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侍女という名のロッテンマイヤーさん
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私がベーカー家に来て二ヶ月過ぎた。相変わらず部屋に引きこもりがちで日がな一日中こっそり拝借した書籍を読みふけている。
外出は時折アイザックが訪れ散歩に誘ってくれた時やアルフレッドに呼び出された時ぐらいか。結局病弱であろうがなかろうが私は出不精らしいことだけが判明された。
そんな私の生活が一変される出来事が起こるとも知らずに。
「今日から君専用の侍女になるサラだ」
「サラ・フィッツに御座います」
侍女? ベーカー家に出入りする者なら少なからず知っているアイリーン嬢は妾の子という事実。世話をする側もデリケートすぎるこの問題にどう対処すればいいか分からず私はベーカー家で取り扱い注意人物として危険視されている。だから私の侍女や世話係は皆日替わり制だ、ランチみたいだが。
サラと名乗ったのは二十代半ばくらいの背の高い女性だ。薄茶色の髪を頭の上で団子にし、前世ではメイド服と呼ばれていた紺色のワンピースを着込み、こちらが恐縮するほど背筋を伸ばしている。分厚い眼鏡の奥にはギラギラと私を見定めようとする威圧感があり、はっきり言って怖い。
「アイリーン・ベーカーにございます」
スカートの裾を柔らかく掴み一礼する。一瞬眼鏡のレンズが光った。
「.......まぁ挨拶は出来るようですね」
「アイリーンもそろそろ行儀見習いを教わるべきだと思ってね、急遽来て頂いた」
つまり、これから彼女が私に四六時中付きっきりで貴族とは何たるかを指導するわけか。アルフレッドめ余計なことを。
「それではお嬢様、本日よりよろしくお願い致します」
張りのある声だ。私は若干青ざめながらも逃げられないだろうなと覚悟を決めた。
「ナイフとフォークの置き方が違います。やり直し」
「そうではありません、肉料理を最初に全て切り分けるのはマナー違反ですよ」
「はし? なんですかそれ? 」
「デザートは味の薄いものから頂いてください.......甘いものが得意じゃない? 知りませんよそんなこと」
スパルタだ、鬼教官だ!!
前世ではテーブルマナーどころかろくに外食も出来なかった私にとって全てが初めて知ることばかりだ。サラはそんな私に手当り次第目に余った行為を指摘していく。そういえば前世でもクラリスにもほとんど怒られたことないんだったな私、ある意味新鮮な彼女の態度にまだ馴染めずも嫌な気はしなかった。
「本日は字の練習をしましょう」
サラはそう言って私に簡単な読み書きを教えていく。ここはゲームの世界で言語も慣れ親しんだ日本語なため私は高等学校以上の漢字だって読み書きできるのだがそんなことを打ち明けたら面倒極まりない自体になるだろう。何のためにいつもこっそり図書室から本を拝借してると思ってるんだ。
「.......出来ました」
違和感を覚えられないよう適度に手を抜く。サラは表情一つ変えずに次の課題を指定してきた。勉強は嫌いじゃない、むしろ学校に通えず退屈な日々を過ごしていたから暇つぶしにもってこいだったが、何せ他人から教わるというのが初めてなので緊張してしまう。
「.......よく、出来ていますね」
ふいに褒められてもどう反応すればいいか分からず視線を泳がせた。
「他人からの賞賛や誉れの言葉には素直に喜ぶのが一番ですよ、その裏にどんな思惑があるかは後に考えればよろしいことです」
私の態度を見かねたサラがため息混じりに零した。
「お嬢様はどうにも出来の割に褒められるという経験が欠如しているようなので、これからはそちらも私が担当致しましょう」
飴と鞭ってやつか。ますます怖いな~と苦笑しながら私はありがとうございますと返事した。
「お嬢様、字の練習がてらに手紙の書き方を教えましょう」
手紙?
「はい。勿論まだ正式なものを書けなんて無茶はいいません、貴方が送りたい相手に今の心中をそのまま書き綴ればよいのです」
手紙を送りたい相手、最初に浮かんだのはクラリスだ。だが彼女に書いたところでアルフレッドが届けてくれるとは思えない。次に浮かんだのは郁だった。無理なことは分かっている、それでも伝えたいことが山ほどあって私はそれを何一つ彼女に言えないまま転生してしまった、未練なら後悔する程には残っているのだ。
「では、アイザックお兄様に」
結局私が選んだのは無難な選択。彼なら私からの拙い手紙を貰っても笑顔で受け取ってくれそうだからだ。
いざ書こうとすると内容が思い浮かばない。サラには何でもいいからと言われたが、だからといって「いつもありがとう」だけじゃあまりに素っ気ない。私は丁寧にリリアンと会った日のお礼、そしていつも気にかけてくれていることがどれだけ有難く嬉しいか書いてみた。アルフレッドという魔王みたいな男がいる現環境でアイザックだけが私の癒しだ。
「書けましたか」
「.......はい」
いつの間にか随分時間が経っていて何か小言を言われるかと身構えた私にサラは普段の鉄仮面を剥がし笑いかける。
「楽しそうにお書きになられていましたね、きっと素敵な内容になっていますよ」
「読まないんですか?」
てっきりチェックされるものと。
「言ったでしょう? これは正式な書面ではないと。それに最初に目を通すべきは私ではありません」
自分の手で渡してきたらどうですか?
なんて言い出すサラ。この一見怖そうなロッテンマイヤー(アルプスの少女ハイジより参照)さんは慈悲深いのかもしれない。
「ついでに婚約者のブラウン様にも書きましょう」
「いやそれは面倒くさ」
「書きましょうね?」
「はい.......」
私はほんの少しだけ行儀見習いを学ぶのが苦ではなくなった、多分!!
