滅びの序曲 希望の歌

たいよう一花

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1章 新しい住まい――魔界、王宮

9. 用具置き場で迫られて

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静かに戸が開くと、王宮内で雑用をしている女中が入ってきた。

魔王の腕の中で、窒息しそうなほど強く抱きしめられているレイは、息を殺して成り行きを見守るしかない。心臓がバクバクし、嫌な汗が額に浮かぶ。

幸い女中は扉付近の棚からすぐに目的の物を見つけ出し、それを手に退室した。
レイは詰めていた息を一気に吐き出し、緊張を解いた。

「はあ……。どうなることかと……。おい……魔王、もう放してくれ……苦しい」
 
レイは曲げた肘で魔王の胸を押し、拘束から逃れようとした。
体をぴったりくっつけていると、頭がぼおっとなり、理性のタガが外れ、こんな場所で求めてしまいそうになる。
しかし魔王はレイの体を離すまいと一層強く拘束し、背中、腰、尻を撫でまわしはじめた。

「や、やめろ、魔王……!」

「どうにも……堪らぬな……。途中で邪魔が入ると、余計に欲しくなる……」

「や、やめろって、言ってる……また誰か入ってきたら……!!」

「いっそこのままここで、いつ誰が来るか分からぬスリルを楽しみながら、交わるのも一興と思わぬか……」

魔王の右手がレイの旅装束のマントをよけ、背中側の上衣をめくり、肌に直接触れる。指先でなぞるように背骨のくぼみを愛撫され、ぞわりと這うような快感がレイを襲った。

「ひっ! 魔王……っ!! 冗談、いうなっ……頼むからっ、やめて、くれ……!」

「言っておくが、おまえが私を煽ったのだぞ。……あんな可愛らしい顔で見つめられたら、理性も飛ぶ……。……立ったまま、というのは初めてだが、試してみぬか?」

上気したレイの肌から、サッと血の気が失せる。下衣の中に滑り込んできた魔王の指先が、双丘の谷間に這わされ、レイは恐慌をきたして抵抗を始めた。

「嫌だ! 試さない! 放せ、魔王っ……!!」

――その時。
 
小部屋の戸がノックされ、柔らかい女性の声が、外から聞こえてきた。

「そこにいらっしゃるのでしょう? 陛下」

ビクッとレイの体が小さく跳ね上がる。
ちっ、と魔王は、王らしからぬ態度で舌打ちをすると、レイに囁いた。

「レイ、心配ない。あれは<南の要守かなめもり>だ。今朝の会合で、おまえのことは打ち明けてある。<要守り>は私たちと同じように、精霊たちに守護される身ゆえ、彼らから私たちの居場所を聞き出したのだろう。邪魔をするとは……まったく、無粋な……」

やや間をおいて、外にいる女性の声が、再び響いた。

「出ていらしてくださいな。今なら誰もおりません。……その方を、あまりいじめてはいけませんわ」

「そうです、お可哀想に、いじめてはいけません。紹介してくださるお約束です。さあ早く」

「早く」
「出ていらして」

なぜか声は二重になって聞こえ、レイは首をかしげた。
魔王はレイを離すと、「仕方ない。行くか」と小部屋の戸を開けた。

小部屋の外で二人を待ち受けていたのは、そっくりな風貌をした双子の女性だった。
小柄でふくよかな体形、つやつやした血色のいい頬にはえくぼが浮かび、二人とも瓜二つな表情でにっこりと微笑んでいる。茶色い真っすぐな長髪を、両耳の上付近の一掴み分だけ布で巻いて前に垂らしている。肌の艶からして若いような気もするが、老成した雰囲気を漂わせているため、一見しただけでは年齢が分からない。

魔王に続いて小部屋から恥ずかしそうに出てきたレイを見ると、二人は鈴を振るような声で同時に話し出した。

「まあ、なんて可愛らしい方。噂通りだわ」
「本当に。陛下はひどいこと。こんな可愛い方をいじめるなんて」
 
魔王は憮然と言い返した。

「言いがかりはよせ。いじめてなどいない。可愛がっていただけだ」

双子の<要守かなめもり>は、シャンと背筋を伸ばすと、二人同時に声を発した。

「紹介してくださいな、陛下」

「うむ。レイ、こちらは<南の要守り>の」

魔王が言い終わらぬうちに、一人が「リュミナと申します、お初にお目にかかります」と名乗り、続いてもう一人が「リュンヌと申します。お目にかかれて嬉しゅうございます」と名乗った。

「リュミナ、リュンヌ。もう知っているだろうが、これが、私のレイだ」

魔王はそれだけ言うと、レイの肩を軽く抱き寄せた。
途端に二人が、コロコロと笑い出す。

「あら、陛下、そんな守るように抱き寄せなくても。私たち、奪ったりはいたしませんわ」

レイはまだ火照っている体をどうすることもできず、マントで前を隠すようにして、はにかんだ笑顔を向けた。

「初めまして、リュミナ様、リュンヌ様。困っているところにお声をかけていただき、助かりました」

2人は「うん、うん」とうなずきながら、

「私たちはレイ様の味方ですからね。陛下のおいた・・・が過ぎたら、いつでも頼って下さいまし」

と声を揃えて言葉を紡いだ。そうして踵を返すと、振り返りながら歩き出す。

「さあさ、行きましょう。他の<要守り>の方々がお待ちです」
「急ぎましょう、あまりに陛下のお帰りが遅いので、私たち、迎えに参りましたのよ」

魔王はため息をつくと、レイを連れて二人の後を追った。
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