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第十二章 ヴァンナの思惑(ルーカス/ミランダルート)
121.脱出計画
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「えぇっとぉ……うん。そうそう、奴隷の話、奴隷の話」
ここは妾専用館にほど近い、遊歩道沿いの『あずまや』。
とは言っても、そこは大理石で作られた柱と屋根だけのテラスで、無粋な壁などはどこにも無く、とても開放的な作りとなっていた。
そんな『あずまや』に少年と少女が二人きり。
話題が「恋の話」になっただけで、急に無口になってしまう程度の初心な二人だ。
ただ、そんな甘酸っぱい空気を振り払うため、ルーカスは急に話題を元へと戻したのだ。
「ところで、ミランダは今年何歳になったの?」
「えぇっ! レディに年齢を聞くの? しかも奴隷の話と全然関係無いじゃない!」
ルーカスからの突然の質問に、目を丸くして驚くミランダ。
「いっ! いや、そうじゃなくって、本当に大切な事なんだよ」
「本当にぃ?」
「うん、本当に本当! 本当に本当に、本当!」
ルーカスの方も、まさかここまで驚かれるとは想定外。何とか信じてもらえる様、声のトーンを上げてはみたけど、なんだか余計に胡散臭い。
「それじゃあ、しょうがないなぁ。……私、今年で十三歳になったんだよっ」
なぜだか、ミランダは少しばかり恥ずかしそう。
でも、まだミランダは子供なんだろうなぁと、なんとなく分かっていたルーカスにしてみれば、今さら年齢を聞いた所で、どれ程の問題があるのだろう? と、ついつい思ってしまう。
「そうかぁ。それじゃあ大丈夫だね」
「えぇ、何が大丈夫なの?」
なぜだか安心した様子のルーカス少年。その様子を見たミランダは、早く説明を聞きたくて、大きく身を乗り出してくる。
「まぁまぁ。……それじゃあ、お姉ちゃんは何歳になったの?」
「えぇぇ、お姉ちゃんも関係あるの? 何っ? お姉ちゃんの方が良いの? そう言う事? って言うか、どう言う事?」
またもや、愛らしい瞳をこれでもか! と大きく見開いて驚く素振りを見せるミランダ。
ただ、これだと話しが全く先へ進まない。毎回驚くこの流れは、そろそろ止めてほしいなぁ……とは思いつつも、結局はミランダの驚く顔が可愛くて、そのままぼーっと見とれてしまうルーカス少年。
「えへへ。……いやいやいや、そうじゃ無くって、本当にそんなんじゃなくって、もう、本当に大事な話なんだからぁ」
「うふふっ、うそうそ。お姉ちゃんは今年で十五歳。大人になったばっかりなの」
ミランダの方も、なんとなくルーカスのそんな様子が分かっているのだろう。ちょっと面白がって意地悪してみたり。
「あぁぁ、そっかぁ。それはマズいなぁ」
「えぇ? 何がマズいの?」
ミランダは人差し指を頬にあてると、少し小首をかしげて不思議顔。
「うん、多分ね、ミランダ達は、マロネイアの『性奴隷』にする為に連れて来られたんだと思うんだよ」
「へぇぇ……そう……」
突然のルーカスの言葉に、眉根を寄せて怪訝な表情のミランダ。彼女はそのままの表情で、鋭い視線をルーカスへと向ける。
「えっ! 何っ! 僕、何かいけない事言った?」
ミランダの鋭い視線に耐えきれず、思わず自ら視線を逸らすルーカス少年。それでも彼女の鋭い視線が、グサグサと自分へ突き刺さって来るのが良く分かる。
これは完全に緊急事態だ。
ミランダは、そんな押し黙ってしまったルーカスの耳元へ、そっと唇を寄せると、小さな声で囁きかける。
「……ねぇ、ルーカスゥ……。あのね……『性奴隷』って……何?」
「えっ?」
結局、彼女は『性奴隷』と言う単語を知らなかっただけらしい。ただ、そのおかげで、ド直球の質問が、セクシーな彼女の吐息とともに彼へと舞い込む結果に。
「はうはう! えぇぇっとぉ……うぅぅん……」
「ねぇ、何?」
ミランダの瞳には一点の曇りも見受けられない。天真爛漫そのものだ。
いっそ清々しいその表情を見つめていると、逆に事細かに説明してみたい! と言う欲求も湧かないでは無いが……ここはぐっと我慢のルーカス少年。
「いやっ、何て言うか、そのぉ……、うん、そうそう。あの日にさ、ミランダの知り合いのヴァンナさんが、マロネイアのヤツから虐められてただろ?」
「あぁ、うん、そうだったよねぇ」
