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ハポンの都編
第34話 建築士最大の武器再び
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結局一行が領主の居城に着いたのは、盗賊の故郷だという宿場町で一泊して翌日の昼もだいぶ過ぎた頃だった。出発が遅れたのは前日の就寝が遅かったからだ。温泉を掘り当てるのに時間を要したわけでは無い。当然そのあとの宴会の影響だ。ギューズとマーズは町の中心部に入る関所で番兵に自首してもらった。
領主の居城に到着するとユキヒラは、門番をしている衛兵になにやら交渉をしてくれていた。居城というからクニオは日本のお城の様な建物を想像していたが、予想は見事に外れた。本丸の様な高い建物は見当たらない。お城というよりは御所と言った趣だ。そういえばハポンに来てから高い建物は見た覚えがない。茅ぶき屋根のサダヒデの工房は構造上高さこそあったものの、造りとしては二階建てだった。キートも領主の居城付近は結構な賑わいで人も多かったが、建物はせいぜい二階建てと言った感じだった。
流石に今日の今日とはいかなかったが、領主との面会は翌日の午後という事になった。ユキヒラが言うにはハポン地方は魔物も少なく至極平和で、統治システムも安定していて領主はそれほど忙しくないらしい。
城から帰る道すがら、クニオはユキヒラに聞いて見た。
「ハポンにきてからあまり高い建物を見ないんですが、地震が多いんでしょうか?」
「流石建築士ですね。御明察です。ハポンは全体的に地震が多いんですが、特にキートのあたりは地盤の良くないところが多くて揺れが大きくなることが多いんです。昔は城にも物見やぐらがあったんですが、数年前に地震で倒壊してからは再建していません」
ユキヒラの説明にクニオは頷く。
領主に会うにあたってクニオには心配事があった。通常こういう場合、武器強化の目的を聞かれれば魔王討伐の為と答えるのが常套句だろう。人類共通の敵に立ち向かうわけだから、異国の武力を強化することになっても筋が通っている。しかし今我々のパーティーにはその魔王になる存在が所属しているぐらいだから、その理屈は通りそうもない。
刀の強化に見合っただけの貢物でもあればいいが、そんな持ち合わせは思いつかない。コウがストックしている異国の酒ぐらいだろうか。何かこの土地にプラスになる提案が必要かもしれないなと思っていた。
「うん。この手で行こう」
そういってクニオはコルビーに何事かをささやいている。
そのあとグレゴリーとコウ、ユキヒラに向かってはこう言った。
「明日まで私とコルは宿屋の部屋にこもるので、食事はみんなでしてください。あと町でちょっと買い出しをするので、ここからは別行動としましょう」
「ふむ。何か思いついたようですな。大方明日の領主との交渉に関わる事でしょう。拙僧も手ぶらはいかがなものかと思っていたところです」
流石グレゴリーは察しがいい。
「みやげなんて、私の酒コレクションから1本出しとけばいいんじゃないか?でも飲みたくない酒なんて持ってないから、あげなくていいならみんなで飲んだ方がいいな」
独り占めするのではなく、みんなで楽しく飲もうというコウの発言には感動だ。
とにかく、じゃあまた明日という事でキュリオシティーズとユキヒラ達は二手に分かれた。
翌日約束の時間に領主の居城に行くと、今度はあっさりと中に通された。もちろん帯刀は許されないので、入城するときに門にいた衛兵にクニオの刀は預けている。迷路のような石畳のアプローチを通って、奥にある建物の中に入る。長い廊下を歩いて通された謁見の場は、畳敷きの大広間だった。上座の一段高くなったところに領主は鎮座していた。
「よくぞ参られた。サダヒデからの紹介状は昨日読ませてもらった。しかし魔王も存在しない現状で、異国の者の武器を強化することを直ちに許可するわけにはいかないだろう。サダヒデとは旧知の仲という事らしいので、意地の悪いことは言いたくないのだが、拙の立場も分かって欲しい」
