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第二十一章 女子会(皇子ルート)
210.幸せの予感
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「美穂さーん。只今帰りましたぁ」
純和風造《づく》りの大きな玄関。
そして、そこから奥へと続く長い廊下は、都会のマンションであれば、優に1LDKが収まってしまいそうな程に広い。
田舎の家だと侮るなかれ。
その家は、古民家をリフォームして建てられたもので、総じて純和風を貫きながらも、時折西洋の文化が感じられる、小粋なデザインとなっている。
廊下の角々には、西洋アンティークの間接照明がさりげなく飾られ、和モダンを地で行くその配置は、この家の女主人のセンスの高さを物語っている。
彼女が声を掛けたにも関わらず、特に家主からの返事は無い。
恐らく声が届いていないだけなのだろう。
田舎の家では良くある事。
彼女はそのまま家の中へ入ろうと、自身の靴を脱ぎ始める。
何しろ彼女が幼少の頃から出入りしている勝手知ったる家である。
しかも、つい今しがた、この家の次世代当主となる若君に、生まれて初めて『女の喜び』を教えて頂いたばかり。
時がくれば、この家の諸事差配についても、自分が引き継がねばならない事は明白である。
そう考えれば、ほぼ『我が家』と言っても過言ではあるまい。
彼女はその無駄に高速な頭脳を駆使し、自身の将来像に想いを馳せる。
「へへッ、エヘヘヘ……」
いつしか彼女は頬を赤く染め、半開きの口からはだらしない笑い声が。
――ジュルリ
「あぁ、駄目ダメ。ヨダレが……」
自身のヨダレで、急に我に返る。
そんな幸せいっぱいの彼女が、ふと黒御影を使用した沓脱石の上に目をやると、フェラガモのパンプスが一足に、グリーンのスノーブーツが一足。それに、黒いゴム長靴が二足。
「はて? 他にも来客が?……」
グリーンのスノーブーツは見た事がある。これはリーティアの靴だ。
どうやら無事到着しているらしい。
ちゃんと言いつけた通りに事が運んでいれば良いのだが。
と言うのも、彼女は自分が皇子様の夜伽の相手をしている間、先にリーティアをこの家に戻る様、指示を出していたのである。
その目的は何か?
まず第一に、ミカエラの事である。
残念ながら、現代日本に獣人の娘は存在しない。……事になっている。
にも関わらず、外部の人間がこの家を訪れて、最初に出て来たのが獣人と言う事態に陥った場合、一体どれ程のパニックが引き起こされるのか、想像すら出来ない。
とにかくミカエラをアル姉の部屋に押し込めて、外部の人間と接触させない様にする事。
その為には、多少不本意ではあるけれど、一部魔法の使用についても許可を出していたのだ。
すぐに大きめの魔法を使いたがるリーティアに対し、日頃から『簡単に魔法を使ってはなりません!』と指示を出している自分ではある。しかし、この際、背に腹は代えられない。
魔法の許可を出した時の、驚きの中にも歓喜が入り混じる様なリーティアの表情は、今でも忘れられない。
今さらながらに考えてみても、『少々ミスったか?』と思わなくも無い。
第二は、目的の女性の事である。
これまでの膨大な調査内容を分析した結果、目的の女性を美穂様に会わせてしまった場合、『非常に多くの問題が発生する』との分析結果が出ているのだ。
その為、『出来れば家には上げず、出来るだけ美穂様に会わせない様、追い返してしまいなさい』と言い聞かせておいたのである。
ただ、第二の点については、時間的制約もあり、完全に面会を阻止する事は難しいと思ってはいた。
しかし、このフェラガモのパンプスを見る限り、どうやら目的の女性は、部屋の中へと上がり込んでしまっている様だ。
リーティアは一体何をしていたのか?
まぁ、そうは言っても、リーティアはまだ若い。
何気に人を『穏便に追い返す』と言う行動は、高度な技術を要する物だ。
そこまでの事をリーティアに託した自分にも落ち度はある。
『でも、あの時は、どうしても……どうしても、自分が自分で無くなるぐらいに、欲っしていたのだもの……どうしようも無かったんだものっ! ……はうはうはう!』
彼女の中の心の声が盛大に言い訳を始める。
まぁ、そうは言っても、結果的に満足な結果になったのだから、そこは甘んじて受け入れるべきだろう。
「ふぅ……」
仕方が無い。ここは自分の出番か。
異世界側との時差を考慮しても、既に時刻は夕飯時である。
ここは丁寧にご説明して、早々にお帰り頂くのが良策と言うものだろう。
そして、ゴム長靴が二足。
一足は、目的の女性が駅前の靴屋で急遽購入したものだろう。
靴好きの自分にしてみれば、その時の苦しい胸の内が良く分かる。
いやいや、ここで共感していてはいけない。
いずれは、一つの珠玉を取り合う仲なのである。
情けは禁物。
さて、残るはもう一足の長靴だが……。
アル姉のものにしては小ぎれいで小さい。アル姉は慶パパ様のお下がりで男物の長靴のはず。
「……はて?」
まぁ、それは置いておこう。
彼女は色鮮やかなプラダのシープスキンコートを小脇に抱え
スウェード地のハイヒールブーツをそっと沓脱石の上へと並べてみる。
ひと際美しいレッドソールが大のお気に入り。
「ふふっ」
その赤い色を見る度に、ちょっと『ほっこり』とした気分になる。
「ん~ん~る~~ららぁ~」
今、まさに女の幸せを実感しつつ、足取りも軽く居間の方へと急ぐ彼女。
終いには鼻歌まで出る始末。