「それだよっ! 『性奴隷』になると、いつも、ああやってマロネイアに虐められちゃうんだ。しかも、マロネイアが飽きちゃうと、エレトリアの街に売られちゃって、誰だかわからないヤツに、また同じように虐められちゃうんだよ」
ルーカスは腕を組み、頷きながらも、『性奴隷』になった娘の末路について、真剣に語り聞かした。当然、そんな話を聞いたミランダは驚愕の表情だ。
「えぇぇ! そんなのヤダ!」
「そうだろ! 僕だって嫌だよ!」
うんうん、作者も嫌だ。(……あぁ、失礼)
「ただ、この『性奴隷』なんだけど、マロネイアの帰依するアレクシア神の教えで、成人未満の淫行を禁じているんだよ」
「……」
「ん? どしたの?」
またもや、眉根を寄せた表情で固まっているミランダ。でも、この表情は前にも見た事がある。
「もぅ! ルーカスったら、言葉が難しくて、わかんないっ!」
「ですよねぇ……」
急にへそを曲げたミランダ。 テーブルの上で腕を組んだかと思うと、両方の頬をぷーっと膨らませている。
「ルーカスって、意地悪っ!」
「あぁ、ごめんね。えぇぇっと、それは、子供の内は『性奴隷』にしちゃダメって言う決まりがあるって事かな。だから、ミランダは当分は大丈夫! ただ、お姉ちゃんは、いつ『性奴隷』にされてもおかしく無い年齢だって事さ」
何とかミランダの機嫌が直る様、ゆっくり、分かりやすい言葉で説明するルーカス。
「って事は、お姉ちゃん、マロネイアの『性奴隷』にされちゃうの?」
「だから、そうならない様に、『性奴隷』にされる前に、早くココを逃げ出さないといけないって訳さ」
自分の言いたかった事を、ようやく彼女に伝えられたルーカス少年。その真剣な眼差しには、彼の固い決意が表れている様だ。
「うん。そうだね。分かった! それで、私はどうすれば良いの?」
そんな真剣な彼の眼差しを、しっかりと受け止めるミランダ。
「まず、僕が逃げた後の住む場所とか、色々準備しておくから、その間にミランダは、館の人達にお姉ちゃんがいつ洗礼を受けに行くのかを、聞き出しておいて欲しいんだ。そして、お姉ちゃんの洗礼の日取りに合わせて、皆でここから脱出するって計画さ!」
「うん。分かった! 任せといて! 流石ルーカス、頭良いよねぇ!」
妾専用館にほど近い、遊歩道沿いの『あずまや』。
そこでは、これから実行に移されるであろう『大脱出』に向けた綿密な……もとい、結構ザルな計画が話し合われていた。
ここは妾専用館にほど近い、遊歩道沿いの『あずまや』。
とは言っても、そこは大理石で作られた柱と屋根だけのテラスで、無粋な壁などはどこにも無く、とても開放的な作りとなっていた。
そんな『あずまや』に少年と少女が二人きり。
話題が「恋の話」になっただけで、急に無口になってしまう程度の初心な二人だ。
ただ、そんな甘酸っぱい空気を振り払うため、ルーカスは急に話題を元へと戻したのだ。
「ところで、ミランダは今年何歳になったの?」
「えぇっ! レディに年齢を聞くの? しかも奴隷の話と全然関係無いじゃない!」
ルーカスからの突然の質問に、目を丸くして驚くミランダ。
「いっ! いや、そうじゃなくって、本当に大切な事なんだよ」
「本当にぃ?」
「うん、本当に本当! 本当に本当に、本当!」
ルーカスの方も、まさかここまで驚かれるとは想定外。何とか信じてもらえる様、声のトーンを上げてはみたけど、なんだか余計に胡散臭い。
「それじゃあ、しょうがないなぁ。……私、今年で十三歳になったんだよっ」
なぜだか、ミランダは少しばかり恥ずかしそう。
でも、まだミランダは子供なんだろうなぁと、なんとなく分かっていたルーカスにしてみれば、今さら年齢を聞いた所で、どれ程の問題があるのだろう? と、ついつい思ってしまう。
「そうかぁ。それじゃあ大丈夫だね」
「えぇ、何が大丈夫なの?」
なぜだか安心した様子のルーカス少年。その様子を見たミランダは、早く説明を聞きたくて、大きく身を乗り出してくる。
「まぁまぁ。……それじゃあ、お姉ちゃんは何歳になったの?」
「えぇぇ、お姉ちゃんも関係あるの? 何っ? お姉ちゃんの方が良いの? そう言う事? って言うか、どう言う事?」
またもや、愛らしい瞳をこれでもか! と大きく見開いて驚く素振りを見せるミランダ。
ただ、これだと話しが全く先へ進まない。毎回驚くこの流れは、そろそろ止めてほしいなぁ……とは思いつつも、結局はミランダの驚く顔が可愛くて、そのままぼーっと見とれてしまうルーカス少年。