領主は偉ぶるでもなく、ざっくばらんに話してくれた。彼のいう事も至極当然だとクニオは思った。
「もちろんただではとは言いません。まずはこれを見て頂きたい」
そういうとクニオはコウの方を見た。コウは収納袋から小ぶりな風呂敷包みを取り出した。あきらかに収納袋よりも大きい包みではあったが、そこは魔道具の為せる業だった。
それをコルビーが受け取って床に置き、風呂敷の結び目を解く。風呂敷の中からは建築士最大の武器…そう、『模型』が姿を表した。その模型を手に取るとコルビーは領主の元へ持っていった。風呂敷で包んだ中身が武器だったらどうするんだとか、そもそも領主に近づくその子供は将来の魔王だとか、色々な事を考えてコウは吹き出すのを我慢している。
「数年前の地震で倒壊したという物見やぐらをこのように再建しては如何でしょうか?」
クニオの発言を聞きながら、領主は模型を手に取ってまじまじと眺めている。
「変わった形をしておるな、これは高さはいかほどか?」
領主がクニオに聞く。
「ここの盆地は平地が続いておりますので、30mもあれば端から端まで見渡せるかと…もちろんもっと高くすることも可能です」
クニオは答える。
「おぬしが知っているかは分からんが、この土地は地震が多い。前にあった物見やぐらは15m程度であったが、数年前の地震で倒壊してしまった。どのようなからくりで30mもの高さを実現させようと考えているのか?」
領主は言う。
「15m程の高さで倒壊されたという事は、元のやぐらは縦材と横材しか使ってなかったのではないでしょうか?模型をご覧になればお分かりの通り、そこを何段かに分けて斜め材を入れます。これだけでも本体にはかなりの強度が出ますが更に…」
そう言ってクニオはコウの方を見る。
「コウ、もうひとつのものも出してくれるかな」クニオに言われてコウはもう一つの包みを収納袋から取り出す。包みを開くと、中には白く細い棒で作られた多くの三角形が、半球状に組み合わされた物が入っていた。半球の一番上部には穴が開いている。クニオはそれをコウから受け取ると領主の元へ進み、一度先ほどの模型を引き取って床に置き半球を上から被せて合体させてみせた。
「この白い半球状の部分は結界です。これを更に支えにします。実際に私のいた地ではこれと同じ仕組みで高さ1000mの塔が立っていました」
その言葉を聞いて、部屋の中に居た従者たちがざわつく。
領主の居城に到着するとユキヒラは、門番をしている衛兵になにやら交渉をしてくれていた。居城というからクニオは日本のお城の様な建物を想像していたが、予想は見事に外れた。本丸の様な高い建物は見当たらない。お城というよりは御所と言った趣だ。そういえばハポンに来てから高い建物は見た覚えがない。茅ぶき屋根のサダヒデの工房は構造上高さこそあったものの、造りとしては二階建てだった。キートも領主の居城付近は結構な賑わいで人も多かったが、建物はせいぜい二階建てと言った感じだった。
流石に今日の今日とはいかなかったが、領主との面会は翌日の午後という事になった。ユキヒラが言うにはハポン地方は魔物も少なく至極平和で、統治システムも安定していて領主はそれほど忙しくないらしい。
城から帰る道すがら、クニオはユキヒラに聞いて見た。
「ハポンにきてからあまり高い建物を見ないんですが、地震が多いんでしょうか?」
「流石建築士ですね。御明察です。ハポンは全体的に地震が多いんですが、特にキートのあたりは地盤の良くないところが多くて揺れが大きくなることが多いんです。昔は城にも物見やぐらがあったんですが、数年前に地震で倒壊してからは再建していません」
ユキヒラの説明にクニオは頷く。
領主に会うにあたってクニオには心配事があった。通常こういう場合、武器強化の目的を聞かれれば魔王討伐の為と答えるのが常套句だろう。人類共通の敵に立ち向かうわけだから、異国の武力を強化することになっても筋が通っている。しかし今我々のパーティーにはその魔王になる存在が所属しているぐらいだから、その理屈は通りそうもない。
刀の強化に見合っただけの貢物でもあればいいが、そんな持ち合わせは思いつかない。コウがストックしている異国の酒ぐらいだろうか。何かこの土地にプラスになる提案が必要かもしれないなと思っていた。
