リュメ! お願い! 今すぐレイオスを捜して!!」
本来なら、その兵士がレイオスであるという確証はどこにもない。だけどこの瞬間、理解できない何かが、私の心に強くそう訴えかけていた。
――お願い、レイオス……どうか無事でいて……!!
私は、現実から逃避したい気持ちに抗いながら、スウァルテルムを守るために即座の判断と指示を行っていた。
「ここまで火が燃え広がってしまっては、もう兵士たちだけでは対応できないわ! 少しでも多くの住民に応援を頼んで!! それと同時に、白の兵士たちが侵入してくるであろう経路を予測して、迎撃の準備を!!!」
臣下たちは、私の命を受け、すぐさま対処へと移ってゆく。その様子を眺めながら、私は自責の念に駆られ続けていた。
ああ、どうしてこんなことに……。私が甘かったんだわ…………。この国スウァルテルムは、分厚いに森に守られている。だから、そう簡単に攻められることはできない……そう、思っていたのに……。
どれだけ後悔しても、私の大切な国を、森を焼き尽くそうとする火の勢いは一向に衰える様子はない。その上に、混乱に乗じて白の国、サントニアの兵士たちが徐々に国の内側へと攻め入ってきている。今は凌げても、この森の炎が途絶える頃には、彼らの圧倒的な兵力によって蹂躙されてしまうだろう。
「クシェリ様、このままではいずれこの城の内部にまで敵兵どもはやって来ます!! あなただけでも、この城から脱出を!!!」
三大臣のうち、この国を守護する役目を持っている守護大臣、クラッススが私にそう進言する。
「……いいえ、クラッスス、私にそれはできないわ……。私の役目は、この国を守り、そして、この国と命運を共にすることよ。自分だけのうのうと生き残るなんていう選択、王として……いえ、黒の民の一員として、選ぶわけにはいかなかいわ」
「……この国は、あなたあってこそのものです。先代の王様を、あなたのお父上を失い、ただ途方にくれるばかりだった我々を束ね、導いてくださったのは、あなたなのです……」
「クラッスス……」
「……無礼は承知の上です。そのような選択をなさるのは、あなたにとって死よりもつらいことだということも、充分に理解しているつもりでございます。……ですが、どうか、どうか、あなた様だけには、生き延びていて欲しいのです。……あなたは、我々の希望です。この国の希望です。あなたさえ生きていれば、この国は、我々黒の民の誇りは、永遠にあり続けることができるのです。……だから、どうか、お願いいたします……」
いつも勇敢で、恐れを知らないかのように振る舞い、この国を守るために戦ってきた守護大臣、クラッススが、今はとても悲しそうな顔で、ほんの少し目に涙を浮かべてさえいた。
「……ごめんね、クラッスス。これが、私の最後の我が儘だから……。お願い、最後まであなた達と一緒に戦わせて」
「クシェリ様…………」
「私、本当はね、王なんて立場ではいたくなかった……。本当は、みんなとおんなじように、この国の民として、同じ立場で、同じ目線で、一緒に生きていきたいって、ずっとそう思ってたの……。だから、せめて最後は、みんなと一緒に、ありふれた黒の民として、戦わせて欲しい」
そう伝えると、クラッススはついに両方の目から大粒の涙を流し、泣き叫びそうな声を抑えるように、口を固く結びながら、首を縦に振った。
……きっと、私もこの国も、もう助からないだろう……。いつか、このような事態に遭遇することは覚悟していたけれども、事前情報もなしに、これほどわ大軍が迫ってくるとは、思ってもみなかった。一体、どのような変革が、サントニアにて起こったというのだろうか……。
暗く傾いてゆく思考の中、はっとひとつの考えが思い浮かぶ。
――この国で生まれ育った私は、この戦いの中で命を落とそうとも構わない。……だけど、レイオスは? 彼は、この国にやってきてからまだ十数日しか経っていない。そんな彼を、この戦いの中で死なせるわけにはいかない!
戦いに備えるための雑務を終え、私の傍らまで戻ってきたリュメに、レイオスの所在を訪ねる。
「リュメ! 今レイオスはどこにいるの!? 彼を、彼だけでも逃がさないと……!」
「クシェリ様……。私も城内を探索しましたが、レイオスの姿は見つけられませんでした……。ただ、城の周りを警備している兵に聞いたところ、全身に鎧を纏い、槍を持った一人の兵士が、城を出て森の方へと向かったそうです……」
「そんな!? まさかそれって……!!」
凍えるような寒さが全身を駆け巡る。その鎧を纏った兵士と言うのは、きっとレイオスのことだ……!
「リュメ! お願い! 今すぐレイオスを捜して!!」
本来なら、その兵士がレイオスであるという確証はどこにもない。だけどこの瞬間、理解できない何かが、私の心に強くそう訴えかけていた。
――お願い、レイオス……どうか無事でいて……!!
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