「えへへ。……いやいやいや、そうじゃ無くって、本当にそんなんじゃなくって、もう、本当に大事な話なんだからぁ」
「うふふっ、うそうそ。お姉ちゃんは今年で十五歳。大人になったばっかりなの」
ミランダの方も、なんとなくルーカスのそんな様子が分かっているのだろう。ちょっと面白がって意地悪してみたり。
「あぁぁ、そっかぁ。それはマズいなぁ」
「えぇ? 何がマズいの?」
ミランダは人差し指を頬にあてると、少し小首をかしげて不思議顔。
「うん、多分ね、ミランダ達は、マロネイアの『性奴隷』にする為に連れて来られたんだと思うんだよ」
「へぇぇ……そう……」
突然のルーカスの言葉に、眉根を寄せて怪訝な表情のミランダ。彼女はそのままの表情で、鋭い視線をルーカスへと向ける。
「えっ! 何っ! 僕、何かいけない事言った?」
ミランダの鋭い視線に耐えきれず、思わず自ら視線を逸らすルーカス少年。それでも彼女の鋭い視線が、グサグサと自分へ突き刺さって来るのが良く分かる。
これは完全に緊急事態だ。
ミランダは、そんな押し黙ってしまったルーカスの耳元へ、そっと唇を寄せると、小さな声で囁きかける。
「……ねぇ、ルーカスゥ……。あのね……『性奴隷』って……何?」
「えっ?」
結局、彼女は『性奴隷』と言う単語を知らなかっただけらしい。ただ、そのおかげで、ド直球の質問が、セクシーな彼女の吐息とともに彼へと舞い込む結果に。
「はうはう! えぇぇっとぉ……うぅぅん……」
「ねぇ、何?」
ミランダの瞳には一点の曇りも見受けられない。天真爛漫そのものだ。
いっそ清々しいその表情を見つめていると、逆に事細かに説明してみたい! と言う欲求も湧かないでは無いが……ここはぐっと我慢のルーカス少年。
「いやっ、何て言うか、そのぉ……、うん、そうそう。あの日にさ、ミランダの知り合いのヴァンナさんが、マロネイアのヤツから虐められてただろ?」
「あぁ、うん、そうだったよねぇ」
「それだよっ! 『性奴隷』になると、いつも、ああやってマロネイアに虐められちゃうんだ。しかも、マロネイアが飽きちゃうと、エレトリアの街に売られちゃって、誰だかわからないヤツに、また同じように虐められちゃうんだよ」
ルーカスは腕を組み、頷きながらも、『性奴隷』になった娘の末路について、真剣に語り聞かした。当然、そんな話を聞いたミランダは驚愕の表情だ。
「えぇぇ! そんなのヤダ!」
「そうだろ! 僕だって嫌だよ!」
うんうん、作者も嫌だ。(……あぁ、失礼)
「ただ、この『性奴隷』なんだけど、マロネイアの帰依するアレクシア神の教えで、成人未満の淫行を禁じているんだよ」
「……」
「ん? どしたの?」
またもや、眉根を寄せた表情で固まっているミランダ。でも、この表情は前にも見た事がある。
「もぅ! ルーカスったら、言葉が難しくて、わかんないっ!」
「ですよねぇ……」
急にへそを曲げたミランダ。 テーブルの上で腕を組んだかと思うと、両方の頬をぷーっと膨らませている。
「ルーカスって、意地悪っ!」
「あぁ、ごめんね。えぇぇっと、それは、子供の内は『性奴隷』にしちゃダメって言う決まりがあるって事かな。だから、ミランダは当分は大丈夫! ただ、お姉ちゃんは、いつ『性奴隷』にされてもおかしく無い年齢だって事さ」
何とかミランダの機嫌が直る様、ゆっくり、分かりやすい言葉で説明するルーカス。
「って事は、お姉ちゃん、マロネイアの『性奴隷』にされちゃうの?」
「だから、そうならない様に、『性奴隷』にされる前に、早くココを逃げ出さないといけないって訳さ」
自分の言いたかった事を、ようやく彼女に伝えられたルーカス少年。その真剣な眼差しには、彼の固い決意が表れている様だ。
「うん。そうだね。分かった! それで、私はどうすれば良いの?」
そんな真剣な彼の眼差しを、しっかりと受け止めるミランダ。
「まず、僕が逃げた後の住む場所とか、色々準備しておくから、その間にミランダは、館の人達にお姉ちゃんがいつ洗礼を受けに行くのかを、聞き出しておいて欲しいんだ。そして、お姉ちゃんの洗礼の日取りに合わせて、皆でここから脱出するって計画さ!」
「うん。分かった! 任せといて! 流石ルーカス、頭良いよねぇ!」
妾専用館にほど近い、遊歩道沿いの『あずまや』。
そこでは、これから実行に移されるであろう『大脱出』に向けた綿密な……もとい、結構ザルな計画が話し合われていた。
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