ただ、その数分後、その襖の向こうでは、壮絶な死闘が繰り広げられる事になろうとは、露ほども思ってはいない彼女であった。
純和風造《づく》りの大きな玄関。
そして、そこから奥へと続く長い廊下は、都会のマンションであれば、優に1LDKが収まってしまいそうな程に広い。
田舎の家だと侮るなかれ。
その家は、古民家をリフォームして建てられたもので、総じて純和風を貫きながらも、時折西洋の文化が感じられる、小粋なデザインとなっている。
廊下の角々には、西洋アンティークの間接照明がさりげなく飾られ、和モダンを地で行くその配置は、この家の女主人のセンスの高さを物語っている。
彼女が声を掛けたにも関わらず、特に家主からの返事は無い。
恐らく声が届いていないだけなのだろう。
田舎の家では良くある事。
彼女はそのまま家の中へ入ろうと、自身の靴を脱ぎ始める。
何しろ彼女が幼少の頃から出入りしている勝手知ったる家である。
しかも、つい今しがた、この家の次世代当主となる若君に、生まれて初めて『女の喜び』を教えて頂いたばかり。
時がくれば、この家の諸事差配についても、自分が引き継がねばならない事は明白である。
そう考えれば、ほぼ『我が家』と言っても過言ではあるまい。
彼女はその無駄に高速な頭脳を駆使し、自身の将来像に想いを馳せる。
「へへッ、エヘヘヘ……」
いつしか彼女は頬を赤く染め、半開きの口からはだらしない笑い声が。
――ジュルリ
「あぁ、駄目ダメ。ヨダレが……」
自身のヨダレで、急に我に返る。
そんな幸せいっぱいの彼女が、ふと黒御影を使用した沓脱石の上に目をやると、フェラガモのパンプスが一足に、グリーンのスノーブーツが一足。それに、黒いゴム長靴が二足。
「はて? 他にも来客が?……」
グリーンのスノーブーツは見た事がある。これはリーティアの靴だ。
どうやら無事到着しているらしい。
ちゃんと言いつけた通りに事が運んでいれば良いのだが。
と言うのも、彼女は自分が皇子様の夜伽の相手をしている間、先にリーティアをこの家に戻る様、指示を出していたのである。
その目的は何か?
まず第一に、ミカエラの事である。
残念ながら、現代日本に獣人の娘は存在しない。……事になっている。
にも関わらず、外部の人間がこの家を訪れて、最初に出て来たのが獣人と言う事態に陥った場合、一体どれ程のパニックが引き起こされるのか、想像すら出来ない。
とにかくミカエラをアル姉の部屋に押し込めて、外部の人間と接触させない様にする事。
その為には、多少不本意ではあるけれど、一部魔法の使用についても許可を出していたのだ。
すぐに大きめの魔法を使いたがるリーティアに対し、日頃から『簡単に魔法を使ってはなりません!』と指示を出している自分ではある。しかし、この際、背に腹は代えられない。
魔法の許可を出した時の、驚きの中にも歓喜が入り混じる様なリーティアの表情は、今でも忘れられない。
今さらながらに考えてみても、『少々ミスったか?』と思わなくも無い。
第二は、目的の女性の事である。
これまでの膨大な調査内容を分析した結果、目的の女性を美穂様に会わせてしまった場合、『非常に多くの問題が発生する』との分析結果が出ているのだ。
その為、『出来れば家には上げず、出来るだけ美穂様に会わせない様、追い返してしまいなさい』と言い聞かせておいたのである。
ただ、第二の点については、時間的制約もあり、完全に面会を阻止する事は難しいと思ってはいた。
しかし、このフェラガモのパンプスを見る限り、どうやら目的の女性は、部屋の中へと上がり込んでしまっている様だ。
リーティアは一体何をしていたのか?
まぁ、そうは言っても、リーティアはまだ若い。
何気に人を『穏便に追い返す』と言う行動は、高度な技術を要する物だ。
そこまでの事をリーティアに託した自分にも落ち度はある。
『でも、あの時は、どうしても……どうしても、自分が自分で無くなるぐらいに、欲っしていたのだもの……どうしようも無かったんだものっ! ……はうはうはう!』
彼女の中の心の声が盛大に言い訳を始める。
まぁ、そうは言っても、結果的に満足な結果になったのだから、そこは甘んじて受け入れるべきだろう。
「ふぅ……」
仕方が無い。ここは自分の出番か。
異世界側との時差を考慮しても、既に時刻は夕飯時である。
ここは丁寧にご説明して、早々にお帰り頂くのが良策と言うものだろう。
そして、ゴム長靴が二足。
一足は、目的の女性が駅前の靴屋で急遽購入したものだろう。
靴好きの自分にしてみれば、その時の苦しい胸の内が良く分かる。
いやいや、ここで共感していてはいけない。
いずれは、一つの珠玉を取り合う仲なのである。
情けは禁物。
さて、残るはもう一足の長靴だが……。
アル姉のものにしては小ぎれいで小さい。アル姉は慶パパ様のお下がりで男物の長靴のはず。
「……はて?」
まぁ、それは置いておこう。
彼女は色鮮やかなプラダのシープスキンコートを小脇に抱え
スウェード地のハイヒールブーツをそっと沓脱石の上へと並べてみる。
ひと際美しいレッドソールが大のお気に入り。
「ふふっ」
その赤い色を見る度に、ちょっと『ほっこり』とした気分になる。
「ん~ん~る~~ららぁ~」
今、まさに女の幸せを実感しつつ、足取りも軽く居間の方へと急ぐ彼女。
終いには鼻歌まで出る始末。
ただ、その数分後、その襖の向こうでは、壮絶な死闘が繰り広げられる事になろうとは、露ほども思ってはいない彼女であった。
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