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08-3. 笑顔で食事を共にできる相手 3
その笑顔を見た瞬間、ユキナの胸がドキッと高鳴った。
初めて見た、オークの満面の笑みだった。
彼は概(おおむ)ね無表情で、態度や口調に礼節と優しい気遣いが込められてはいるが、表情筋はほとんど動かず、うっすら微笑む程度だった。それが今、初めてユキナに向かって優しく目を細め、にっこりと笑ったのだ。
意外も意外。
想定以上に予想外。
いつも怒っているのかと思うほどの迫力ある強面オークは、惹きこまれるほど優しく包容力のある笑顔を持っていた。
(あ……何だこれ……。これはあれだ、ギャップ萌えって、やつじゃないか⁈ そうだ、それだ! 異性同性関係なく、すんげぇ強面からあんな優しい笑顔なんか向けられたら、ドキッとするもんだよな?)
なぜか言い訳じみたことを考えてしまうのは、同性相手に胸をときめかせている自分に狼狽(ろうばい)しているからだ。
ユキナはドキドキしているのを覚られたくなくて、慌ててバランス栄養食の包装をはがし、食事に集中しようとした。
チラ、とオークを見ると、彼も同じように食べ始めたところだ。
ユキナは「どうですかどうですか美味しいですか不味いですかオークさんの味覚に合いますか触感はどうですかまた食べたいと思いますかどの味が一番好きですか実は他の味もあるんですよ!」と早口で尋ねたいのを、ぐっと我慢しながら、しっとりとしたクッキーのような生地を噛んで味わう。
一方、オークはうんうんと頷きながら、「おお……」「うまい」「これは……なんと……食べたことがないぞ」と、しきりに独り言を呟いていた。
やがて三種類の味をすべて食べ終わったオークは、ユキナから「あの、あの、どの味が一番好きでしたか?」と尋ねられ、こう答えた。
「どれも大変美味しかった。ずいぶんと工夫して作られているようだな。これはユキナが作ったのか?」
「あ、いえ、これは勤めていた会社の製品で、俺は作る方ではなく出来上がった製品を売る仕事をしていました」
「ほほう……売る、と言うと、店を持っていた、ということか?」
「あ、いえ……えっと……お店や卸などに置いてもらえないか交渉する仕事で……」
「旅商人か?」
「ちょっと違……まあ……えっと、そうですね、あちこち行くので、そんな感じですかね、転勤も多かったし、旅商人です、ええ」
説明が面倒になってきたユキナは、もうそれでいくことにした。
「とにかくそれは弊社……いやその、俺も自慢に思うぐらいの食品なんですが、この世界の人の味覚に合うか心配で。忌憚(きたん)のないご意見を聞かせいただけないでしょうか」
ユキナには思うところがあった。
しばらくはオークの厚意に甘えてこの小屋で生活させてもらうことになるが、いつまでもそのままというわけにはいかない。そのうち自分で何らかの生計を立てて、出て行かなくてはならないだろう。
そのためにコピースキルを使って商売することを考えているが、ここは右も左も分からない異世界。どのような商品に需要があるのか事前に知っておきたかった。
今ユキナには、この親切なオーク以外に頼る者はいない。彼から情報を仕入れるしかないのだ。
その、明らかに必死なユキナの熱意が伝わったのか、オークは静かな口調で答えてくれた。
「先程も言ったが、これは大変美味しい食品だ。安心してくれ、俺の味覚は人間とほぼ同じだ」
そう前置きを言ったのち、オークはおもむろに食レポを始めた。
初めて見た、オークの満面の笑みだった。
彼は概(おおむ)ね無表情で、態度や口調に礼節と優しい気遣いが込められてはいるが、表情筋はほとんど動かず、うっすら微笑む程度だった。それが今、初めてユキナに向かって優しく目を細め、にっこりと笑ったのだ。
意外も意外。
想定以上に予想外。
いつも怒っているのかと思うほどの迫力ある強面オークは、惹きこまれるほど優しく包容力のある笑顔を持っていた。
(あ……何だこれ……。これはあれだ、ギャップ萌えって、やつじゃないか⁈ そうだ、それだ! 異性同性関係なく、すんげぇ強面からあんな優しい笑顔なんか向けられたら、ドキッとするもんだよな?)
なぜか言い訳じみたことを考えてしまうのは、同性相手に胸をときめかせている自分に狼狽(ろうばい)しているからだ。
ユキナはドキドキしているのを覚られたくなくて、慌ててバランス栄養食の包装をはがし、食事に集中しようとした。
チラ、とオークを見ると、彼も同じように食べ始めたところだ。
ユキナは「どうですかどうですか美味しいですか不味いですかオークさんの味覚に合いますか触感はどうですかまた食べたいと思いますかどの味が一番好きですか実は他の味もあるんですよ!」と早口で尋ねたいのを、ぐっと我慢しながら、しっとりとしたクッキーのような生地を噛んで味わう。
一方、オークはうんうんと頷きながら、「おお……」「うまい」「これは……なんと……食べたことがないぞ」と、しきりに独り言を呟いていた。
やがて三種類の味をすべて食べ終わったオークは、ユキナから「あの、あの、どの味が一番好きでしたか?」と尋ねられ、こう答えた。
「どれも大変美味しかった。ずいぶんと工夫して作られているようだな。これはユキナが作ったのか?」
「あ、いえ、これは勤めていた会社の製品で、俺は作る方ではなく出来上がった製品を売る仕事をしていました」
「ほほう……売る、と言うと、店を持っていた、ということか?」
「あ、いえ……えっと……お店や卸などに置いてもらえないか交渉する仕事で……」
「旅商人か?」
「ちょっと違……まあ……えっと、そうですね、あちこち行くので、そんな感じですかね、転勤も多かったし、旅商人です、ええ」
説明が面倒になってきたユキナは、もうそれでいくことにした。
「とにかくそれは弊社……いやその、俺も自慢に思うぐらいの食品なんですが、この世界の人の味覚に合うか心配で。忌憚(きたん)のないご意見を聞かせいただけないでしょうか」
ユキナには思うところがあった。
しばらくはオークの厚意に甘えてこの小屋で生活させてもらうことになるが、いつまでもそのままというわけにはいかない。そのうち自分で何らかの生計を立てて、出て行かなくてはならないだろう。
そのためにコピースキルを使って商売することを考えているが、ここは右も左も分からない異世界。どのような商品に需要があるのか事前に知っておきたかった。
今ユキナには、この親切なオーク以外に頼る者はいない。彼から情報を仕入れるしかないのだ。
その、明らかに必死なユキナの熱意が伝わったのか、オークは静かな口調で答えてくれた。
「先程も言ったが、これは大変美味しい食品だ。安心してくれ、俺の味覚は人間とほぼ同じだ」
そう前置きを言ったのち、オークはおもむろに食レポを始めた。
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