「うん。この手で行こう」
そういってクニオはコルビーに何事かをささやいている。
そのあとグレゴリーとコウ、ユキヒラに向かってはこう言った。
「明日まで私とコルは宿屋の部屋にこもるので、食事はみんなでしてください。あと町でちょっと買い出しをするので、ここからは別行動としましょう」
「ふむ。何か思いついたようですな。大方明日の領主との交渉に関わる事でしょう。拙僧も手ぶらはいかがなものかと思っていたところです」
流石グレゴリーは察しがいい。
「みやげなんて、私の酒コレクションから1本出しとけばいいんじゃないか?でも飲みたくない酒なんて持ってないから、あげなくていいならみんなで飲んだ方がいいな」
独り占めするのではなく、みんなで楽しく飲もうというコウの発言には感動だ。
とにかく、じゃあまた明日という事でキュリオシティーズとユキヒラ達は二手に分かれた。
翌日約束の時間に領主の居城に行くと、今度はあっさりと中に通された。もちろん帯刀は許されないので、入城するときに門にいた衛兵にクニオの刀は預けている。迷路のような石畳のアプローチを通って、奥にある建物の中に入る。長い廊下を歩いて通された謁見の場は、畳敷きの大広間だった。上座の一段高くなったところに領主は鎮座していた。
「よくぞ参られた。サダヒデからの紹介状は昨日読ませてもらった。しかし魔王も存在しない現状で、異国の者の武器を強化することを直ちに許可するわけにはいかないだろう。サダヒデとは旧知の仲という事らしいので、意地の悪いことは言いたくないのだが、拙の立場も分かって欲しい」
領主は偉ぶるでもなく、ざっくばらんに話してくれた。彼のいう事も至極当然だとクニオは思った。
「もちろんただではとは言いません。まずはこれを見て頂きたい」
そういうとクニオはコウの方を見た。コウは収納袋から小ぶりな風呂敷包みを取り出した。あきらかに収納袋よりも大きい包みではあったが、そこは魔道具の為せる業だった。
それをコルビーが受け取って床に置き、風呂敷の結び目を解く。風呂敷の中からは建築士最大の武器…そう、『模型』が姿を表した。その模型を手に取るとコルビーは領主の元へ持っていった。風呂敷で包んだ中身が武器だったらどうするんだとか、そもそも領主に近づくその子供は将来の魔王だとか、色々な事を考えてコウは吹き出すのを我慢している。
「数年前の地震で倒壊したという物見やぐらをこのように再建しては如何でしょうか?」
クニオの発言を聞きながら、領主は模型を手に取ってまじまじと眺めている。
「変わった形をしておるな、これは高さはいかほどか?」
領主がクニオに聞く。
「ここの盆地は平地が続いておりますので、30mもあれば端から端まで見渡せるかと…もちろんもっと高くすることも可能です」
クニオは答える。
「おぬしが知っているかは分からんが、この土地は地震が多い。前にあった物見やぐらは15m程度であったが、数年前の地震で倒壊してしまった。どのようなからくりで30mもの高さを実現させようと考えているのか?」
領主は言う。
「15m程の高さで倒壊されたという事は、元のやぐらは縦材と横材しか使ってなかったのではないでしょうか?模型をご覧になればお分かりの通り、そこを何段かに分けて斜め材を入れます。これだけでも本体にはかなりの強度が出ますが更に…」
そう言ってクニオはコウの方を見る。
「コウ、もうひとつのものも出してくれるかな」クニオに言われてコウはもう一つの包みを収納袋から取り出す。包みを開くと、中には白く細い棒で作られた多くの三角形が、半球状に組み合わされた物が入っていた。半球の一番上部には穴が開いている。クニオはそれをコウから受け取ると領主の元へ進み、一度先ほどの模型を引き取って床に置き半球を上から被せて合体させてみせた。
「この白い半球状の部分は結界です。これを更に支えにします。実際に私のいた地ではこれと同じ仕組みで高さ1000mの塔が立っていました」
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