外出は時折アイザックが訪れ散歩に誘ってくれた時やアルフレッドに呼び出された時ぐらいか。結局病弱であろうがなかろうが私は出不精らしいことだけが判明された。
そんな私の生活が一変される出来事が起こるとも知らずに。
「今日から君専用の侍女になるサラだ」
「サラ・フィッツに御座います」
侍女? ベーカー家に出入りする者なら少なからず知っているアイリーン嬢は妾の子という事実。世話をする側もデリケートすぎるこの問題にどう対処すればいいか分からず私はベーカー家で取り扱い注意人物として危険視されている。だから私の侍女や世話係は皆日替わり制だ、ランチみたいだが。
サラと名乗ったのは二十代半ばくらいの背の高い女性だ。薄茶色の髪を頭の上で団子にし、前世ではメイド服と呼ばれていた紺色のワンピースを着込み、こちらが恐縮するほど背筋を伸ばしている。分厚い眼鏡の奥にはギラギラと私を見定めようとする威圧感があり、はっきり言って怖い。
「アイリーン・ベーカーにございます」
スカートの裾を柔らかく掴み一礼する。一瞬眼鏡のレンズが光った。
「.......まぁ挨拶は出来るようですね」
「アイリーンもそろそろ行儀見習いを教わるべきだと思ってね、急遽来て頂いた」
つまり、これから彼女が私に四六時中付きっきりで貴族とは何たるかを指導するわけか。アルフレッドめ余計なことを。
「それではお嬢様、本日よりよろしくお願い致します」
張りのある声だ。私は若干青ざめながらも逃げられないだろうなと覚悟を決めた。
「ナイフとフォークの置き方が違います。やり直し」
「そうではありません、肉料理を最初に全て切り分けるのはマナー違反ですよ」
「はし? なんですかそれ? 」
「デザートは味の薄いものから頂いてください.......甘いものが得意じゃない? 知りませんよそんなこと」
スパルタだ、鬼教官だ!!
前世ではテーブルマナーどころかろくに外食も出来なかった私にとって全てが初めて知ることばかりだ。サラはそんな私に手当り次第目に余った行為を指摘していく。そういえば前世でもクラリスにもほとんど怒られたことないんだったな私、ある意味新鮮な彼女の態度にまだ馴染めずも嫌な気はしなかった。
「本日は字の練習をしましょう」
サラはそう言って私に簡単な読み書きを教えていく。ここはゲームの世界で言語も慣れ親しんだ日本語なため私は高等学校以上の漢字だって読み書きできるのだがそんなことを打ち明けたら面倒極まりない自体になるだろう。何のためにいつもこっそり図書室から本を拝借してると思ってるんだ。
「.......出来ました」
違和感を覚えられないよう適度に手を抜く。サラは表情一つ変えずに次の課題を指定してきた。勉強は嫌いじゃない、むしろ学校に通えず退屈な日々を過ごしていたから暇つぶしにもってこいだったが、何せ他人から教わるというのが初めてなので緊張してしまう。
「.......よく、出来ていますね」
ふいに褒められてもどう反応すればいいか分からず視線を泳がせた。
「他人からの賞賛や誉れの言葉には素直に喜ぶのが一番ですよ、その裏にどんな思惑があるかは後に考えればよろしいことです」
私の態度を見かねたサラがため息混じりに零した。
「お嬢様はどうにも出来の割に褒められるという経験が欠如しているようなので、これからはそちらも私が担当致しましょう」
飴と鞭ってやつか。ますます怖いな~と苦笑しながら私はありがとうございますと返事した。
「お嬢様、字の練習がてらに手紙の書き方を教えましょう」
手紙?
「はい。勿論まだ正式なものを書けなんて無茶はいいません、貴方が送りたい相手に今の心中をそのまま書き綴ればよいのです」
手紙を送りたい相手、最初に浮かんだのはクラリスだ。だが彼女に書いたところでアルフレッドが届けてくれるとは思えない。次に浮かんだのは郁だった。無理なことは分かっている、それでも伝えたいことが山ほどあって私はそれを何一つ彼女に言えないまま転生してしまった、未練なら後悔する程には残っているのだ。
「では、アイザックお兄様に」
結局私が選んだのは無難な選択。彼なら私からの拙い手紙を貰っても笑顔で受け取ってくれそうだからだ。
いざ書こうとすると内容が思い浮かばない。サラには何でもいいからと言われたが、だからといって「いつもありがとう」だけじゃあまりに素っ気ない。私は丁寧にリリアンと会った日のお礼、そしていつも気にかけてくれていることがどれだけ有難く嬉しいか書いてみた。アルフレッドという魔王みたいな男がいる現環境でアイザックだけが私の癒しだ。
「書けましたか」
「.......はい」
いつの間にか随分時間が経っていて何か小言を言われるかと身構えた私にサラは普段の鉄仮面を剥がし笑いかける。
「楽しそうにお書きになられていましたね、きっと素敵な内容になっていますよ」
「読まないんですか?」
てっきりチェックされるものと。
「言ったでしょう? これは正式な書面ではないと。それに最初に目を通すべきは私ではありません」
自分の手で渡してきたらどうですか?
なんて言い出すサラ。この一見怖そうなロッテンマイヤー(アルプスの少女ハイジより参照)さんは慈悲深いのかもしれない。
「ついでに婚約者のブラウン様にも書きましょう」
「いやそれは面倒くさ」
「書きましょうね?」
「はい.......」
私はほんの少しだけ行儀見習いを学ぶのが苦ではなくなった、多分!!
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